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第18話:レティ16歳 「すぐに行きますから無事でいてください姫様!」

『レティは俺のものだ。ここから攫っていく』




 ふざけるな! 姫様は貴様のものではない! 私の、私だけの―――




 目の前に突き付けられた最愛の存在を奪われるシーンから意識は急激に浮上した。そして目覚めて開けた視界に入ってきたのは白い天井だった。



「はっ、はぁ、はぁ、姫様は……」



 クリスは白いベッドから起き上がる。急に起こした体は全身に倦怠感が広がりまるで鉛のように重かった。 


(確か城内に亜人種が入り込んで、その中にティーグレがいて、そして奴は姫様を狙って……それからどうなったんだ! 私は、私は姫様をお守りすることができず意識を失うなどなんという体たらく! 姫の専属執事の私が! ああああああああああああああああ姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様ッ) 


 自分の情けなさを責め、その思考が姫様一色に塗りつぶされたクリスだが、すぐにその後のレティがどうなったのか知るべく事情がわかる者を問いただすため部屋から飛び出した。


 部屋を出てすぐ人にぶつかり、その衝撃で体が後ろに傾いたクリスはふらふらの足でバランスをとることができずそのまま床に倒れてしまった。


「まあ! クリスさん、目が覚めたんですね……って大丈夫ですか!」


 ぶつかったのはレティ付きのメイドだった。いつも姫様の世話をもっとさせろと文句ばかりいってくる面倒なメイドだ。だが今はそんなことなどどうでもよくて、クリスはレティが今現在どうなっているのか知ることだ重要なのだ。クリスはメイドの両肩を勢いよくつかみ言葉をぶつけた。


「姫様は! 姫様は今何処にいらっしゃるのですか!」


「痛い! 痛いですクリスさん! 手を放して下さい……てめッ、この放せつってんだろうが!!」


 力任せにギリギリと肩をつかまれたメイドがブチ切れてクリスを突き飛ばす。そのまま廊下の壁に激突するクリス。


「あ、ごめんなさいw」


「っ痛」


「……ええと、姫様ならエドワード様とダニエル様が捜索部隊を結成して亜人種が逃げ込んだ森を捜索していますがまだ居場所は特定できていないそうです。というか、なぜ姫様が攫われたのか詳しい状況など一切わかっていないので、逆に、姫様が攫われた現場にいたクリスさんにその時の状況を詳しく教えてもらいたいくらいなんですが? 体はって姫様守ろうとしたのはわかりますが、実際守りきれず攫われてしまってるわけで? もし私達の、愛しい愛しい姫様にもしものことがあったらあなた一人の命じゃ償うどころかなんの足しにもならないんですよ? 野蛮な獣のような亜人種に攫われたんですよ! 私達の姫様が! あの美しくなめらかな姫様の柔肌に傷がついていたら、いつもお優しい心が恐ろしさに震えているとしたらと考えるだけで……あああああああああああああああ姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様ッ、はぁ、はぁ、はぁ、失礼」



 狂ったように姫様一色の思考に染まったメイドだがすぐに意識を取戻し自身を落ち着かせたようだ。狂ったよう、ではないな。私達は姫様にどうしようもなく狂っているのだ。その狂おしいほど愛しい存在が消えた。では狂っている私達はどうなる? 狂気に溺れ、激情がすべてを覆い、すべてを破壊つくすだろう。求めるものが手にはいるまで、虚無に苛まれた心が満たされるまで。



「ああ、わかっている。姫様は必ず私が奪いかえす! もしも姫様に傷ひとつついていようものなら奴らを根絶やしにするまで駆逐してやる」


「もちろんです。さっさと私達の姫様を奪いかえしてきてください。もしも姫様が無事でなかったら私達が、亜人種も、クリスさん、あなたもただではおきませんからね」


「……ああ」




 重い体に鞭打ち、クリスは前に進む。







 至上の主を




 最愛の存在を




 奪われた自身の命よりも大切なあなたを取りもどすため












すぐに行きますから無事でいてください姫様!

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