第17話:レティ16歳 「シリアスモード搭載」
右腕には子犬のフサフサした毛並みの生き物、左腕にはテディベアのモフモフした生き物、腹の上には体を丸めた艶やかな毛をしたキツネのような生き物。なんだこのモフモフ天国は。幸せすぎて死ねる! いや死なないけどな!
セガールに放り込まれた部屋で、レティは愛らしい亜人種の子どもたちに囲まれていた。わらわらとレティの傍まで駆け寄ってくる子どもたち。子犬のような子、小熊のような子、キツネ、鳥頭、子狸など様々な外見をした子たちがみんな二足歩行で立っている。
「ひめさま何してあそぶ?」
「追いかけっこしよう! ぼく追っかける役!」
「わー逃げろー!」
「ひめさま、一緒ににげよう!」
キャッキャキャッキャと部屋の中を駆け回る子どもたち。なんだかよく分からないが、とりあえず遊びに付き合うレティ。たいして広くはない部屋を走りまわるがすぐに体力がないためバテてしまった。
(こ、この子たち異常に足早すぎ! おそるべし!)
疲れてその場にへたり込み、そのまま仰向けになって寝ころみ息を整える。そんなレティをみて追いかけっこをしていた子たちは再びレティの傍に駆けよってきた。
「ひめたま、ねんねするの?」
「ぼくもひめさまとねるー」
「ぼくもー」
わらわらと各自好きなようにレティに抱きつきレティを枕にする。
「ひめさまいい匂い」
「ほんとだー」
「やわらかいねー」
レティはモフモフとした毛並みや子供の温かい体温に包まれた。
(なんだこのモフモフ天国は。幸せすぎて死ねる! いや死なないけどな!)
冒頭に戻る。
あまりの心地良さにレティは眠気を誘われる。先ほどまでは全然眠くなどなかったが心地よい生き物の体温にうとうとしてきた。
そのまま瞼を閉じ、意識を手放そうとしたのだが……
「ひめさまって『ニンゲン』なんでしょ?」
「えー! 『ニンゲン』って怖くておそろしい生き物なんでしょ?」
「ひめさま怖くないよねー」
「『ニンゲン』はお母さんを殺した危ないヤツらだから絶対近寄るなってお父さんいってた!」
「ひめさまも危ないの?」
子どもたちの言葉に目が醒めた。
「みんなのお父さんお母さんって……」
レティは恐る恐る聞いてみた。
「お母さんはね、ぼくが生まれてすぐ『ニンゲン』に殺されたんだって。 お父さんはセガールさまと一緒に『ニンゲン』をやっつけるための兵士になってはたらいてるんだよ!」
「ぼくはお父さんもお母さんも生まれてすぐ殺されちゃって、ひとりでいたところを拾われたんだって。」
「ぼくもだよー」
ニコニコ笑顔で笑いながら身の上話をする子ども達だが、その内容は笑顔で話せるものではない。しかし幼いが故、自身の状況を理解していな故、笑顔で何てことはないように自分の家族におこったことを話してくれた。
(この子たちの家族を殺したのは私じゃない。私が悪いわけじゃないけれど、この子たちの家族は人間に殺された。悪いのは人間だ。そして私はその人間。この子たちに恨まれて当然の対象でもある。)
「みんなは人間が憎い?」
「にくい? にくいってどういうこと?」
「大人はみんな『ニンゲン』が怖い恐ろしいっていうけどぼくたちにはよくわからないよねー」
「ねー」
今はまだ人間の残虐で非道なところを理解できていないこの子たちだが、成長し、自身の状況を理解できるようになったときはきっと人間を恨まずにはいられないだろう。それを考えると胸が痛む。
亜人種が人間から迫害を受け、ただでさえ少ないその数をさらに狩られてきたのは以前からわかっていたことだ。それでも私は何もしようとはしなかった。いつか誰か救世主的な存在が現れてこの種族間の争いを止めてくれるだろうと、自分じゃないだれかがいつか、と思っていた。
でも救世主なんて、そんな存在現れなかった。そして私は現在進行形でその争いに巻き込まれている。いつか誰かがなんて言ってられる状況じゃない。
(私が何とかしなきゃ、とはいっても、作戦考えられるほど頭もよくないしなー。何にも策が浮かばない! セガールがいっていたみたいにセガールと結婚したとして、人間の亜人種への迫害はなくなるのか……いや無理だな。私の家族が黙ってないから即戦決定だろうし、うーん)
ひとり悶々と悩むも解決策など浮かばない。
(私武器ってなによ、外見の良さ? それが何の役にたつのよ……いや、まあ、いろいろ役にたってることもあるか。でもほかになにがある? なにが出来る? 何をしたらいいの!?)
唸るレティにどうしたのかと不安げな亜人種のこどもたち。
「ひめたま、どうしたの? どこかいたいの?」
「ひめたま?」
心配そうにみてくるこの子たちが愛らしい。何故人間はこんなにも愛らしい存在を殺せるのか。不思議でならん。
何もしなければこのまま戦になる。そうすれば人間、亜人種ともに多くの命が失われるだろう。そんなのダメだ。自分に関係なければどこの誰が死んでも構わないと思っていたけれど、というか今でもそう思ってるけど、私はもう関わってしまったのだから。この子たちが狩られるようなことが有るとしたら黙ってみてなんていられない。
(あーもう! 悩んだって答えなんかでないんだから。私ひとりで悩んでも答えだ出ない、だったら皆で考えるのよ! 亜人種、人間、皆で考えて皆で答え出せばいいじゃない!)
まずは行動。いくら頭で考えても状況は変わらない。動かなければ何も始まらないんだから。
あ、でも、とりあえず今はもう少しこのモフモフを堪能させて下さい




