第10話:レティ10歳 「突然の訪問者」
テーブルマナーも完璧にマスターし、両親と一緒に豪勢な朝食を優雅に食べていたそんな中、ある一報が届いた。
「陛下、どうやら隣国のアデライルより使者が参ったようです」
(アデライルってたしかこの近隣国のなかではカルバントと同じくらいの大国だっけ。クリスに教えてもらった限りではうちとは協定やら同盟やら結んでて特に国同士の争いとかない比較的親交のある国だったと思うけど、何かあったのかな?)
先日学んだアデライルについて考えていると、隣で給仕していたクリスがうっとりこちらを見て満足げにうなずいていた……何、もしかして私の考えてること読めるの? コワイ。
「アデライルからだと。いったい何用であろうか……で、使者には誰が参ったのだ?」
「それが」
パピィと事務官が話している最中、唐突に扉が開かれ勢いよく金髪でド派手な格好をした人が入ってきた。
「久しいなディートハルト! この私がわざわざ遠くから会いに来たというのに盛大な歓迎で迎えてくれぬとはなんという薄情者め!」
(なんか凄い元気なおっさんが入ってきた……誰?)
「はぁ、アルベール貴様か。突然やってきてなんなのだ」
「まぁ、アルベール様。お久しぶりだわ。レティは会うの初めてかしらね。あの方はアデライル国の国王陛下、アルベール様よ」
「これはこれは、マリアーナ久しいな! 相も変わらず美しい! どうだ、今からでも私の妻にならないか?」
「ふふ、いつものお世辞ありがとうございます」
(ちょ、おっさん! 軽くマミィをナンパして、軽く流されてるw)
「アルベール!」
おっさんのナンパな発言はいつもの挨拶なのかマミィはまったく気にしておらず、パピィも呆れながら対応していた。
「そうだ、今日は息子のダニエルもつれて来たんだ。ほら、挨拶しなさ……あれ? どこ行った?」
すると、遅れて11~12歳くらいの栗色の髪をした利発そうな少年が扉から入ってきた。
「父上! 子どもじゃないんだからいきなり走りださないでくださいよ! それに来訪の知らせもせずに勝手に来たのですから入城の手続きくらいしっかりしてください!」
「おお、どこ行ってたんだ。ほらお前もちゃんと挨拶しなさい!」
「もう! 父上は相変わらず人の話を聞かないいんですから! ……皆さんお騒がせして申し訳ありません。アルベールの息子のダニエルです。よろしくお願いします」
「うむ。今日はお前のとこの神童と噂されるレティ姫を見に来たんだ。さっそく紹介してもらおうか。もしよかったらうちの息子の婚約者にどうかと思ってな!」
「な!? 父上、聞いてませんよそんな事!」
「……婚約者などというふざけた話は置いておいて、レティ、一応挨拶しなさい」
「(コントみたいで面白い親子だな……婚約者? の話は私もスルーして)はじめまして、レティと申します」
私は椅子から立ちあがり、ドレスをつまんで挨拶した。すると……
「なななな!? 人形がしゃべったああああ! ……ん? あ、君がレティ姫か、よろしく。私のことはパパと呼びなさい。しかし、君は本当に生きた人間かね? 精巧につくられた特大サイズの人形かと思ったよ、わははははは! む、しかしこのままいけば将来はとんでもない美女になりそうだね。今でも十分美しいが私にロリータを愛でる趣味はないからね。どうだい、息子の嫁はやめて大きくなったら私の妻になるかい。うん。それがよいな!」
(ぶッ、何この突っ込み満載のマシンガントーク。あんたどんだけ切り替え早ぇんだよ。ちょ、誰か止めなよ。あ、だめだ皆呆れた顔して見てる。はっ、息子のダニエル君! 君ならツッコミを入れられるはず! って、あれ?)
ダニエル君はこちらをボーッとみながら固まっていた。
(おおう、ダニエル少年が固まっとる。え、何もしかして君も私のこと人形だとでも思ってた?)
「はっ、しっ失礼しました。貴方がお噂のレティ姫なのですね。えっと先ほども名乗りましたがダニエルと申します。父上が婚約者とか妻とか変な妄言を言っていますが、僕とは同じ年ごろの友達として仲良くして頂けたら光栄です」
そういってはにかんだ笑みを浮かべたダニエル少年。父親とは比べ物にもならないくらいしっかりしているように見える。おそらくあの父親の背中をみて育ち、あのようにならないよう反面教師にして成長したのだろう。
(……友達か。そういえば私、今まで同じ年ごろの子と友達になったことなかったな。まあ、精神年齢がアレですから無邪気な子どもにまじって遊べって言われても無理だったけど。でもこの子は年のわりにすっごく大人びてしっかりしてるみたいだし、いい友達になってくれるかも。)
はちゃめちゃな父親を持ち苦労していそうな少年。彼とはなんだか仲良くやっていけそうな気がした。おそらくコントのようなやり取りを見せられ少し気が緩んだのか、苦労少年の事を思い同情から憐みの表情になったのか知らないが、少しだけ口角が上がった気がした。
「よろしくね」
私がそう言った瞬間、パピィが持っていたナイフとフォークを手から落とした。
「レ、レティが……笑った、だと?」
そして周りの皆も驚愕の表情で私を見つめていた。
(え、今私笑ったかな? ちょっと口角上がったような気もしなくないけど、別に笑ってないよ)
「姫様の微笑みをはじめて拝見いたしました。なんて儚げでやさしい美しい微笑みなのでしょうか。私は今日そのお顔を見れただけで1ヵ月はご飯いりません」
隣にいたクリスが熱に浮かされたような眼でこっちを見てきた……クリス、私の表情はお前のエネルギー源か何かなのか? ほかの皆も驚愕の表情をしている。正面にいたダニエル君は顔を真っ赤にして今にも倒れそうだ。
「私レティが笑ったの何年か振りに見たわ……そう、レティはダニエル君を気に入ったのね」
はじめは驚いていたマミィが、嬉しそうにこちらを見てきた。
「ふむ、ダニエルを気に入ったか。よし、ではさっそくこの姫を国に連れて帰ろう! さあレティ、新しいパパと一緒に新しいお家に行こうではないか! ふはははははは!」
そう言って私を抱きかかえ連れて行こうとするNewパピィ(?)を、復活したダニエル君が止めた。
「ちょ、父上ー! 何やってるんですか! それは国際問題になる誘拐ですよ! 犯罪ですよ! そもそもあんたの存在そのものが犯罪なんですよ! 人様に迷惑かけてばかりではなく、少しは国王陛下らしく振舞いやがれぇぇ!」
そして父親の後頭部に蹴りを喰らわせ、私がバランスを崩し地面とこんにちはする前に彼は私を自分の腕の中に引き寄せた。
「はッ! しっし失礼しました。お怪我はありませんかレティ姫?」
またもや赤面するダニエル少年はそっと腕の中から私を解放した。 しかしその行動のなんというイケメンさ。今回ばかりは「いけめそ」ではなく「いけめん」の称号を彼に贈りたい。君は将来真のフェミニストになるだろう(キリッ
「まあまあ、なかなかお似合いの2人ではありませんか。ねえ、陛下」
「そんなレティにはまだ早い私はレティに将来はパパのお嫁さんになるとまだ言われてないのにブツブツブツブツ…………」
「おやおや、ダニエルもう嫉妬かい。自分で姫を抱っこしたかったのか! まったくうちの息子はおませさんだなあ!」
……いい加減このカオスを誰か止めてくれないかな。
そうして、私の朝食は突然の訪問者によって半分も食べることができなかった。
突然の訪問者




