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第131話 「炎の悪魔」

その後、水竜アナトさんは大樹海のほうへ去っていった。

聞けば、彼女は【竜骨】封印のカナメであり、だいたいいつも樹海で過ごしているのだとか。

……あんな雰囲気でも、大事なお役目があるのだ。


「そういや……竜骨の爺さんってどこにいるんだ? 獣人村の近く?」

「いや……ま、よかろ。誰にも言うなよ」

「うっす」


「あの大樹海の『どこか』じゃ。位置は確定しとらん。確定した術は解析が可能になる。解析が可能な術は解体できる。封印は解かれる」

「ふーむ」

「いわばあの大樹海に、存在を散らして閉じ込めておるわけじゃな」

「だから、俺が落ちたトコロに居るわけじゃないんだな」

「ほうじゃな」


……俺はあの日。

イリムの村で自警団の初仕事に失敗し、少女は殺され俺は刺され、樹上から蹴り落とされた。

そうして俺は【竜骨】に出会った。精霊術を授かった。

火精を扱う炎の精霊術師としての旅が始まった。

炎を扱う、まれびととして……。



「……その、さ」

「なんじゃ、さっそく修行の続きをやるかいの」

「【炎の悪魔】って、なんなんだ?」

「…………。」


そう。

この世界でまれびとが憎まれ恐れられ殺されてしまうふたつの原因。


【氷の魔女】と【炎の悪魔】。

前者はいまも実在し、彼女の話はどこでも聞ける。


しかし。

後者、炎の悪魔の話は、詳細がほとんどない。

文献も漁ったし、各地の旅でもいろいろと。

具体的な話はひとつもなかった。


ただただ、大暴れして、焼き尽くして、恐怖と怒りを振りまき。

最後に、かつての仲間に討伐された。

どこで聞いてもそれだけだった。


「長く生きてるアンタなら、直接会ったことがあるんじゃないか? 教えてくれ、どういうまれびとだったんだ?」

「知らん」

「……えっ?」


「会うたことがないからの」

「逃げ足の速いやつだったのか」


「……そもそも、我が知るかぎりそのようなヤツはおらん。万を生き、そしてその間のヒトの歴史において、一度もそんなヤツはおらん」

「――なん、だって?」


アスタルテは、純白の髮を海風に揺らしながら紅き瞳でこちらを射る。

真実、竜の眼差しでこちらを射殺す。


「炎の悪魔はの、恐らく存在しておらん。少なくとも我の知る歴史において」

「……その、なんだ」


「いつからかその話が上がり、ただ恐怖を持って語られておる。特にヒト族のあいだでの」

「……なんで、そんな」


「獣人もエルフも、もちろんラビット達も持っておらん、ヒト族だけが持つ恐怖じゃ」


……なんで、そんな恐ろしい目で、こちらを見ているのだろう。


「……そうさね」


アルタルテはくるりと向き直ると、遠くの草原に手をかざす。

ただのそれだけで大地が盛り上がり、ダンボールやソリなんかで滑るに良さそうな、ほどよい丘が出現した。


「アレに、今撃てる一番強い『熱杭ヒートパイル』を放ってみぃ」

「……わかった」


さきの話の流れから、なぜそうなるのかはわからない。

しかし師であるアスタルテがやれといったのだから素直に従う。


熱の砲弾を即座に形成し、砲身を敷く(バレルセット)、さらに敷く(セット)

そうして想起したモノを3本、 砲身直結(シングルコネクト)する。


ここまで所要時間は3秒。


そして、砲弾を叩き込んだ砲身に、火精と風精を過剰充填(オーバードーズ)……限界の、限界まで……!


――ここまでか! 今の自分の実力ではここまでだ!


際の際まで引き絞ったモノを、自分はまだまだ未熟であるという諦観あきらめとともに撃ち出した。

瞬間、大気を切り裂く金属のごとき怪音、ついで本物の爆撃音。


見れば、丘はまるごと吹き飛び、変わりに同じだけのサイズの大穴がぽっかりと口をあけている。

じゅうじゅうと焼ける音、火山の火口のように煙を吹き上げて。


「……まだまだじゃな」

「そうだな」


そう。

今ならわかる。

コレじゃ、ぜんぜんお話にならない。

毎日、四方アスタルテと訓練しているからわかる。


「……じゃが、やはりな」

「なんだ?」

「その術を見ると……なぜじゃか体に悪寒が走る。初めてみたときからじゃ。あの、十字路で見た貧弱極まるシロモノですらの」

「……そうか」


いつか見た夢が頭をよぎる。

勇者と初めて出会って、ベッドで横になり、そこで見たもの。


勇者と賢者と……俺。

3人で旅をして----を行なった日々。

あの、悪夢のようでいて懐かしさをおぼえた、『うたかた』の夢。


……半分は、わかりかけている。

……もう半分は、わかりたくない。


もし分岐がゲームのように見えたなら、そこはどこだろう。

考えるまでもない、イリムが俺を見つけてくれた、あの初めてのまれびと狩りの夜。『夜の宴』

トンズラこいた俺を、川べりで丸まっていた俺を、彼女は見つけてくれた。救ってくれた。

もし……アレがなかったら。

イリムが俺を見つけられなかったら。


このまれびと狩りの蔓延はびこる世界で、独りで旅を続けていたら。


恐らく、たぶん、絶対に。

彼と同じ道を歩んだだろう。



あのまれびと狩りの夜のことを思い出す。

なぜ俺が街の端である川べりに居るのがわかったのか、彼女に聞いたときのことを思い出す。



------------


イリムをおぶさりながら、彼女に問うた。


「そういえば、よく俺のこと見つけられたな」


街はそこそこ広く、ましてや俺は街の外れにいたのだ。


「……声が聞こえたんですよ。師匠は東の川辺りにいるよ、早く行ってあげて……って」

「ええっなにそれ怖い」


霊感かなんかかよ。


「たぶん、馬鹿な師匠ならああいうところでうじうじしてそうだなぁ……っていう私の直感がささやいたんでしょうね」


ひでぇな。ほとんど当たってるのも含めて。

そうしてふたりで笑いあった。

たしかに、大当たりだなぁ、と。


------------



そう。

そうだ。


そしてわかってきた。

ちかごろめきめき伸びてきた『空間魔法』を理解しつつある俺には、わかる。


空間と時間は、極めて近しい存在であると。

ほとんど同じものが、違う見え方をしているだけであると。


たぶんそのうち、そういうこともできるかもしれない。

声だけなら、そういうことが。


気付くと、純白の幼女の紅き瞳はまっすぐに俺を視ている。

優しさと、信頼と、ちょっぴりの恐れでもって。


「我は、おぬしを信じておるからな、炎の精霊術師たるまれびとよ」

「――ああ」


この世界には、炎の悪魔なんていない。

そんなモノは、とうの昔にひとりの少女に殺されたのだ。

優しく、つよい、ひとりの少女の手によって。

そしてその後の出会いのすべてによって。


……心からみんな、ありがとう。


俺は絶対に、そんな存在にはならない。


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※『うたかた』90話

 『夜の宴2』26話に該当します。

 次話は少し違う世界線のお話になります。



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