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第16話:レティ16歳 「モフモフ天国!」

 目の前には、モフモフ。 






 見渡す限り、モフモフ。






「ひめたまー。いっちょにあそぼー!」 



 



 モフモフの1匹が駆け寄ってくる――――どうしてこうなった?












◇◇◇


 ブレイブに作ってもらったデザートをいただきお腹が満たされたレティは、再びセガールにお姫様だっこされ大きな扉の前まで連れられてきた。 


(でっかい扉だなー。これ成人男性2~3人いても開けられないんじゃね。これはあれか、「開け、ごま」的な呪文で自動ドアみたいにあくのかな?)


 鉄で作られた重厚な扉の迫力に唖然としていたレティだが、セガールはレティを片腕で抱きかかえ直すとあいた片手で扉をいとも簡単に開けた。 


(うお、簡単に開いた。もしや見かけ倒しの張りぼてなのかな? あとで確かめてみよう!)


 部屋に入ると中央に長いテーブルがあり、さまざまな種類の亜人種が席についていた。猫顔、犬顔、鳥顔、キツネ顔、他様々。セガールは空いていた席に着く。レティを抱きかかえたまま。


(ふわわわわ、いろんな種類のモフモフがいるお! やばい! テンションあがる!)


 普通の人間は亜人種をみたら恐怖するもの。ましてや大勢の亜人種に囲まれる状況になったら気絶してもおかしくはない。だが、レティは普段見ることのない様々な(亜人種だけど顔は)動物をみることができて心が躍った。動物園にきて喜ぶ子供の気分だ。



「皆、紹介しよう。この娘はレティ。レティツィア・マリアージュ=カルバントだ」


「な、カルバントですと! その子供はカルバント帝国の、ディートハルト国王の縁の者なのですか!?」


「ああ、ヤツの娘で、カルバント帝国の姫だ」


「何故そのような娘がここにいるのニャ!」

 

「カルバントから攫ってきたのだ。以前から皆に話そうと思っていたのだがな、俺達は人間に迫害を受け、仲間を失い、その憎しみからずっと争いを続けてきた。いつか人間をこの地から追い払い、安息できる場所を取りもどすため、戦って、戦って……しかし仮に人間をこの地から追い出せたとしてだ、いっときの間は安息が訪れるだろう。だが、やがて人間は再び俺達の居場所を奪いにくる。この地の人間をすべて殺しつくしたとしてもいずれ別の国の人間がこの地を治めようとやって来て争いの連鎖は続いていく。それではなんの解決にもならないだろう」


「セガール様、何をおっしゃられたいのカ。我々に戦う道しかないのですヨ? 戦わなければ我々は滅びるのでス」


「そうですよ! その話とその娘にいったいどんな関係があるのですか!」


(はっ! そうよ! いったい私になんの関係があるっていうのよ!)


 敵であるカルバント帝国の姫が目の前にいることでいきり立つ亜人種。未だに連れてこられた理由を教えてもらっていないレティ。部屋の中はピリピリとした空気が張り詰めていた。そしてそんな空気の中、セガールは言い放った。



「うむ。俺はレティと結婚しようと思う」



「「「「は?」」」」



「そして子どもは少なくとも3人は欲しい」



「「「「どどどどういうことですかー?!」」」」



「セガール、どういうこと(なのよ! 結婚て、どっからそんな話になったのよ! 私と結婚してどうやって人間と亜人種の争いに終止符うつのよ!)」


 レティは思わずセガールの胸倉をつかみ上げる。


「心配するな、亜人種と人間でも契りをかわし子を成すことができるのだ。レティの小さな体には少々俺の大きさは酷かもしれぬが、できる限り優しくする。俺の子を産んでくれ。」


(何の話をしてるのおおおおおお! 誰かちゃんと説明してええええええ!)



「……カルバント帝国の姫と亜人種の王の婚姻。これを機会に人間との共存の道を作りだそうということですカ?」


「馬鹿ニャ! そんなの無理ニャ!」


「気は確かなのですか、人間の娘と契りを交わすなど!」


「人間の中にも俺達に手を差し伸べてくれる稀な存在もいる。人間すべてが憎悪の対象ではないのだ。俺もはじめは人間すべてが憎かった。しかし、レティに出会って変わったのだ。そして争いではない、共存の道を考えたのだ」


「そんなの夢物語りにすぎないニャ! セガールはその娘に唆されたのニャ!」


 猫の亜人種はレティを厳しく睨みつけた。しかし、レティは瞳を輝かせて見つめ返した。


(わわっ、猫の亜人種がこっちみてる! ニャーニャー言ってて可愛い!)


「な、なんニャ、何でそんな目でみてくるニャ! お、お前なんかにウチは騙されないニャー!」


(なんかプルプルしだした! ちょ! 可愛い! 可愛い! モフモフしてー!)




 セガールの腕から抜け出し、猫の亜人種に近寄り――――




 そっと手を差し伸べた―――





 モフモフのアゴに。





 モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ……エンドレス。




「はふん、き、気持ちいいニャー」



(やばい! 楽しい!)





「おい、キャシーが手玉に取られたぞ」


「あの娘、この状況で堂々とキャシーを手なずけるとは!」




 モフモフを堪能していると、その腕をやんわりセガールにつかまれ、そのまま手をセガールの顔に持っていかれる。


「レティ。俺以外の者に気安く触れるな。触れるなら俺の方を触れ」


「ごめんなさい(あまりのモフモフ加減に我を失いそうだっだぜ)、キャシーさん(だったっけ?)、初対面でいきなり無礼でしたね(すまぬ)」


 仕方なくセガールのモフモフを堪能する。


「べ、べつに……もっと撫でてほしかったニャ(ボソッ)」


 



「デ、セガール様、その娘を攫ってきテ、具体的にこのあとどうするのですカ?」


 鳥……鷹かな? 鷹の顔をした亜人種がセガールに問いかける。


(そうだよ、私この後どうすればいいんだよ)




「ディートハルト国王に書状を出す。内容は人間と亜人種の共存のための協定について、そしてレティとの婚姻についてな。あとはあちらの出方次第だが、おそらく婚姻には反対してくるであろう」


「……それでは結局、戦になるのでは?」


「レティがこちらにいる以上、即戦にはならないだろう」


(私が結婚するって聞いたら、パピィはなんとかなっても、変態執事&メイドは暴走して、お兄様達はたぶんブチ切れて即戦になるよ!)


「そりあえず、今日からレティはここに住むことになったのだ。各部署にレティの事を伝達しておいてくれ。仲間の中には人間に恨みがある者も少なくないが、けっしてレティに手を出さないように釘をさしておけ。絶対に傷ひとつつけるなと」


「わかりましタ」


「・・・はい」


「りょ、了解ニャ!」


 そしてセガールはレティを抱きかかえ、部屋をあとにする。部屋に残された亜人種達はそれぞれ複雑な心の内を秘め、ただ互いに顔を見合せていた。





◇◇◇







「レティ、すまないが少しの間この部屋にいてくれ。俺は少々やらなければならないことを片づけてくる」


「わかった」


 レティは部屋の前におろされる。やっとまた一人になれると気を抜いたのだが、セガールが部屋の扉を開けると……



「皆、今日から一緒に暮らすことになったレティ姫だ。仲良くするように」


(えっ?)



「あー、セガールしゃまだー!」


「わーい!セガーさまー!!」


「隣の人だれー?」


「れてぃひめだってぇ」


「ひめたまー?」


 

 部屋のなかには亜人種の子どもがあふれていた。



「では、また後でな」



 そして部屋にのこされたレティ。



(え? ちょ、わわ、私にここでどうしろとー!)



「ひめたまー。いっちょにあそぼー!」





















モフモフヘブン!

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