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さるかに合戦

 小噺志太朗こばなししたろうはフレッシュさ溢れる“猿”に会釈した。


 あれ、前会った時より随分若く見えるな。


 お辞儀は慣れているのか、猿はお手本のように背筋がまっすぐ伸びて、そこからのお辞儀の角度も完璧。


小噺志太朗こばなししたろう殿、お初にお目にかかります!」


「えっ猿渡さんですよね。随分前にお会いしましたが」


 予想外な言葉に心臓が変な鳴り方をする。


 首を傾げながら接客のプロのような自然な笑顔を返す猿。


「自分、さるかに合戦の猿です」


 それは分かっている。


 志太朗は心の中でそう返すと、失礼のないよう細心の注意を払う。


 眉間に皺を寄せた志太朗は、猿とちぐはぐな会話を進める。


 話を進めていくうちに、桃太郎の“猿”さんとは別の猿さんということが判明。


 それが分かった瞬間、志太朗から驚いた声が上がった。


 それを聞いた猿は尚も優しい笑みを浮かべている。


「自分が大先輩の猿渡さんと間違われるなんて」

「あっ! ⋯⋯⋯⋯ここだけの内緒にしてください」


 小さく声を上げた後、志太朗は申し訳なさそうに頭を下げる。それを猿はにこりと応える。


 そして抱えてきた柿が入った籠を机の上に置いた。


 さるかに合戦といえば、意地悪な猿が蟹の持っていたおにぎりと柿の種を無理やり交換するところから始まる。


 そして柿がなれば、今度はその柿を横取りした。


 蟹が熟れた柿をせがむと、熟れてない青い柿を投げつけて死に追い込む。


 死ぬ間際に産んだ子どもたちが恨みを晴らすというお話。


 ココだけの話、このお話を現代に残すかかなり議論されている。


 もちろん解決したわけではなく、定期的に話し合われているのだ。


 倫理観としてもどうなのかとかなり揉めている部分もあり、意見が分かれている。


 ありのまま、残酷さを残すか。


 それとも柔らかくオブラートに包むか──。





「実は十代目なんですよ」




 志太朗は目を見開いて猿の顔を覗き込んだ。


 ぞわり、全身に不快感がまとわり付く。


 そして猿への言葉を志太朗は必死で探している。その様子を見て猿は手を横にヒラヒラさせた後、笑顔をくっつけた。



「柿のことです」

「なあんだぁ!」



 それを聞いて深く息をつくと、どっと疲れがあふれてくるのを感じる志太朗



「はは、志太朗殿⋯⋯と呼んでもいいですか?」

「もちろんです! ⋯⋯あの」


「猿次郎です。蟹さんと一緒に植えてようやく実ったこの次郎柿と一緒です」


「猿次郎殿、これからもよろしくお願いします」


 志太朗はその言葉を聞いて、この前見たファイルの中身を思い出す。



 ───────────────



 最初に購入されたのは柿の種だった。植えて育てるのかと思ったら、柿の木の購入があった。


「柿の種と木、買いすぎじゃないか?」


 柿は育ちにくいのか、たびたび購入されている。


 それに、その運搬作業費用が高かった。


 実はその半分は㈱金太郎に外注を出しており、金太郎と熊の工賃が請求されていた。


「子会社あるあるだよね。他のグループ会社に頼むのって」


 それから、作中に出てくる猿の家の建設にもまた“㈱金太郎”の外注。


 やはり、施工も金太郎だった。建築士の資格持っているもんなあと納得した。


 毎年、蟹や臼、蜂などメンバー全員と懇親会をしている。


 皆の関係が良好のようで、一安心していたところだった。



 ───────────────



「志太朗くん、今日は社長、いないのかな?」


 この場にはいなかった渋いダンディな声。


 男の志太朗でも惚れ惚れする。


 その聞き覚えのある声で今に意識を呼び戻された志太朗。


 今度の“猿”は見たことのある。


「今日は外出しておりますよ。そろそろかぐや姫さんも来るころですから」


「そうですか、ありがとうございます。猿次郎も久しぶりですね」


「猿渡先輩! お久しぶりです!」


 桃太郎は当社グループでも一番力を持った子会社だ。


 それなのに猿渡はものすごく腰の低い方だ。


 もっと偉そうでも不思議じゃないのに、いつも敬語で、温和な性格だ。


 桃太郎へは転職組なので、世間の荒波に揉まれてきたのかもしれない。


 猿次郎が尊敬するのも頷ける。


「今度の始球式楽しみにしているよ」


 何でも、柿を蟹にクリーンヒットをする必要があるから、猿次郎は腕をかなり磨いたそう。


 もちろん蟹には当たらない細工をしている。


 ただ、蟹に投げつける悪いイメージがつきまとうので、最近はボールの投げ方講座をさるかに合戦劇の特典でつけたところ、これが大当たり。


 今ではそっちがメインの仕事も多いようだ。


「ありがとうございます! あの、明日、そちらへも柿を持っていきますね」

「猿次郎、毎年ありがとう」


 褒められた猿次郎は相好を崩して喜んでいる。


 志太朗は二人の様子を羨ましそうに見ていた。


 コンコン、開いているはずの襖を叩く音がする。

 顔を上げると黒髪ロングの絶世の美女。

 こちらを向く目は青みがかった濃い灰色。


「誰もお迎え来ないんだもの」


 本人は意識していないが、耳の奥をくすぐられるような少し甘くそして凛とした声。


 いつまでも聞いていたいほど、心地が良い。



「かぐや殿」と猿渡。

「女神!」と猿次郎。

「かぐや姫さん」と志太朗。


 悩殺スマイルが惜しげもなく披露される。


「皆様、こんにちは。永遠のアイドル・かぐやです」

たぶん唯一の?アイドルのかぐやがきました。

AI生成でかぐやのアニメ風イラスト作りました。下に掲載しましたので、ご興味のある方はご覧になってください。











挿絵(By みてみん)

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猿蟹合戦はそんなに議論されていたのか……。 御伽噺はそのまま残して欲しい気もします。 (。ŏ﹏ŏ) 数百年後はただのドッジボールな未来もあり得ますね。 おっと、アイドルかぐや姫。 イラスト可愛いで…
さるかに合戦、キター (゜∀゜) ボールの投げ方講座という平和的なスタイルが人気になって良かった。ここから、未来のメジャーリーガーが生まれるかも。 楽しませていただきました。 ありがとうございます…
十代目なのに、真面目に生きてる猿次郎良い子や。 そして、かぐや姫きたー! 次の話はいよいよ?
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