第160話 「3×3×3」
あのあと仲間と合流し、それぞれ安全を確かめあった。
そして、この依頼の対象であるレーテたち教会組も。
「……お久しぶりです、師匠さん」
「ああ。2年ぶりだな」
弱々しくも、しっかりとした声音で答えるレーテ。
2年前のことを思い出す。
始めての交易都市訪問、そしてそのまま【魔女の領域】との戦い。
雪オーク、白い翼竜やトロールを倒し続けた。
氷に閉ざされたエリアをほんの少し押し返し、そして赤毛の少年を助けた。
その少年がマルス君で、いまや聖堂騎士のいち部隊を任されている。
そして姉のレーテは、最上位の奇跡を行使できる聖女で、教会や民衆からの人気も厚い。
「……マルス君は?」
「仮眠をとっています。いま一番戦えるのはこの子なので」
2年前は、小柄な彼を12かそこらだと思っていた。
いまは見違えるほど成長し、立派に青年と言って差し支えない。
「ほら、まずは飲んで」とカシスが薄めたぶどう酒をみなに配っている。
マルス隊がこのダンジョンに挑んだのが2週間前、レーテがその3日後。
まず心配したのが食料、そしてなにより水だ。
人間は水なしだと5日、食料なしだと一月持たない。
これにダンジョン探索のプレッシャーや戦闘での消耗を加えると、さらに日数は縮むだろう。
だが、どうもそちらにはあまり困っていなかったようにみえる。
「……話には聞いていたが、パンとワインの奇跡か」
ザリードゥが神妙な顔でつぶやくと、レーテはうなずいて答える。
「『聖餐』……ですが消耗がとても強く、なにより自分の言葉を食べているに等しいので……」
「エウカ……ええと、アレか。食いもん増やせるの?」
「ええ。元になる食べ物や飲み物が必要ですが、日に一回、行使できます」
「……へええ」
なんか、ズルいというか、なんというか。
この世界でも、まえの世界でも、貧困や飢饉による餓死は当たり前に存在する。
そしてそうした人々が『聖餐』の奇跡を授かることはもちろんない。
「ザリードゥは使えるの?」
「バッカ、奇跡のなかでもレア中のレアだ。いろんな法則無視してるからなァ……」
まあ、野郎が術で増やした食料食べるのはなんか気持ち悪いしな。
女性あるいは女の子限定の術だな、うん。
「でもアスタルテ様も似たようなコトができますよ!」とイリム。
そう。
同じ土の精霊術師として、イリムはたまーにだがアスタルテに師事していた。
それによると、『繁茂』や『実り』という術で植物の成長を加速させたり、数分で果実を実らせたりすることができるそうだ。
んーぱっ、ができる巨大ミミンズクみたいである。
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教会の人々の回復を待って、先見した彼らからこの遺跡……【底なしの立方体】の情報を聞き出す。
「気付いているかもしれませんが……」
「ああ、さっきから遺跡の『回転』がないな」
「やはり、あなた方は歴戦の冒険者、優秀ですね。……そう、この中心にあたる部屋にみながいる限り、遺跡は沈黙を保ちます」
「ふむ」
レーテによると、この遺跡でわかったことは以下の点だ。
・この遺跡は27部屋の立方体でできており、それが3×3×3で組み上がっている。
・10分に一回、遺跡は『回転』し、その後ゴーレム達も再起動する。
・この遺跡への『入口』はちょうどここ、中央からの上の部屋の天井だが、開くことはない。また、新たな侵入者が入るさいには、元々の侵入者は『入口』にアクセスできないよう、各面の扉が閉じられる。
「つまり、閉じこめたうえで無限に再起動するゴーレムと『回転』する部屋で消耗させる。いずれ体力か食料が尽きて……と」
「ずいぶん悪趣味なトラップね」
先の部屋でも、この部屋でも、あまり見ないようにしていたがあちこちに餓死した遺体や白骨が転がっていた。
およそ半年分、この遺跡に喰われた冒険者たちの成れの果てだ。
「それと……ちょうど遺跡の外壁にあたる面はすべて、みたこともないほど鮮やかな色で塗られています。それに記号も」
「記号?」
「三角形が多かったですね」
「ふーむ」
カシスにそれとなく視線を送ると、彼女はすぐさま答える。
「私達が見た最初の部屋だと、天井が真っ白……でも記号はなかったわ」
「そうか」
うちの優秀な盗賊がそう言うのなら、そうなのだろう。
各面の色と記号は、なにかの謎解きか……とにかく調査すべきだろう。
この中心の部屋にいる限りは遺跡の『回転』もゴーレムの再稼働も起こらないため、まずはここから観察できる範囲からだ。
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「うーーーーん」
この中央の部屋から、天井を除くすべての部屋を確認、調査をまとめる。
たしかにレーテの言っていた通り、外壁部分はすべて、赤だったり青だったり、黒だったり。
最初の部屋と同じ、真っ白だった部屋もある。
……カラフルな外壁に、3×3×3の立方体。しかも『回転』するというと……。
同じまれびとであるカシスも「……ええっと」と困惑している。
「あのさ、カシス」
「なに」
「俺このダンジョン、なにかにすごく似てる気がするんだけど」
「……私も。ただ、あくまでまだ仮定ね。すべての部屋の、すべての外壁を調べてからじゃないと」
「ああ」
その後、俺たちは10分で回転の法則を念頭に置き、すべての立方体の外壁を調査した。
すべての面に色が塗られ、色に対応した錬金記号が描かれていた。
赤なら火精の△、青なら水精の▽というふうに。
そして、色の種類は全部で6色。青・赤・黄・茶・そして記号なしの白と黒。
それぞれの色は9面ずつ。
もう間違いようがない……このダンジョン【底なしの立方体】は、あちらの世界で有名なある玩具と同じ構造でできている。
この回の起承転結の、承部分がすこし長くなってしまいましたね。
そろそろ転ですのでお待ちくださいませm(_ _)m





