閑話 王宮ダンジョン
フィーはポーションのビンを開け、まるで水のように一気に飲み干した。
「――いよっしゃあ! ダンジョンなんか大規模攻撃魔法で崩壊させてやるわよ!」
「……落ち着け落ち着け」
どうどうとフィーを宥めるキナだった。
地脈(竜脈)に流れる魔力を使って形作られることが多いダンジョンを攻撃魔法で壊すのなんて不可能だ。水鉄砲で大河に穴を開けようとするものなのだから。
ちなみにこの世界には火薬を使う鉄砲などないが、魔力を火薬代わりに貯めて使う鉄砲はある。ただし魔力を貯める素材が魔石や髪の毛なので、費用の問題でほとんど忘れられた兵器となっている。
高価な魔石を使い捨てにするのはもったいなさ過ぎるし、魔力を貯めやすい髪の毛も同様だ。リリアやフィーといった銀髪なら大威力の『銃弾』を作れるが希少すぎるし、大量に手に入る茶髪などではまともに兵器として使えるだけの魔力を込められないからだ。
まぁつまり、竹をくりぬいた子供の遊び道具はあるし、『水鉄砲』という名前もあると言うことだ。
閑話休題。
なんとかフィーをなだめすかしたキナは王宮の中庭まで移動した。すでに多くの魔導師団所属の魔導師が集まっているが、何をするでもなく、どうしたものかとばかりに佇んでいる。
「――誰か、状況を報告して」
先ほどまでの取り乱しようが嘘のようにキリッとするフィーであった。この切り替えの速さは父親譲りか。
師団員の中でも高位の魔導師が敬礼しながら報告する。
「本日未明、中庭を見回りをしていた魔導師がわずかな揺れを感知。場所が場所であったので念のため調査をしたところ、ダンジョンらしき入り口を発見いたしました」
「……あぁ、そういえば今朝地震があったわね」
この国で地震は珍しいが、かといってちょっと揺れたくらいで取り乱すことはない。フィーとしても『あら珍しい』程度で済ませていた――というか、過労でそれどころではなかったのだ。
「それで? どんなダンジョンか調査したのかしら?」
「……いえ、まずは師団長の判断を仰ごうかと思いまして」
わずかに視線を逸らした魔導師からは『やだよダンジョンになんて入りたくないよ』という思いが透けて見えた。
まぁ、しょうがない。
エリートである魔導師団員にとって、ダンジョンに潜るのは『才能がなく冒険者にしかなれなかった』魔導師崩れの仕事なのだから。
国家のために敵魔導師やドラゴンなどと戦って戦死することは許容できても、ダンジョンに潜って死んだとなれば笑いものになってしまう。特に貴族子息子女ともなれば一族の恥になりかねない。
(これだって一国家の一大事でしょうが)
そう内心で突っ込むフィーであるが、無理強いする気にはなれなかった。そもそも黒いドラゴンとダンジョンとの関係性も不明で危険すぎるし、なにより、やる気のない人間をダンジョンに潜らせるなど死にに行かせるようなものだ。
ダンジョンとは狭くジメジメとした地下で数日野営できるだけの能力を持っているのが大前提であり、その他にも無数のモンスターに関する知識、すぐに戦闘態勢に移れる即応力、なにより連戦に対応できるだけの体力と精神力が必要とされる。
魔導師団は『戦争』ならば無類の強さを誇るが、ダンジョンに投入したところで死体が積み上がるだけだろう。それは優劣ではなく専門性の違いだ。
その辺はキナも分かっているのか無理強いすることはなかった。
「ダンジョンかぁ。どうするよ? 冒険者あたりに依頼するか?」
キナもダンジョン攻略に興味がないわけではないが、さすがに冒険者並みの結果は残せないだろう。
「半壊しているとはいえ、王宮だもの。そこらの身分不確かな冒険者を入れるわけにはいかないわね」
「……めんどくせぇからリリアに丸投げするか?」
「ダメよ、リリアちゃんなら何とかできるでしょうけど、あの子はあれでも、信じられないことに、どうしてああなったか分からないけれど、『救世主様』になってしまったのだから。いきなり救世主に頼み事をしたとなれば私とあなたのクビくらい飛ぶわよ?」
「めんどうくせぇなぁおい」
「でもリリアちゃんに頼むのが確実よね。……魔導師団員が2~3人殉職すれば頼んでも言い訳が立つかしら?」
ぐりんとフィーが魔導師たちを見やると、誰も彼もがさっと目を逸らした。
「……寝不足なのは分かるが、いじめてもしょうがねぇだろ?」
「いじめてないわよ。ここで『自分がやります!』って人になら次の魔導師団長を任せてもいいかなぁと思っただけで」
フィーの言葉に、しかし挙手する者はいなかった。前人未踏のダンジョンに入るだなんて死にに行くようなものであるし、リリアに任せられるなら任せた方がいいし、フィーのように過労で死にかける未来が見えたからだ。
「キナ。文句付けてくるのだから、もちろん名案があるのよね?」
「そうさなぁ。『王宮に入れる冒険者を探していたら、偶然聖女様の耳に入った。心優しい聖女様は自らの意志でダンジョン攻略を決意してくださったのだ』なんてのはどうだ?」
「それで騙されてくれる人がいたら脳みそにお花畑が咲き乱れているわね」
「いいんだよ、こういうとき重要なのは大義名分なんだから」
「腹黒さは父親譲りかしらね……。大義名分に利用するにしても、実際に何人か『王宮に入れる冒険者』を用意した方が良さそうね。心当たりはあるの?」
「そうさなぁ。手っ取り早いのが貴族出身の冒険者なんだが……たしか騎士団長の息子が最近有名になってきていたはずだな。話を持って行ってみるか」
「……あ、そういえば、例の『剣劇少女』も冒険者登録をしていたはずね。ダンジョン攻略の経験があるかは知らないけど、話だけでも持って行ってみましょうか。実際にどれだけの実力なのか見てみたいし」
というわけで。
キナとフィーはそれぞれ準備を始めることになったのだった。
無論、リリアは巻き込まれたことを知る由もない。
無論、『どうしてこうなった!?』と嘆くことになるリリアであった。
次回、11月30日更新予定です




