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かぐやの握手会

 にっこりと魅力的な笑みをこちらに向けるかぐや姫。


 年齢不詳⋯⋯と言うか誰も何歳なのか知らない。


 いつ見ても若い印象。


 歳をとらないのか、見た目もさほど変わらないのは月の人だからなのかなと志太朗は勝手に推測する。


「かぐやさん、予定よりも早くありませんか?」

「そんなことないわよ。志太朗くんも手伝ってもらえるかしら」


 ふわりと黒髪をなびかせて振り返ると、猿の方をじっと見る。


「猿渡くんと猿次郎くん、素敵な師弟関係ね」


「はいっ!」と元気に返事をする猿次郎。


「いえ、師匠だなんて猿次郎に教えることは何もありませんよ」と謙遜する猿渡。


 かぐやは机の方をちらりと見る。


 猿次郎の柿に釘付けになっている、その顔には羨ましそうな、いや、「欲しいなぁ」と書いてある。


 志太朗は籠に柿を戻すとかぐやに持って帰るよう伝える。


 大喜びのかぐやに満足そうな猿次郎の姿。


「猿次郎くん、いつもありがとう。私も月の人も皆、この柿が大好きなの!」


 猿次郎は風呂にも入っていないけれど、茹で上がったように顔を真っ赤にした。



 ─────────────



 志太朗はかぐやと狭い空間に二人きりだった。


「あの、俺後ろから走ってついていくので駕籠から降りてもいいですか?」


「駄目よ。間に合わなくなっちゃう」


 狭い籠の中に押し込められた二人。俺はかぐやをちらりと盗み見していた。


 長い睫毛に指通り滑らかな艶髪。キメの細かい陶器肌に繊細な指で御簾を少し持ち上げている。


「志太朗くんは昔話好き?」


 唐突な質問。意図が何も読めない。


 それでも小さい頃の思い出に振り返る。


「えっはい。お話は好きですよ。それぞれにいろんな思いを抱えた人が登場します。誰かになりきるのもいいし、外から俯瞰するのもいいですよね。実はおじいちゃん、語り手が上手なんですよ」


「そっかぁ」


 こちらに寄越した顔はいつもの茶目っ気ではなく、素のかぐやが微笑んでいた。


 籠が止まると、かぐやが「そうだ。これ、つけてね」と言いながら布を渡してくる。


 腕に結ぶと、そこには『関係者』の文字。


 かぐやがすぐに籠から降りると、外から歓声が上がる。


 かぐやの声が漏れ聞こえるので、その歓声に応えているのだろう。その声が遠くなってきた。


 ようやく俺は籠から伺うように外に出ると、暖簾が出ていた。


『かぐや 握手会』


 アイドルというのは本当だったようだ。


 かぐや姫株式会社の中に事務所が出来たなと思っていたが、アイドル事務所だったとは……俺は部屋の端を歩きながら邪魔にならないようにかぐやに近づいた。


 長蛇の列。かぐやの前にたくさんの俺よりも年上の男性が多い。


 かぐやの横には鉱山から出てきた黒っぽい岩がたくさん積んである。


 これはなんだ……?


 俺は熱気漂う握手会を眺めていると、見知った顔が見えた。


 かぐやも気がついたらしい。彼の顔を見つけると、顔を綻ばせた。


「あら、桃太郎くんも来てくれたんだ。いつもありがとう」


 そこにはうちの会社のエースである桃太郎が隠しきれない主人公オーラを纏ってやってきたのだ。


「かぐやさん、いつものはどこかな?」


 堂々とした立ち振る舞いの桃太郎はかぐやとは握手はせずに何かを探している。


 二人の距離は近いが、お互いを意識するほどの初々しさはない。


 どちらかと言えば家族に近い距離感だが、絶対に越えられない何かを含んでいるように見える。


 かぐやは机の端に置いてあった箱を桃太郎の目の前に置いた。


 後で聞いた話なのだが、桃太郎は個人的に恵まれない孤児のために募金をしているようだった。


 伸びた麻の袋を箱の中に入れると、たくさんの金属のぶつかり合う音が袋の中からくぐもって聞こえた。


 そしてかぐやは黒い岩を桃太郎の手に触れないようにそっと渡した。


「はい、月の石」


 二人の関係も気になるが、志太朗は別の疑念を抱いていた。



 ─────────────



 かぐや姫株式会社の経費一覧も財務諸表も見たことがある。


 健全な経営をしている会社だ。


 派手な交際接待もないし、売上の回収もほとんど遅れたことがない。


 かぐや姫というキャラクターが逸脱したこのお話はかぐや姫に関する製品も多い。


 これからやってくるお月見は一大イベントだ。


 この目の前にいる桃太郎もそうだが、日本昔話株式会社での売上は偏っている。


 桃太郎株式会社、

 株式会社金太郎、

 そしてかぐや姫株式会社。


 この三社が売上、そして利益の6割近くを叩き出している。


 それなのにかぐや姫株式会社はさらに“アイドル事業”を打ち立て、さらに売上を上げているのだ。


 このままだと株式会社金太郎を追い抜く勢い。



 ──────────────


 そんなことを考えながら握手会を見ていると、意外と年齢層が広いことに驚いた。

 それから女性も多い。


 その後、イベントも無事に終了。


 片付けも終わり、かぐやも伸びをしている。


「ふぁ、志太朗くん、お疲れ様」


 久しぶりに重たいものを持ち上げて身体に疲労感が覆ってくる。


「いえ、かぐやさんこそお疲れ様です」


 その言葉と同時に、ぴょんと跳ねるように振り返った彼女は茶目っ気たっぷりな目になった。


「志太朗くん、一緒にかーえろっ!」


「……ッ!!」


 免疫のない俺は顔を紅潮するしかなかった。

[握手会の裏話]

実はお話には登場しませんでしたが、金太郎も裏で手伝っていました。

表には少しも出ませんでしたので、本当に裏方ですね。

また、握手会で月の石が配られていましたが、意外と人気なんです。

やっぱりムーンパワーなるご利益があるそうで、神棚や玄関に飾る人も多いそう。

かぐやのファンにはおじさんも多いので、家に遊びに行くと、どこに飾っているのかで話が盛り上がるそうですよ。


さて、青春っぽい一幕もありましたが、次回、志太朗の疑念が明らかになります。

お楽しみに♪

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何でしょう? ……二人は一度付き合って別れたとか? (´・ω・`)
おー、謎解き編も楽しみ。
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