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第117話 「すべての敵だけを破壊する」

――極光。

そして轟音が水面に炸裂した。


波間をたゆたう小さきひとびとは。

彼らは。

みな海面を泳いでいた。

必死に泳いでいた。

体を水に濡らしていた。


そこに雷が殺到した。

結果は誰にでもわかる。

それこそ小学生にも。

彼らの見た目は、それの中でも小さめではあったけれど。



「――はあっ、はあ……」


海面には、たくさんの彼らが浮かんでいる。

波間に揺られ、たゆたっている。

たくさんの小さき人が、まるで波に浮かぶゴムボールのように。

ただプカプカと浮いていた。


「……師匠! 戦いに集中しろ!!」


ユーミルの叱責、それを頼りになんとか持ち直す。

心を殺して持ち直す。

正直、もう、限界だった。


だが、その限界の始まりはこれからであった。


俯瞰フォーサイト』を展開しているからわかる。

また、悪魔の詠唱が始まっている。

あの法衣が、悪魔への祝詞ねがいを口にしている。


招雷サンダーヴォルト


第一便が破壊された。

砕けた船からたくさんのひとびとがこぼれ落ちる。

そのなかに、十人のまれびとがすべて乗っていた。

最初の便に、残りのまれびとがすべて。


招雷サンダーヴォルト


第二便が砕け散った。

砕けた船からたくさんのひとびとがこぼれ落ちる。

そのなかには、子どものラビットもいた。

たくさんの、大事な命。


……ここで悪魔の詠唱が止む。

さすがにこれだけの奇跡行使、いや。

悪魔行使は体にくるのか。


そのすきになんとかこぼれ落ちた人々は海岸へと泳ぐ。

目指すは砂浜、容易に上陸できる地形へと。


そうして、詠唱が再開された。


俺は叫んだ。

止めてくれと。

助けてくれと。

殺さないでくれと。


そうして、神罰は下された。

必死に地上を目指した彼らは、必死に生きようとした彼らは、真に誉れある彼らは。

ことごとくが紫電に焼かれ、朽ち果てた。

海岸に打ち上げられた。

藻屑のように。

ゴミのように。


限界だった。

俺の心はこれ以上は耐えられない。

これ以上無辜(むこ)の死に耐えられない。


なのに。

俺は的確に戦線の維持を行っていた。

心と行動を切り離して戦いを続けていた。

そういうモノに成れていた。


だから、この先のことにも耐えられると思っていた。


浜辺に打ち上げられた彼らのうち、幾人かは立ちあがった。

悪魔の紫電に焼かれ、立ちあがったのだ。


それから、海岸線の北側、灰色港のほうから。

たくさんのラビット達の軍隊が救援に駆けつけてきた。


いっきに大混戦となる。

俺たちは浜辺の生き残りの勇者たちをこちらへ誘導しつつ、北東の援軍のほうへ猛進した。


「師匠! まだまだ、まだまだ……です!!」

「ああ!!」


イリムはボロボロと大粒の涙を流しながら、進む先の敵をとく殺し尽くしていった。

ほとんど前線はドワーフ部隊。

俺の炎は効きづらい。

そしてなぜか、そのドワーフ部隊からも。

煮え切らない雰囲気を感じた。


だが、今この時。

彼らはただの障害でしかない。

俺は火精の消費を最小限に抑えつつ、物質化マテリアライズした『火槍』を叩き込んでいった。


ザリードゥは無言で活路を開いていった。

両の手でつるぎを流れるように、嵐のようにきらめかせ、ことごとくを薙いでゆく。


上からみて、俺たちは。

敵の群れ、うごめく大軍のただ中を切り裂く三角錐となって突き進んだ。

すぐ後ろには浜辺の生き残りの勇者たち。

彼らも手に手に武器を握り、生き残るため全力を尽くす。


そして、切り開いた血路の先で。

一匹の悪魔が殺戮を謳歌おうかしていた。


------------


北からの援軍と、帝国兵、ドワーフ、異端狩り混成の大軍。

その衝突点は、まさしく混戦の極みであった。


もみくちゃに敵味方入り乱れ、満足に刃を振り抜くこともできない。

右は味方で、左は敵。

その状況がおびただしくひたすらに広がっている。


その中にあって、自由気ままに剣を振り抜く存在がいた。

ひときわ目立つその大剣。


「……おい、ザリードゥ」

「なんだよ師匠」

「あれ、最近見たことある」

「だろーなぁ……」


その、大剣を握った美丈夫は、天にツルギを掲げ、祈った。

そうしてそのツルギはまばゆい光に包まれて、信徒の願いに答えを示した。

彼はそれを振り抜く。

一切の迷いも疑問も挟まずに。


「『神の怒り(ラース・オブ・ゴッド)』ィィィイイイイイ!!」


その極光が炸裂したエリアでは、すべてのラビット族が破壊されていた。


あるものは斬撃として。

あるものは打撃として。

あるものは爆砕として。

小さきひとびとだけが殺されていった。


黒鉄のドワーフ戦士、帝国の鉄の兵士、そしてもちろん白き異端狩り。

彼らには一切の痛痒つうようすら与えずに。


そう、あの奇跡の効果は知っている。


すべての魔物だけを破壊する。


そう。

あの大剣を振るう男の中では、そして彼の信ずる神は。

すべての魔物、その定義に。

まれびとを歓迎する悪魔の種族としてラビットを定義づけ(カテゴライズ)したのだ。


男が極光とともに大剣を振るう。

ラビットだけが死ぬ。


再度、男が極光とともに大剣を振るう。

ラビットだけが死ぬ。


それが五度繰り返されたところでわかった。

あの奇跡の定義は違う。


神の怒り(ラース・オブ・ゴッド)

すべての敵だけを破壊する。


だって彼らは、決して魔物などではないのだから……。



評価、ブクマともにありがとうございますm(_ _)m

作中でも厳しい展開が続いていますが、とても励みになりました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 帝国は氷の魔女を片手間に対処しながらこちらに殲滅せしむるほどの戦力を出せるのか。 [一言] 北西が潰されたのは単なる油断だった説が出てきた。
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