表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/42

閑話:???視点

 綺麗事を言うヤツが嫌いだ。いままで他人を苦しめてきたくせに平然と手を差し伸べるなんて信用できない。人間と俺たち亜人種が分かり合えるだと! ふざけるな! 戦争? 終わらない争いの連鎖? そんなもん上等だ! 人間なんて滅んでしまえばいいんだ!


 人間の娘が俺たちに話があると一斉に集められその言葉を聞かされる。 娘の容姿は美しく、種族関係なくその魅力に目が惹きつけられる。だが、その言葉は甘く愚かで穢れのない綺麗事ばかりだ。娘の存在感が聞く者に力ある言葉として響いているのかもしれない、その微笑みが、美しい涙が、否応なしに視線を釘付けにする。俺だって目がはなせない。それでも、決して騙されてはいけない。惑わせられてはいけない。人間が本当に亜人種との共存を望むわけがない。俺たちが人間を滅ばしたいように、奴ら人間だって俺たちを根絶やしにして滅ぼしたいにきまっている。騙されるな! 甘い言葉に乗るな! その娘に現実を見せてやれ!


 気が付くと俺はナイフを握りしめ、周りが咆哮を上げるなか自分の思いをのせ力一杯娘に向かってナイフを投げつけた。 


 ナイフは娘の頬をかすめて通り過ぎ、美しい銀糸のようなプラチナの髪とともに地面へ赤い滴が落ちた。



「「レティ!」」

「「姫!」」


 セガール様が娘を抱きしめその身を庇った。幹部の亜人種達も娘の周囲を囲う。


 娘は自分の頬を触り唖然としているようだ。 



「レティ、大丈夫か!」


「今ナイフを投げた者は誰ダ! 姫には危害を加えるなと伝えたはズ!」


「命令違反は厳罰ニャ!」



 幹部の連中は騙されているんだ! その娘が自身を傷つけられ、本性をさらけ出せば目が覚めるはず。さあ、泣き叫べ! 俺たち亜人種を恐怖しろ! 無様な姿をさらせばいい!



 俺がナイフを投げたとわかった兵士に取り押さえられる。


「放せ、放せよ! なんだよお前ら人間の味方すんのかよ!」


「黙れ! お前何したかわかってんのかよ!」


「人間の娘が甘いこと言ってるから現実みせてやろうとしたんじゃねーか! 今までどれだけの血が流されたと思ってるんだ! そいつだって自分の血をみれば現実ってヤツがみえるだろうが! どうだ! 怯えてものもいえないだろうっ」



 言いたいことは言ってやった。これで仲間たちも目をさますだろう。これでおれが厳罰されようがかまわない。おれは正論をいったまでだ、正しい行動をしたんだ!



 だが、怯えているはずの娘はしっかりした足どりでこちらへ歩いてきて、目の前でしゃがみ、俺の顔をのぞきこんだ。



「な、なんだよ、なにみてんだよ!」



 娘の行動の意図がわからず困惑する。娘の顔に恐怖などない。怯えが一切みえない。何故だ。ナイフを投げつけられたんだぞ! そのご自慢の美しい顔を傷つけたやったんだぞ! なんで、なんでそんな瞳を輝かせて俺をみる、やめろ、やめろ、なんなんだ。


 そして、混乱する頭に意味不明な娘の言葉が聞こえた。


「私が君を守る。だから心配しないで」


「は?」


 守る? 俺を? おまえが……? なんだ、どうゆうことだ。自分を傷つけたヤツをなんで守る? 何から守るんだ、お前と同じ人間からか? 人間のお前が人間に背をむけ俺たち亜人種を守るとでもいうのか。自分が何を言っているのか理解しているのか? 


「レティ、何を言っている! こいつは君を傷つけたんだぞ!」


 そうだ、そのとおりだ。


「傷つけられたから? それがどうしたというの?」


 どううしたというのって……いや普通……


「……お前怖くないのかよ」


「あなたを怖がれっていうの? 無理よ、傷つけられたから傷つけ返さなくてはいけないの? 違うでしょ。痛みには痛みを。そうでなければいけないの? いいじゃない、痛みには優しさを、復讐に悲しい結末ではなく皆が幸せな結末があったって。それともあなたは痛みを望む?」


 傷つけたら傷つけ返すのが普通だ。痛みには痛みを、そうであるはずだろ。なんだよ、怖がれよ、復讐には悲劇がお似合いだ。俺には覚悟がある。人間を滅ぼすんだ、どんなに傷つこうと、血を流そうと、どんなに辛くても、苦痛があったとしても。おれは痛みを覚悟している。でも……、望んでいるわけじゃない。 


 人間が俺たちを傷つけるから、だから俺たちも奴らに復讐するんだ。俺はお前を傷つけた、ならお前も俺を傷つけるのが当たり前だろ。なんで頬から血を流しながらそんな目で俺をみる。わからない、お前がわからない。人間が憎いと、滅ぼせと叫んでいた心に響いたお前の納得できない言葉。綺麗事であるお前の言葉を信じそうになる自分に戸惑う。


「お、おれは……くそっ!」

 

 混乱した頭にはもはや周囲の雑音が遠くのことのように聞こえる。俺は拘束され牢屋に入れられた。



 今まで、幸せな結末なんて考えたことなどなかった。人間を如何に滅ぼすか。どうすれば奴らを殺せるか。圧倒的数の人間にどうすれば俺たち亜人種が味わってきた苦しみを思い知らせることができるのか。そんなことばかり考えてきた。亜人種が平和に暮らせるようにと、そのための戦いであるまえに、人間への復讐に囚われすぎていたかもしれない。戦い続けることでいつか平和をと……本当に戦い続けて平和になるのか? 戦うことばかり考えて本当に平和に暮らすこととは何か考えたことはあっただろうか。どうすればいいのかわからない。 


 


 あの娘に、彼女についていけば本当に幸せな結末というものをみせてくれるのだろうか。


 

 傷を負いながらも毅然と話す彼女の姿が目から離れない。





 人間を信じかけている自分が馬鹿馬鹿しく思える反面、ドロドロした心に一筋の光が灯ったことを感じた。   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ