アナザーストーリー 魔法少女りりかる☆なゆは(ナユハ視点)
ブックマーク2,000突破記念。
一発ネタのはずが妙に好評だったので……。
「――私と契約して魔法少女になってよ!」
とある日。
またリリアが何かほざいていた。
リリアが素っ頓狂なことを言い出すのはいつものことだから今さら驚かないけれど……。『まほうしょうじょ』って一体何だろう?
まほうしょうじょ――魔法、少女? 意味合い的には公爵令嬢でありながら剣を振るうことで有名な『剣劇少女』と同じようなものだろうか? いやでも剣はともかく魔法を使える少女なんて(貴族であれば)珍しくも何ともないよね?
「リリア、魔法少女って何?」
「ふふん、何だかんだと聞かれたら! 答えてあげるが世の情け!」
なにやらカッコイイ『ぽーず』を決めるリリアだった。
「説明しよう! 魔法少女は愛と勇気と希望を振りまく存在なのだ!」
まったく説明になっていなかった。
というか、その説明でまず真っ先に思い浮かぶのはリリアなんだけど? リリアの存在は私に勇気や希望を与えてくれたし。……女の子を次々に口説いて愛を語っているし。
「女の子を口説いたことなんてないよ!? ましてや愛を語ったことなんて! どうしてこうなった!?」
なにやら叫ぶ女たらしだった。さらりと心を読まないで欲しい。
しかし、口説いたことがないとか……。自覚がないところがリリアの一番厄介なところだ。ほんとうに。少しは自覚して自重しろと思う。この女たらしが。
「くっ! ナユハちゃんの目がとっても冷たい気がする! こうなったら奥の手を出すしかないか!」
まだ何もしていないのに奥の手(?)を出されてしまった。
リリアがアイテムボックスから取り出したのは……装身具。本来なら髪の毛を押さえるための道具には、本来なら必要ないはずの謎部品が付けられている。三角形。それが二つ。
……猫耳?
いつだったか愛理が熱く語っていた。猫耳カチューシャは浪漫なのだと。美少女が猫耳を付けたら最高級の萌えなのだと。
そんな萌えアイテムを手にしたリリアは迷うことなく頭に装着し、そして――
「――私と契約して魔法少女になってよ!」
先ほどとまったく同じことを口にした。
正直訳が分からない。そもそも私はレナード家のメイドとして旦那様(リリア父)と正式な契約を結んでいるし、リリア専属のメイドとしてリリア本人とも契約書を交わしている。あと璃々愛様やオーちゃん――女神オーディン様に言わせれば血の契約を結んでいるらしいし。
と、いう理屈はすぐさま脳裏に浮かんだのだけど。私はツッコミをすることができなかった。
とても。
とても。
可愛かったのだ。
猫耳を付けたリリアが。
それはもう文字通りの絶句をしてしまうほどに。
こんなに可愛い存在からお願いをされているのだから、一度くらい『まほうしょうじょ』とやらになってもいいのかも――
「よし! 言質取った!」
ガッシリと私の肩を掴むリリア(猫耳装備)だった。いや言葉を発していない時点で言質も何もないというか、心を読むのは止めてほしいというか……。
私が何かを言うよりも前にリリアは話を先に進めてしまう。
「こんなこともあろうかと思って! ナユハのメイド服には変身機能を追加済みなのさ! 変身魔法を応用してちょちょいのちょいとね!」
「……いや変身魔法は禁術中の禁術で、使用者は問答無用で極刑だよ?」
「…………。……バレなきゃ犯罪じゃナッシング!」
「うわぁ『ひろいん』にあるまじき発言だ……」
「いやいや、いいですかねナユハさん、私は確かにヒロインですけど、別に正義の味方というわけではないのですよ。ご存じの通り原作ゲームでも目的のためなら法も犯す系のキャラでしたし。ちょっとしたことで悪役令嬢にもなりますし」
「なぜ敬語? あと、そんなこと言われても知らないよ。私は『げんさくげーむ』というものをやったことがないのだから」
リリアの発言だから信じているだけで、他の人がある日突然『私は創作物の登場人物なの!』なんて言い出したら治癒術士の元へ連れて行くし。
というか、やっぱりリリアは使えるんだね変身魔法。誰かから習おうにも、使える人間なんて『漆黒』くらいしかいないだろうに。どうやって習得したのやら。……この子の場合は直感で術式を組み上げても不思議じゃないのか。
「ナユハさん。勘違いしてはいけません。今からやるのは変身魔法ではなく、変身魔法にとてもよく似た稟質魔法なのですから」
「天から与えられた才能だから変身魔法じゃないと? それなら一応の理屈は通るし極刑も回避できるかもしれないけど……変身系の稟質魔法なんてあり得るの?」
私も稟質魔法持ちなので色々調べたことがあるけれど、少なくとも文献には載っていなかったはずだ。
「あり得ると思いますよ? 気づいていないだけで誰かが持っていると思いますよ?」
「だから、なぜ敬語?」
もう一つツッコミするなら稟質魔法を複数持っている人間なんていないはず……なのだけど、リリアなら持っていても不思議じゃないよね非常識が服を着て歩いているような存在だし。報告事例がないだけで今までもいたかもしれないし。それこそリリアの言うように「本人が気づいていない」だけで……。
「と! いうわけで! さっそく変身してみましょう魔法少女りりかる☆なゆはちゃん!」
キラキラしている。リリアの目がキラキラしている。あんなに期待されたら断りにくいというか何というか……。
「マジカル☆チェンジ!」
リリアが指を鳴らすと同時、私の着ていたメイド服が光に包まれた。あまりのまばゆさに思わず目をつぶること数瞬――瞼を開けると、いつの間にか、私はメイド服から何とも形容しがたい服に着替えさせられていた。
「きゃー! きたー! 魔法少女服! 黒髪魔法少女とか超萌える! きゃーーー!」
大興奮するリリア。彼女が魔法少女服と呼んだ服飾はどことなく貴族の女性が着る社交界用ドレスに似ていた。胸元には大きな宝石。あちこちに施されたレースのフリル。大きく違うところと言えば社交界でも中々見ないほどに派手な色使いの生地と――太ももの半ばまでしか布がないスカート。
愛理が着ている『制服』の、『ミニスカート』というものだろう。
と、知識では理解できるけど。
信じられなかった。
女性が太ももを露わにするだなんて……。
いや愛理は四六時中ミニスカートを履いているけれどさほど変な感じはしない。本人がまったく気にしていないし、この世界の服飾とは異なる意匠だから「そういうものだ」と納得もできるのだ。
でも。
私は違う。
とても。
とても恥ずかしい。
この世界の女性が太ももを見せるような服を着るなんて(貴族でも庶民でも)絶対にありえないし、今私が着ているのはこの世界のドレスに近い意匠をした衣装なのだ。つまり私の心持ちとしては太ももを露出したドレスに着替えさせられたわけで……。
恥ずかしい。
とても恥ずかしい。
頬は一瞬で赤く染まったし足は内股に。短いスカートの裾を何とか下に引っ張って太ももを隠そうとするけれど絶対的に布地が足りていなくて……。そんな私の様子を見て、何が楽しいのかリリアはハァハァハスハスしている。
人の気も知らないで。
リリアも貴族なのだから、この世界に生まれた女性なのだから、太ももを露出するなんてありえないと知っているはずなのに。
なんだかイライラしてきた。
私がこんな格好をしているのは。こんなにも恥ずかしい思いをしているのはリリアが原因だ。ならば少しくらい報復しても許されるはずだ。
ガッシリと。
私は超握力の右手でリリアの頭を掴んだ。普段のリリアならこうまで簡単に掴ませてはくれなかっただろうけど、今の彼女は興奮して鼻の下を伸ばしていたので簡単なお仕事だった。
そのまま。
私は右腕を振りかぶり、振り下ろした。裁きの雷を落とすように。神の審判を下すかのように。変態の頭を掴んだまま。
『……わぁ、見事なピッチング……』
いつの間にか現れていた愛理がそんな呟きを残す中。リリアは面白いように虚空を描きながら宙を飛び、「我が生涯に一片の悔いなし!」と叫びつつ……ばっしゃーんと、屋敷に隣接する入浴施設(露天風呂と言うらしい)に落ちていった。
と、私はここで気づく。
私の着ていたメイド服はリリアの稟質魔法(?)により魔法少女服に替わってしまったわけであり。着替えようにも他に服がないわけであり。愛理に着替えを持ってきてもらおうにも「黒髪魔法少女とか超萌える!」と叫んでいる彼女が話を聞いてくれるか不明だし……。
結局。
リリアが露天風呂から這い上がってくるまで私はミニスカート姿で過ごすハメになってしまったわけで。
ど、どうしてこうなった……?
璃々愛
「ナユハちゃんはリリアちゃんを非常識扱いするけど、ナユハちゃんもたいがい非常識だよね~」
オーちゃん
「……まぁ、普通の人間はドラゴンを一撃で倒せないし、倒せるほどの加護も貰えないしな……」
今後の展開として、まだ子供時代編を続けるのか、それとも当初の予定通り15歳まで時を進めて魔法学院編をやるのか決まらないので一ヶ月ほど休憩したいと思います。
次回、7月20日更新予定です(悪役令嬢ミリス編)




