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第164話 「偉大なる祖」

先行したイリム、ザリードゥに続きカシスとともに部屋へ飛び込む。

そうして、現状が把握できた。


部屋のそこかしこの壁面に、潰れたカエルのようになったモノがこびり付き、辺りに赤いモノを撒き散らしている。


そして立方体キューブの中央に、スラリとした高級そうなスーツに身をつつんだ壮年の男の姿。

手にはマジックに使うような大仰なステッキ、先端には赤い、拳大の宝石がはまっている。


……今気が付いたが彼の背後、この部屋のまさに中心の空間に、真珠のような白いこれまた拳大の宝石が浮かんでいる。


「姉さん!!」

「マルス、離れてて!!」


遅れて部屋へ飛び込んだマルス君が、大声で姉を呼ぶ。

呼ばれた姉は、弟の叫びに首を振りつつ、必死に『何か』を展開している。


「……あれは?」

「『城壁グレーターウォール』の奇跡だ。まさかアレの使い手がいるとはなァ……」


ザリードゥが静かに答える。

聖女レーテはスーツの男に正面から向き合い、両手を広げ後ろの聖騎士達を守っていた。


その彼女へ向け、男は何度かステッキを振り不可視の『何か』をぶつけているのだが、ことごとく『何か』に防がれている。

スーツの男はその様子をしばらく興味深く、そして懐かしそうに観察していた。


「なるほど、確かこの世界ではまだ、その力が意味を成しているのだな。いや久しく忘れていた」

「……あなたは、突然現れて、そして仲間を殺して……」


「手を出したのはそちらの兵士が最初だろう? まれびとだなんだと、最初に斬りかかってきたのは」

「……それは、あなたが突然『転移』してきてっ……」


「ふむ。いまだこの世界の住人は変わらんな。まあどうでもよいか」


スーツの男はこちらへ向き直ると、話を切りだした。


「キミたちが、このダンジョンの攻略者か」

「……そうだといったら?」


全力で警戒しつつ、答える。

仲間も自然に陣形を組み、いつ、どこから攻撃が来ても対応できるよう。


「で、あるなら恐らく……いやこれは私の希望、願望でしかないのだが、キミたちの中に【フラメルの娘】はいるかな?」

「……あなたは、まさか……」


みけが、アルマからその称号を継いだ少女が、驚きに満ちた顔で男をにらむ。

それだけで、男の方もわかったらしい。


「おめでとう諸君。私、ニコラ……いやニコラス・フラメルの作りし驚異ギミック謎掛け(リドル)護衛モンスターを解決した証として、この『白い賢者の石』を授けよう」


彼は大仰な仕草で会釈し、スッ……と体を引いた。

その先には、空中に浮かぶ白い宝玉。


「そして嬉しい、私の読み通りこの遺跡の攻略者にフラメルの娘が居てくれて。とても、とても嬉しい」

「……本当に、【祖】、ニコラ・フラメルさんなんですか?」


フラメル家は、開祖が錬金術の秘奥『賢者の石』に至った。

ソレを家の秘術とし、彼は妻とふたり違う世界へ旅立った。


そうして、フラメルの家は栄えた。

祖の残した赤い石をもって、錬金術の大家となった。

その後、石を【詐欺師】に盗まれ名門は凋落ちょうらくした。


それが数百年まえの話だ。


つまり、そうであるならばこの男は、あちらの世界から……、


「呼びやすいよう、ニコラスでいいよ。お嬢ちゃん」

「えっと……その……」


「では、【巨大ゴーレム(ギガントマキア)】も残したし、その動力足る『白い賢者の石』も授けた。産まれた世界への義理は果たした。そろそろ戻ろう」


ニコラスは静かにほほ笑み、こちらへ……みけへ向けて手を差し出した。


「では、フラメルの娘よ。ゆこうかあちらの世界へ」


------------


男がまっすぐに伸ばした手を、みけはぼうっと眺める。

一秒か、数秒か、場が固まる。


「……ええっと、ニコラスさん?」

「この世界は危険だ。そろそろ氷に閉ざされる頃だろう。たわむれにゴーレムを残したとはいえ成功確率は極めて低い」

「……でも、私は……」


「それに私もそろそろ養子が欲しい。優秀な跡継ぎがな。あちらの世界も魔導、特にシルシの研究や継承は優れているのだが、やはりキミみたいな天然モノには劣る」

「……。」


「キミのソレはまさに破格だ。母体としても素体としても一級品といえるだろう。ぜひというか決定事項なのだが、私の養子足り得る」

「…………。」


「伴侶のペレネルに死なれてしまったのはまさに計算外だったが、こうして保険を組んでいてよかった。さあいこう【フラメルの娘】よ、新たな継承者よ」

「………………。」


みけに向けて優しく語りかけるニコラスは……たぶん、恐らく、絶対に。


みけを見てはいなかった。

彼女個人を見てはいなかった。


この視線は知っている。

この少女の元々の飼い主、腐った死霊術師ネクロマンサーの老人が同じ目をしていた。


モノを見るかのように、少女を見ていた。


――その視線まなざしから、みけを守るよう体を乗り出した。

  気づけば、仲間のみなもそうしていた。


「……なんだね、キミらは」

「みけ、言いたいことを言ってやれ。もう、あの時のオマエじゃないだろ?」

「……ええ、はい!」


みけは俺の背からひょいと顔を出し、開祖であるニコラスに告げた。


「私はこの世界から逃げません。あなたの養子にもなりません。全部ぜんぶ、自分のことは自分で決めます! だからあなたは、ひとりで帰ってください!」



またまたご評価頂きありがとうございますm(_ _)m

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