第154話 「【四大】ダンジョン」
「探索に赴いた聖騎士マルスを追い、【奇跡の聖女】レーテが【四大】へ赴いた。いまだ帰らぬ彼女の救出をお願いする」
交易都市からの依頼は、【四大】と呼ばれるダンジョンからの要人救出であった。
……この世界には地下遺跡と呼ばれる、かつての優れた文明の遺跡がある。
大都市にある地下水道はほぼすべてその遺構を利用したものだし、他にもイカれた魔術師が人為的に造った物や、魔力溜まりにより自然発生した物などがある。
この2年間で遺跡攻略はいくつもこなした。
2000年前の、闇生みが滅ぼした文明はなんと、いくらかはヤツに対抗していた形跡があるらしい。
つまり、今とは比較にならぬほど魔法や技術が優れていたのだ。
そこから発見される魔道具を見つけることは、そのままレベルアップに繋がる。
足りない実力を補ってくれる。
現に、勇者は単体では人間の範囲(……といってもこの世界の人間はおかしいのだが)なのを装備によって【四方】入りしている。
「【四大】って、アレか?」
「踏破不能の4大ダンジョンのことですね!」
イリムが元気に答える。
冒険者にとって憧れのひとつなのだ。
「王都の地下はそのひとつだったよな? 1000年前の王国建国以来、いまだクリアしたやつがいないとか」
「……最深部がほぼ魔界だからなぁ、不死王や上級悪魔がうぞうぞいる……」
「マジか」
恐ろしい話だ。
なぜそんな場所にわざわざ王都を……と、今は他の四大はどうでもいいな。
「交易都市の地下水道って、たしかそんなに深くなくて、数年前に踏破済みじゃなかったか」
「ほうじゃの、【紅の導師】ジェレマイアと幼少期の【異端の魔女】リディア、そして死神【月喰らい】によって攻略されとる」
お……おう。みんななんか二つ名ばっかだね。まあそれはひとまず置いておこう。
「……ジェレマイアの日記にもあったな。つまり、まだ最深部があったのか?」
「ちょうど半年前かな、その最深部とされた部屋の床に、突然入り口が現れたそうよ」
盗賊であるカシスは情報通でもある。
「それ以来、いくつもの冒険者パーティが挑み……ひとりも帰ってきてない。最近は挑む命知らずもほとんどいないって話だけど」
「そんな場所に、なんでマルス達は……」
2年以上前、交易都市で【魔女の領域】と戦い、その後泣き崩れるレーテと、氷漬けのマルス少年に出会った。
そして【魔女の領域】をほんの少し押し返し、氷漬けの少年をザリードゥとともに助けた。
『治癒』と『宿温』の重ねがけで。
「あのときのマルス君、今年で16、17だそうだけど凄い才能があったみたい。聖騎士で、部隊をひとつ任されているんだって」
「……この世界の若者はすげえよな。で、その彼が交易都市の【四大】に挑んじまったと」
「で、お姉さんのレーテのほうは……」
「ああ、知ってる」
大陸でも珍しい、『大治癒』を個人で発現できる聖職者として、交易都市で絶大な人気がある。
どこぞの救世主がごとく、街や村を巡回し病や怪我を治してまわっているそうだ。
西方派、と呼ばれる教会組織のなかでも彼女は高い地位にある。
さきのマルス君もそうだが、年齢よりも功績や能力が重視される世界なのだ。
元の世界の神話や古代の歴史においてもそういった例がある。
例えばかの有名なアレクサンダー大王が東方遠征を開始したのは22歳。
ケルト神話の英雄であるクーフーリンに至っては、国の守りを一手に担い、ひとりで軍隊の行軍を足止めし毎日100人殺していたのが17歳。
恐ろしい話である。
「知り合いであるレーテにまず会う予定だったよな」
「ええ。……交易都市との交渉において、彼女の口添え……協力は必要不可欠よ」
最初、教会からの依頼と聞いて罠であることも疑ったが……コレは取りあえず保留。だが、可能性は低いように思う。
俺が【炎の悪魔】であるとする認識は、ここ2年の調査によればかつて存在した異端刈り、そして帝国の上層に限られる。
もともと民衆は氷の魔女だけでもいっぱいいっぱい、そこに新たな、まさしく俺という火種を注ぎ込むのはリスクしかないのだろう。
恐怖、そしてヒステリーに憑かれた彼の国は、いってみれば張り詰めた風船だ。そこにさらに空気をつぎ足せばどうなるか。
ゆえに、西方諸国や王国はおろか、ほとんどの帝国民は【炎の悪魔】なんていまだ過去の話……のはずだ。
まあ、もし罠なら罠で俺の『俯瞰』で、ユーミルの『死法の魔眼』で、事前に察知はできる。
そこから先も、いくらでも対処法は思い浮かぶ。
そしてここ2年、俺が修行に明け暮れていた間、イリム、カシス、ザリードゥの三人組は各地の遺跡を攻略し、お宝をかっさらい、ついでと各地の依頼もバンバン解決していた。
トライフォースとかいうださい(絶対カシスの命名だ)パーティ名で活躍し、その腕は大陸随一。
その名声を頼って依頼がきた、そうシンプルに受け取ることもできる。
まあ、ここでこれ以上考えていてもしかたがない。
「……この依頼を請けようと思う。いいか、みんな?」
仲間はみな、つよくうなずいてくれた。
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そうと決まれば早ければ早いほどいい。
ダンジョンに赴いた彼女らが、どれだけ準備していたのかはわからない。
装備も、なにより食材も。
有名グルメマンガとは違いこの世界のモンスターは食べてはいけない。
ワニの養殖の過程において、食べると魔獣化することが確認されたからだ。
「できるだけ急いだほうがいいな。アスタルテ、みんなを『地脈移動』は?」
「我ひとりなら問題ないがの、今は『流れ』が悪いのう。それにまた北方山脈を見てこんといかん」
「そうか」
アスタルテの『地脈移動』は地脈を用いた高速移動術だが、そのほとんどを大地の力に依存しており、いつでもどこにでも……というわけにはいかないそうだ。
彼女いわく季節のようなものがあると。
「表にすでに馬車は用意してあります」と屋敷のメイドさん。
しかし、馬車では10日以上かかる。
もっと速い移動手段はないものか……。
横からみけがハッとした顔で声をあげる。
「師匠さん! リンちゃんはどうでしょう!?」
「いや、リンドヴルムに6人乗り込むのはギリギリで……」
「いえ! 馬車の【荷台】を運んでもらうんです! できますか!?」
「……そうか!」
できる、と即答すると彼女の行動は早かった。
屋敷のメイドさんや、手先の器用なカシスと協力し、馬車の荷台にこまごまと細工を施していく。
箱自体を強化したり先端を尖らせて風の抵抗を減らしたり、内部はクッションなどを貼り付け快適性を確保。
最後に、リンドヴルムが掴みやすいよう、ロープを束ねたものをぐるりと回し込む。
「だいぶ急ごしらえですができました!」
「いや、上出来だ」
さっそく乗り込むか……と考えたところで、都市の大通りでの紅竜召喚はマズイと思い直す。
街を出て少ししたところからにするべきだ。
「師匠さんたち、これを」
「ああ、助かる」
この館のメイド長であるスミレからいくつか荷物を受取る。背嚢や雑嚢にはギッチリと保存食やアイテムが無駄なく詰め込まれている。
馬車の改造中に手早く準備をしてくれたのだろう。
本当に彼女たちは優秀だ。
「それじゃあ、行ってくる」
「ええ、ご武運を」
スミレが頭を下げると、つられて他のメイドさんたちも。
みなで彼女らに別れを告げ、ザリードゥが馬へムチを振るう。
そうして、俺たちは交易都市へ向け旅立った。





