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第158話 「しねしねこうせん」

「うぉおおおおお!!」


傾き出した床に戸惑いつつ、なんとか体勢を保つ。

どうやら正面方向へ向けこの『部屋自体』が回転しつつ移動しているようだ。

回転方向に対して、見た目以上に体が引っ張られている!


「――師匠!」

「イリム!」


彼女の手を取り、迫りくる壁へとジャンプ。なんとか着地に成功する。

さきほどまで壁だった場所は床に、床だった場所は壁に。


「……天井が、真横にきたな。入り口もない……」


真っ白な天井……今は壁をユーミルが観察する。


そうしてその直後、それ以外の面に「シュカッ!」と音を立て穴が開いた。

床、天井、3方の壁。それぞれに真四角の穴……というより窓が正しいか。

ちょうど各面の真ん中に、1メートルほどの出入り口が。


「えーーっと、どう思うみんな」


これも罠の一種だろうが、それにしては「ぬるい」といえる。

初級の冒険者なら怪我をするかもしれないが、中級以上ならなんともないだろう。


針が飛び出すだの、炎が吹き出すだの、岩が転がってくるだの。

ダンジョンのトラップとは、そうした「直接こちらを殺そうとする」ものがほとんどだ。


「とりあえずみんな動かないで。足場が変わったってことは、踏む面が変わったってこと。そっちが本命かも」


カシスが腰の雑嚢ポーチから30センチほどの細い棒を取り出すと、それを手早く引き伸ばす。構造としては教師やテレビの司会者が使う指示棒や、伸縮式の釣り竿に似ている。

彼女が考案……というか知識を流用して作らせた11フィート棒である。


「じゃあ頼む」

「ええ」


3メートルほどになったソレを、しなる鞭のように操り、素早く正確に地面を叩いていく。彼女はあれで、発動型はもちろん、音の反響から罠の有無も判別できる。


「ユーミル、死期は?」

「……いつも通り師匠とカシスのは視えねーけど、他は大丈夫……」


オーケストラの指揮者のごとく、棒を右に左に振り回しつつ、カシスがこちらにやって来る。と、同時に俺の周囲の地面に、カッカッカッ! と素早く鞭が舞う。


「うん。さっきの私のまわりと、アンタのまわりは安全。あとは……」

「――師匠! カシスさん! 敵です!!」


イリムの叫び声で急いで周囲を見渡すと、左右や天井の穴からわらわらと、黒光りしたヒトガタが現れた。

錬金術師たるみけが、即座に敵を看破する。


「ゴーレム!? みなさん気をつけて、それなりに「やる」ようです!」

「館の裏に立ってるのに比べりゃずいぶん小さいな!」


軽口を叩きつつ火精を励起れいきするが、やはりダンジョンは嫌いだ。

いつもなら『俯瞰フォーサイト』で奇襲など受けようもないが、ここは地下深く。

さきほど『歪曲』の発動がクソ雑魚だったように、『俯瞰』も範囲が弱まっている。

せいぜい、2メートルかそこらだ。


「さっき私が『調査』したところ以外は踏まないでよ!」

「わーってるよォ!」

「はい!」


イリムはそう答えると、その場で体をかがめ、跳躍ちょうやく。5メートルほど離れていた俺のすぐそばで着地する。


「師匠は私が守ります!」

「任せた!」


さすが俺の彼女。頼もしいだけでなく、合理的だ。

現在踏んでもいい……つまり自由で安全に戦えるエリアは俺とカシスのまわりだけ。つまり機動力と素早さが武器のイリムが十全に戦えるエリアはここだけなのだ。


ザリードゥはしっかり地に足つけて戦うスタイルだし、ユーミルとみけは飛び道具主体の魔法職スペルユーザー

彼女らはその場で固定砲台となる戦法を選んだようだ。


「いきますよテディ! これが私の初陣です!!」


気合の入ったみけの宣言を皮切りに、小型ゴーレムとの戦闘が始まった。



------------



結果を言えば。

まったくの楽勝であった。


「もーーーっ、みなさん強すぎです」

「せやな」


みけはまたもや活躍の機会を奪われプンスコしている。

おおよそ30体ほどの小型ゴーレムは、手早く、そしてことごとく破壊された。


イリムの槍に、ザリードゥの聖剣魔剣に。

ユーミルの鎖と巨大刃ギロチンに、俺の『火弾バレット』に。


……みけの戦果は一発放った『魔法の矢(マジックボルト)』のみ。


「……でも、アレは凄かった。さすがミリエル。さすミリ……」

「ちょっとお姉ちゃん、照れますよ」


ユーミルは優秀な妹の頭をそふそふと撫でる。

すでにカシスの『調査』が終わったのでこのエリアの安全は確認済みで、つまり姉は妹の頭を愛でることが可能となったのだ。


「さっきのみけの、ボルトなんてもんじゃなかったな」

「ちょっと師匠さんまで……」


みなに褒められ顔を赤くして照れるみけ。


そう。

彼女の放った初級魔法、『魔法の矢』は指差した先を一直線に、まるでレーザービームのように敵陣を貫いた。

あの一撃で3体のゴーレムがバラバラに吹き飛んだのだ。

位置や射角が良ければその何倍も撃ち抜くことすらできただろう。


「あれだけ凄いんだから、なんか違う名前付ければ?」

「ううん……例えば?」

「ビームって……この世界ないんだっけ……」

「ビーム、なんですそれ?」

「ほらね」


魔法の光線(マジックビーム)』……は安直だけどカッコいいネーミングだし、いいと思ったんだけど。

カシスが横から割って入る。


「光線は? ……そうね、例えばしねしね光線とかでいいんじゃない?」

「オマエ……それはどうなんだ」


「いいですね!」みけがぱん、と手を叩き答える。


「えっ、不味くない?」

「なにがです?」


「……なんかいろいろ」

「そうですか?」


?マークを頭に浮かべたみけだが、すぐさま説明顔という名のしたり顔で答える。ちなみに彼女はこの表情と態度をまれによくやる。

理科系の中二キャラなのだ。


「以前から私の『魔法の矢(マジックボルト)』は威力に似合わない名前だと思っていたんです。だから光線、しかも呪詛を込めたモノとくればそれは魔術的にもチカラを増します」

「しねしねが?」


「相手を討ち滅ぼすという明確な宣言とともに、意思が術に乗るのです。微力ながら恐らく、生体に対する呪いも付与されるでしょう」

「……まじか」


なんか、小学生の悪口レベルだけど、みけがいいならそれでいいか。

なにより魔法・魔術は本人がしっくりくる、納得できることが大事なのだ。

みけがそう判断し、さらにそのうえで術式をいじるならそれが彼女にとっての真実になる。


ということで、みけはあたらしく『しねしね光線』をおぼえた!

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