表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/30

第11話 お花見行こ ①

 

 

 次の日のお昼前。約束の時間にドアをノックする音がする。

 ドアを開けると、そこに着物姿で髪をまとめあげている麗鷲(うるわし)さんがいた。


 

 あまりの綺麗さに息を呑む。

 この美しさは掛け軸とかに描き残した方がいいと思う。

 出会った日とは違う着物で、厳かな雰囲気が漂う。


 

「おはよううるわ……てんちゃん」


 

 麗鷲(うるわし)さんと呼ぼうとするとすごく睨まれたので、てんちゃんと言い直す。

 まだいい慣れてないんだよなあ。


 

「今日はお花見って約束だったけど、着物で来るとは思わなかった」


 

 昨日麗鷲(うるわし)さんが相楽くん、と一呼吸おいて告げた言葉が『お花見行こ』だった。


 

「ばにらちゃんとお揃いにしたくて」


 

 麗鷲(うるわし)さんは手にさげた巾着につなげているばにらちゃんを掲げる。

 着物の生地にどこか見覚えがあったけど、ばにらちゃんに作った着物と同じ生地なんだ。


 

「すごく良いと思うよ」


「良いってどんな感じに?」


 ずいっと麗鷲(うるわし)さんは顔を近づける。顔の良さに心臓が跳ねる。

 麗鷲(うるわし)さんは距離感が少々バグっているところがあって困る。


 

「どんな感じってええっと……」


 

 かわいい、きれい、似合ってる?

 俺は視線を逸らしながらもなんといえばいいか考える。


 

「お母さんみたいだね」


 

 するりと口から出てききた言葉がこれだった。

 はっ、なに言ってんだ俺?! 女子高生相手にお母さんだなんて!


 

「てんちゃんとばにらちゃんがお揃いの着物で、仲の良い親子みたいだなって思って。決しててんちゃんが年をとっているというわけではなくて、そりゃ大人っぽさはあるけれど……」


 

「……ありがとう。そんなこと言ってくれるんだ」


 

 理由を並べ立てる俺に、麗鷲(うるわし)さんは涙ぐみながらはにかんでいた。

 良かった。変じゃなかったみたいだ。だけどそんなに喜ぶことかな……?


 

 そして、家を出ようとする俺を麗鷲(うるわし)さんが制止する。


 

「私だけが着物なの変。相楽(さがら)くんも着物でお花見行こ」


「ええ、でも俺は着物なんて大層なもの持ってないよ」


「持ってきた」


 

 その言葉を分かっていたかのように、麗鷲(うるわし)さんは巾着とは別に、風呂敷を差し出す。


 

「俺に貸してくれるの? でもどう着付けすれば良いかわからないし……」


「私が着付けするから安心して」


 

 

 戸惑う俺に、麗鷲(うるわし)さんが手を差し伸べる。

 帯を結べるくらいだ、男性用の着物の着付けもできて不思議ではない。


 

 麗鷲(うるわし)さんの目は謎のやる気に満ちていてどうにも断れそうになかった。

 まあ、俺が私服で麗鷲さんの着物に並び立つ自信なんてないから、せめて着物で合わせられるのならいいか。




 

 着付けは俺の家の中で行われた。



 

 まずは脱衣所で肌着と足袋を着て長襦袢(ながじゅばん)を羽織り、麗鷲(うるわし)さんのいる部屋へと戻ると「おかえり」と迎え入れられて、なんだか自分の家なのに不思議な感じだ。


 

「まずは腰紐を結んでいくね」


「お願いします」


 

 ここからは麗鷲(うるわし)さんにお任せだ。

 麗鷲(うるわし)さんは腰紐と呼ばれる帯を取り出すと、俺の目の前でしゃがんで膝立ちになる。


 

 麗鷲(うるわし)さんは、俺の腰骨の位置に帯を回す。


 

 あれ、なんだか下半身を抱きしめられているような構図になってない?!

 麗鷲(うるわし)さんしゃがんでるから、ちょうど俺の大事なところの前に顔があるし、これ大丈夫?!

 


 俺の焦りを気にすることなく、麗鷲(うるわし)さんは帯を一周させて前に回して、腰横あたりで結ぶ。

 取れないように麗鷲(うるわし)さんの手にぎゅっと力が入っているのが分かる。


 

「んっ」

 


 力を込めたことにより、麗鷲(うるわし)さんの口から声とも吐息とも取れる音が漏れる。

 ちょっと待って!! この状況でそんな声出さないで!!


 

 上から見下ろしているから、麗鷲(うるわし)さんの(なまめ)かしいうなじがよくみえる。


 

 ぬいの着物を作るときに調べて分かったけど、女性は『衣紋を抜く』といって着物を首にぴたっりつけずにゆとりを持たせる着こなしをするそうだ。

 昔の人がそういう着こなしを思いついた理由が、今の俺には良くわかる。



 結び終えてほっと一息。


 

 それで終わることはなく、この上から着物を着て、また帯を結ぶという工程が控えていた。

 

 その間俺は、反応しないように必死だったことは言うまでもあるまい。

 着物を着るのがこんなに大変だったとは、軽い気持ちで承諾したのを少々後悔した。


 

 

 四月もまだ肌寒いので、羽織を着せてもらい着付けが終わる。

 着替え終えたので、用意された下駄を履いて家を出ようとすると、玄関先でつっかかる。


 

「おおっとっ!」


 

 先に下駄を履いていた麗鷲(うるわし)さんに寄りかかってしまう。

 うわあ、やらかした!


 

「大丈夫?」


 

 包み込むように俺を受け止める麗鷲(うるわし)さん、心配までしてくれる余裕がある。


 

「あ、はは……ごめん」


 

 目の前には造形の整った麗鷲(うるわし)さんの顔があって、顔が近い驚きと、つまづいた恥ずかしさから俺は慌てて離れる。


 

 くぅ、麗鷲(うるわし)さん綺麗なのはもちろんだけど、なんだかかっこいいなあ。女子からも人気があることが頷けるよ。


 

相楽(さがら)くん下駄に慣れてないと思ったから今日は車で行こ。もう用意してあるから乗って」


 

「え?!」


 

 

 家の前に、いかにもな黒塗りのリムジンが一台停まっていた。

 そして、俺の姿を見るなり、中の居たスキンヘッドの厳つい男性が出てきて勢いよく頭を下げた。


 

相楽(さがら)さん今日は運転させていただきやす、岩橋です。よろしくお願いします」



 

 この人絶対に極道だよね?! 本物初めて見たよ!


  

「……よろしくお願いしますぅ」


 

 俺はその風貌に目を丸くしながらも、なんとか挨拶を絞り出した。

 言葉尻が徐々に小さくなってしまったのは許してほしい。


 

「お嬢も相楽(さがら)さんもこちらへ」

 

 岩橋さんはリムジンのドアを開けて、手で促してくれる。


 高待遇すぎないかな?!

 てか『相楽さん』って敬称つけて呼ばれるの恐れ多いんですけど!


 

 麗鷲(うるわし)さんは「ありがとう」と一言いって、流れるように乗り込んだ。

 麗鷲(うるわし)さんの後に続くように、俺も御礼を伝えようとしたが「あら……たすぅ」と妙なことをいいながら、俺は恐々(こわごわ)と乗り込むのが精一杯だった。



 

 このまま山奥とかに連れて行かれたりしないよね?!









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ