第3話 マリア様、復活
マリア様を復活させるため、今回の目的地である中庭へ向かう道中。
『しかし、珍しいものを連れているものよな』
ミヤ様がジト目で見つめているのは私の肩に乗る不死鳥のフーちゃん。ミヤ様は神とか幻獣に関する知識が豊富そうなので、もしかしたらフーちゃんの正体も見破っているのかもしれないね。ミヤ様に隠すつもりもないので別にいいけれど。
『ただの鳥ではないから気をつけよ。……などと助言しても無駄か。リリアに普通の鳥が寄ってくるはずがないからな』
失礼すぎじゃないですかミヤ様? 私あれですから。爽やかな朝に窓辺で小鳥さんに挨拶する系の純朴ヒロインですから。小動物とかごくごく自然に寄ってきますから!
「……恐怖で身がすくんでいる小動物に自分から近づくのは『寄ってくる』とは言わないと思うな私」
「……そうですわね。お姉様は猫とか犬が大好きですけれど、犬猫から見たお姉様は死神のようなものですし」
恐怖だの死神だの失礼すぎませんかナユハとマリー。心当たりが多すぎるのでそろそろ止めてください。私の心が死んでしまいます。
『クケッ(まぁそうだな。普通の生き物ではリリアから漏れ出す膨大な魔力で中毒を起こすだろう。まるで動く災害だな)』
焼き鳥にしてやろうかしらこの駄鳥。……もう焼けてるか。焼いても復活するか。
そんなやり取りをしているうちに中庭へと到着した。
王族としての責任か、リュースが先に待っていたので貴族令嬢らしい挨拶をする。ガングード公やゲルリッツ侯たちならともかく、今ここにはレイジス神官長もいるからね。友達&婚約者とはいえ、貴族らしくない言動をするわけにはいかないのだ。
なにやらリュースが手を差し伸べてきたのでエスコートを任せる。手を取り合って並んで歩く様は婚約者っぽく見えると思う。なんだこれムズかゆいな?
まぁすぐ側に王宮を破壊した黒いドラゴンの死体が転がっているので色々と台無しだけど。さっさと解体しないのはたぶん人的余裕がないのだろう。街から見える範囲だけでも王宮の再建を急がないといけないし。
ドラゴンはすぐに復活するので首に魂を封じ込める『御魂封じ』をするのが慣例らしいのだけど、その儀式をやるのは(聖女である)私らしいし、面倒くさいので妖精さんに食べてもらえばいいと思う。
まったく、普段なら頼まなくても(さらに言えば全力で止めても)むしゃむしゃ食べちゃうくせに。今回の黒いドラゴンは『ナユハの獲物だものねー』『妖精さんは自粛するよー』と放置しているのだ。私にももうちょっと優しくしてください。
『リリアは何体も倒したのだからいいじゃないかー』
『妖精さんにもちょっとはいい思いをさせろー』
『ナユハは初ドラゴンなのだから大事にしないとねー』
ドラゴンを初鰹みたいに言うなし。
でもそうなると食べてもらうわけにはいかないのか。あ~でもまた復活されても面倒くさいし、魂だけでも食べてくれるよう頼んでおこう。妖精さんなら魂だけ食べるとかできそうだし。
ま、今の優先課題はマリア様の復活だ。
黒いドラゴンの横を通り、積み上げられた木箱の前まで移動する。この8年間でヒュンスター侯が集め続けたマリア様(ドラゴン形態)の素材――という言い方は不謹慎か。マリア様のご遺体の一部だ。
その木箱の前に鎮座しているのは蒼いドラゴンの首。味方であるはずの前騎士団長に殺されたというのに、その表情は驚くほど穏やかだ。
まぁ恨みを持って死んだなら黒いドラゴンのように魔力を集めて復活していてもおかしくないものね。そうなると倒さないといけないし、嫌な仕事が増えなかったことを喜ぶとしよう。
マリア様の首の前で跪き、フーちゃんの協力で新たに製作したエリクサーを取り出す。
黒いドラゴンがそうしたように、魔力さえ充填すれば遺体からドラゴンを復活させることはできる。最初の予定では私の髪を切って貯めていた魔力を使用、マリア様を復活させようとしたのだけど……嫁ーズに猛反対(特にマリー)されたのでエリクサーを作ったという経緯があったりする。
まぁ私としても(いくら同情できる理由があるとはいえ)知り合いでもない人を助けるため髪を切るのはやり過ぎというかキリがないと思うのでちょうど良かったかな? またガイさんからゲンコツされるのも嫌だしね。
レイジス様もいるのでそれっぽい呪文を唱えることにする。こういうのはイメージが大切なのだ。
「――沖津鏡」
「――辺津鏡」
「――八握剣」
「――生玉」
「――死返玉」
「――足玉」
「――道返玉」
「――蛇比礼」
「――蜂比礼」
「――品物之比礼」
本来であれば鎮魂の祝詞。でも、“力”を込めてはいないからただの言葉の羅列となる。
フタを外し、エリクサーをマリア様の首に注ぐ。
マリア様の首へと注がれたエリクサーは地面へ滴り落ちることなくその場で渦を巻き始めた。まるで時を巻き戻すかのように。キラキラと。キラキラと。日の光を反射しながら渦巻き加速していく。
「こ、これは……!?」
背後で誰かが驚愕の声を上げた。あまり聞き覚えのない声なのでたぶんレイジス神官長だろう。
後ろを振り返る余裕はない。吹き飛ばされそうなほどの魔力の奔流が襲いかかってきたためだ。
あまりにも濃厚な魔力によってマリア様の遺骸が覆い隠された。中庭の端に積み上げられた瓦礫が震動し、細かい破片は吹き飛んでしまっている。
念のために後ろのナユハやマリーたちを守るため結界を張っていると……突如として魔力の渦が収まった。
積み上げられていた木箱は跡形もなくなり。穏やかな顔をしたドラゴンの首も消え失せて。その場所に、同じように穏やかな顔をした美人が立っていた。
マリーと同じ蒼い髪。
マリーとは異なる珊瑚色の瞳。きっとマリーの瞳の色はヒュンスター侯ゆずりなのだろう。
……いや、“彼女”が復活したのだから、これからは“彼女”をヒュンスター侯と呼ぶべきなのかな?
マリア・ヒュンスター侯。
マリーのお母様。
に、しては年若く見える。8年前から時が止まっていたのだから当然だとはいえ、それにしても若い。若すぎる。マリーのお姉さんだと紹介されても信じてしまえるほど。
あ~、でも、銀髪持ちはその身に宿した膨大な魔力のおかげで老化が遅いという公式設定(という言い方でいいのかな?)があるので、竜人でありドラゴンに匹敵する膨大な魔力を有しているはずのマリア様が若々しくても当然なのかもしれない。
……あと、これは言及していいものかどうか分からないのだけれども……。マリア様。今現在『全裸』であられた。
いや、わかる。
マリーもドラゴンに変身したあと服が破れて全裸になってしまったものね。ドラゴンに変身して戦われ、戦死されたマリア様が素っ裸――ごほん、あられもない姿でいるのは当然のことなのだ。だから私が裸体に視線を捕らわれてしまうのも仕方のないことなのだ。不可抗力なのだ。仕方のないことなのだ(二回目)
そんなマリア様の姿を見ていられなかったのかキラース様がアイテムボックスから上着をとりだし、優しくマリア様にかけてあげていた。
キラース様の上着に袖を通し、新たに受け通ったズボンを着用し、とりあえずの体裁を整えるマリア様。明らかにブカブカなのに様になっているのは何というか美人補正ってすげぇですね。
服を着ちゃってちょっと残念。なんて思ってないですよ? けっして思ってないですよ?
「…………」
「…………」
「…………」
じっとーとした冷たい目で見られてしまった。ナユハとマリーとリュースから。みんなときどき私の心読んでない? というかマリーはお母様が復活したのだからもうちょっと感動してもいいのでは?
「いえ、お母様はわたくしが生まれたばかりの頃に亡くなられたので正直覚えていませんし……民を救うために戦った立派な人物だとは理解しているのですが、だからこそ『母親』というよりは『英雄』という見方しかできなくてですね……」
ひじょーに申し訳なさそうに眉を下げるマリーだった。まぁ産まれたばかりの赤ん坊だったマリーに母親のことを覚えていろというのも酷な話か。
そして。
マリーの発言に聞き耳を立てていたマリア様は片膝を突いて唸っていた。心にクリティカルヒットしたらしい。なんというかうちのマリーがすみません。
「…………」
心の中で頭を下げていると、マリア様が半眼で私を見つめてきた。な、なんでしょうか?
「マリーを――」
「へ?」
「――うちの娘を娶りたかったら、私を倒してからにしなさい!」
ファイティングポーズを取りながら私に宣戦布告(?)するマリア様だった。ど、どうしてそうなった?
次回、3月13日更新予定です。
諸事情によりしばらく更新が乱れるかもしれません。すみません。詳しくは活動報告で。




