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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第六章 悪役令嬢編

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閑話 とある男の物語・4(???視点)



 俺は英雄となった。

 陛下から称えられ、大臣から称えられ、民から称えられた。

 実際はほとんどがあの騎士――ガイサン・デンヒュールドによる功績なのだが、悪い気はしなかった。生まれて初めての、望むべくもなかった英雄扱いに完全に舞い上がっていた。


 謁見の間で、皆の注目を集めながら陛下手ずから勲章を受ける。下級貴族では本来ありえない名誉。その栄誉を俺は手に入れた。憎むべき蒼いドラゴンを討伐したことによって。


 天にも昇るような心地の俺。

 しかし、わずかな違和感があった。

 あれだけ出世欲に囚われていたはずのガイサン・デンヒュールドが、本来ならこの場にいて最大の賞賛を受けるべき男が、なぜか行方をくらませたのだ。


 騎士爵となり、いずれ騎士団長へ。それがあの男の望みだったはずだ。だというのに、どうしてそれを捨てるようなことをしたのだろうか?


 疑問は解決せぬまま式典は終了し、そのまま祝勝会へと移る。ガイサンがいない現状、主役となるのは蒼いドラゴンを討伐した俺と……マリア侯が行方不明になった後、見事な指揮で領民の被害を最小限に留めてみせたキラース・ヒュンスター殿。


 いや、マリア侯の後任として任命されたので、キラース・ヒュンスター侯と呼ぶべきか。


 祝勝会も終わりを迎える頃。そんなヒュンスター侯と視線が合う場面があった。


 ――殺気。


 確かな殺気を感じた。


 怖気がした。

 総毛立った。

 あのドラゴンに襲撃されたときと同じように、死の恐怖がこの身を襲った。


 キラース・ヒュンスター侯爵。


 戦闘職ではないとはいえ、あの勇者ガルドに付き従い、邪神と戦った男だ。もしも戦うようなことがあれば俺に勝ち目はないだろう。


 しかし、なぜだ?

 なぜ俺は殺気を向けられている?

 たしかにヒュンスター領に騎士団の到着が遅れたのは俺の落ち度だ。しかし、だからといって、キラース・ヒュンスター侯は俺に敵意を向けるような男ではないだろう。


 ここで背を向ければ、死ぬ。

 そう感じた俺は気づかれないよう呼吸を整えつつキラース・ヒュンスター侯に近づいた。


「ひゅ、ヒュンスター侯。このたびはまことに――」


 マリア・ヒュンスター侯への弔辞を述べようとした俺の言葉は、最後まで続かなかった。万の生物を殺しかねない恨みを込めた声が響いてきたからだ。


「――俺は、絶対に許さない」


 静かに。

 周りに聞こえないほどに小さく。

 されど、はっきりと。


 キラース侯は俺を睨め付けた。

 俺に殺気を向けてきた。

 隠しようのない恨み。

 隠すつもりもない憎しみ。

 なぜだ?

 なぜ俺は、彼からこうまで恨まれている?

 これでは、まるで、俺が大切な人の仇であるかのよう――


「…………」


 ――手が震えた。


 言いようのない怖気に襲われた。

 蒼いドラゴンの姿が脳裏に蘇る。どこか見覚えのあったドラゴンの姿を。なぜだかあの“少女”の姿を思い出してしまったドラゴンの最後を。


 蒼い、たてがみ。

 蒼い、髪。


 ……まさか、そうなのか?


 ありえない。

 ありえるはずがない。


 人はドラゴンではないし、ドラゴンが下等な人間に化けることもない。


 だが。

 もはや、そうであるとしか考えられなかった。

 もしも、そうなのだとしたら。

 俺は、

 この手で、

 彼女を、

 殺してしまったのか……?





 もはや出世などどうでも良くなった。

 生きる気力を失った。


 俺が騎士になるきっかけとなった彼女。秘めた想いを抱いていた彼女。そんな彼女を、俺は、殺めてしまったのだ。


 自首するわけにはいかなかった。

 たとえ『あの蒼いドラゴンはマリア侯だったのです』と告解したところで信じてもらえるはずがないし、マリア侯が蘇ることもない。


 そもそも俺は“英雄”になってしまったのだ。国も、ドラゴンからヒュンスター領を救った英雄として扱っているし、逃げ出したガイサンの代わりに祭り上げられてすらいる。


 そんな俺が、邪神退治の“英雄”であるマリア侯を殺したなどと……公表できるわけがない。


 罪を背負い。罪を告白することもできず。俺は、このまま生きなければならないのだろうか? 生き続けねばならないのか?

 それは、なんという、地獄だろうか。


 いっそ死んでしまった方が楽だろう。

 救われるだろう。


 自ら命を絶てばいいだけ。

 分かっていてもできなかった。

 俺は英雄ではなく、凡人であり、臆病者だった。


 自分で死ぬ勇気もなく。

 生きていく気力もなく。


 そんな卑怯者のである俺に――救いの日はやって来た。



 ――腹部の激痛。

 大地を染める鮮血。


 力なく座り込んだ俺の視線の先には……血に濡れた刃を手にした“英雄”、ガイサン・デンヒュールドの姿があった。


 恨まれているのは知っていた。

 つけ回されているのは知っていた。

 このままなら殺されるだろうと予感していた。


 天の救いだった。

 自ら命を絶つ勇気のない俺は、殺されることでこの地獄を抜け出そうとした。


 誰にも邪魔されぬよう機をうかがった。無謀で失敗されぬよう細心の注意を払った。最後にはあえて隙を作った。


 騎士の中の騎士であるガイサン・デンヒュールドが、どうして俺を付け狙っていたのかは分からない。マリア侯の復讐であるにしても、歴とした貴族である彼女とガイサンでは接点もないはずだ。


 分からない。

 だが、なんとなく分かる。


 ――惚れた女のために剣を血に染める。


 騎士としては失格だろう。

 だが、男として。……そう、一人の男として。その生き様を羨ましく思った。


 思考が鈍くなってきた。

 そろそろ死ぬのだと自分でも分かる。


 ガイサンの顔はもう見えない。視界も薄暗くなってきた。


 意識を失う前に、これだけは言わなければなるまい。


 生きるは地獄。

 死こそが救い。


 ならば、それを与えてくれたこの男に、せめて一言――




「――ありがとう」









 ※前の騎士団長の話が予想以上に不評だったので短縮&シメの話をすぐに投稿します。


 次回、投稿済みです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] このお話の登場人物ってみんな根は良い人なんだよな… だから憎めないし、救われてほしいとも思う。 でも大丈夫、この世界にはシリアスデストロイヤーがいるからね!!
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