第21話:レティ16歳 「よろしいならば戦争だ・・なんちゃって、え」
セガールの発言のせいで全部もっていかれ、どうしようかと焦っていたレティの視界が一瞬キラリと光る銀色のものを捕えた。気づいた時には頬をかすめて通り過ぎ、パラパラとプラチナのような髪が地面へ散りばめられその上に赤い滴が落ちていた。
「「レティ!」」
「「姫!」」
セガールがレティを抱きしめその身で彼女を庇う。近くにいたグレイ、キャシー、フォンも駆けつけレティの周囲を囲う。
レティはそっと自分の頬に手を触れた。その指先には真っ赤な鮮血がべったりついていた。
(わっ、真っ赤な血! 私の血ピンクとか緑じゃなかったのか。異世界だから血の色も違うのかなーって考えてたこともあったけど……そういえばセガールに殴られたクリスは赤い血吐いてたな。やっぱ血って赤いんだ。……クリス生きてるかなー。いつも見慣れ過ぎてうんざりしてたけど、なんか皆が恋しくなってきたよ。拝啓、マミィ、パピィ、兄様達、メイドの皆、私はモフモフ戦士たちに囲まれて元気にやってますよ、そちらはいかがお過ごしですか)
ちょっと現実逃避に浸るレティ。
「レティ、大丈夫か!」
「今ナイフを投げた者は誰ダ! 姫には危害を加えるなと伝えたはズ!」
「命令違反は厳罰ニャ!」
皆警戒態勢でナイフが飛んできた方へ意識を向ける。レティは命令とはいえ自分を庇ってくれる彼らに少し驚いた。亜人種と手を取り合って共存を目指したいといってもそれが難しいことはわかっている。なぜかセガールは自分を気に入り嫁にまでしたいといっているが、他の亜人種が自分を、人間を受け入れ手を取り合うことを望んでいないのは自分を見る彼らの目を見れば明らかだった。そんな中で彼らが自分の身を心配し前に立ち庇ってくれたことがうれしかった。
「大丈夫、平気」
切れた頬を手で触ってみたが薄皮1枚切れた程度で出血量は多いが見た目ほど傷は深くないみたいだ。痛みもピリピリするだけで大したことはない。
しかし、冷静に現実を受け止めてみると……これってヤバクね?
顔に傷がついたのだ。レティは自分の美しさを客観的によく理解している。傾国の美貌であると。決してナルシストではない。自分で自画自賛せずともまわりが無駄に褒め称えてくるのだ。この容姿は皆に愛されている。 家族に、王宮のみんなに、国中に、この世界に。
レティの顔に傷がついた。亜人種がつけた。このことが家族に伝わる。きっとすぐに、よろしいならば戦争だとなるだろう。ヤバイ、テラヤバス。顔から一気に血の気が引いた。死ぬ、死ぬ、死ぬ。これは確実に死んだな、私の顔傷つけた人。
心配そうにこちらをみるセガール。レティの頬に触れ傷が深くはないと知り安堵している様子だが、瞳には激しい憤怒の色がみられる。
騒ぎの中、ナイフを投げた者が取り押さえられる。レティは取り押さえされた亜人種をみて目を限界まで見開いた。
「放せ、放せよ! なんだよお前ら、人間の味方すんのかよ!」
「黙れ! お前何したかわかってるのかよ!」
「人間の娘が甘いこと言ってるから現実みせてやろうとしたんじゃねーか! 今までどれだけの血が流されたと思ってるんだ! そいつだって自分の血をみれば少しは現実ってヤツがみえるだろうが! どうだ! 怯えてものもいえないだろうっ」
セガールの腕から必至に抜け出し取り押さえられている彼に近づいた。
「おい、レティ近づくな!」
セガールは止めるが構わず近寄る。
(きゃわわわわわわわーきゃわいいいいいいいいいい! え、何この子、鳩? インコ? 何の亜人種かわかんないけど真ん丸お目めがなんてかわいいのかしらあああああああ)
地面に押し付けられ、這いつくばっている彼のもとに近寄り、目線を合わせるためしゃがんで目を覗き込んだ。
「な、なんだよ、なにみてんだよ!」
(なんて無垢な瞳。黒くて真ん丸でうるうるしてる。怒って叫んでるけど目が純粋すぎてその憎悪が目に映されていない。恐るべし亜人種。どんだけ私のストライクゾーンのバリエーション持ってんのよ。いいなーかわいいなー! インコ飼いたいなー! あ、でもこの子が私にナイフ投げたんだよね、ヤバイ、この子消されるんじゃね? そうだ!)
「私が君を守る。だから心配しないで」
「は?」
「レティ、何を言ってる! こいつは君を傷つけたんだぞ!」
「傷つけられたから? それがどうしたというの?」
「……お前怖くないのかよ」
「あなたを怖がれっていうの? 無理よ(だって見た目可愛すぎるもん)、傷つけられたから傷つけ返さなくてはいけないの? 違うでしょ。痛みには痛みを。そうでなければいけないの? いいじゃない、痛みには優しさを、復讐に悲しい結末ではなく皆が幸せな結末があったって。それともあなたは痛みを望む(ドMの変態さんなのかしら)?」
まわりがシーンと静まりかえっている。
「お、おれは……くそっ!」
彼は何かいいたいがうまく言葉にできずにいるようだ。
「レティ、俺はお前に幸せな結末を望もう。だから早く結婚して子供を授かろう!」
そういって私を抱きしめるセガールの瞳は先ほどのように怒りの色は見られず、嬉しそうな、誇らしげな顔をしていた。ウゼ。くどい。
「テラゴメン、スンマソン、ウルトラ無理」
力の限り精一杯断ったがセガールには伝わらなかったみたいだ。頬の傷をぺろぺろされる。ばっちぃ! 放さんかい!
そして騒動は収まる間もなく新たな混乱を引き連れてやってきた。
「伝達! カルバントの兵団が押しかけてきております! どうやら此処の場所を嗅ぎつけられたみたいです」
「ここに人間どもがやってくるのか!」
静まりかえっていた場がいっきにざわついた。
「ぬ、予定より少し早いが、まあいいか。おい、こいつは牢屋につないどけ。他の奴らは指定の配置につけ。レティ、カルバントの兵士達を一緒に出迎えてやろう」
(な、なんだってぇー)
セガールに抱きかかえられ連れていかれるレティ。どうなるレティを傷つけちゃった鳥の亜人種! レティの願いも虚しく戦争になるのか? はたして無事カルバントの皆と再会をはたせるのか……つづく




