第115話 「ラビット庄の掃蕩」
平和な日々。
静かな時間。
ラビット庄や、まれびと地区での交流。
そこで得た情報や、見識はとても有意義なものだった。
いろいろ思いついたこともある。
開拓村や、そしてこの世界の常識を変える手がかりもいくつか。
……しかし、そう。
静かな平穏のあとには、必ず。
その期間が長ければ長いほど。
人の世にそれは起こるのだ。
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「師匠!!」
「……なんだ」
ラビット庄の宿での何度目かの目覚め。
しかしそれは、いままでの目覚めとは決定的に違っていた。
悲鳴、騒音、爆撃音。
刹那で脳を叩き起こす。
「状況は!?」
「帝国兵、ドワーフ部隊……それに異端狩りです!」
「なんだって!」
ベッドから飛び起き、急いで身支度。
10秒かからずそれを終え、相棒たる黒杖をしっかと握りしめる。
イリムとともに宿を飛び出すと、周囲はまさしく地獄そのものだった。
燃え盛る家々、あたりに散らばった小さな人々。
子どもも、大人も、老人も。
ひとしく誰もが平等に扱われていた。
「師匠!」
ザリードゥの一喝でフリーズした脳を再起動させる。
そうだ。
立ち止まれば立ち止まるだけ、これが起こる。
であるなら悲しむのは後だ。
周囲に仲間たちも集まっている。
まずアルマが状況を伝える。
「この村を取り囲むように、突如森から大軍が。
おそらく、すべてを封鎖し根絶やしにするつもりですわ」
「逃げ道は!?」
「海岸、そこからなら頑張れば……」
海か。
しかし、海に逃げ込もうとも、そこから大陸まではかなりある。
船が足りるのか、どうなのか。
泳ぎ切るだけの体力が、異世界人にはあるのか。
だが、そうだな。
やるべきは決まった。
「できるだけ助けて、できるだけがんばって、包囲の速度を落とそう!」
「了解!」
「わかりました!」
「ほいさ!」
秒で作戦が行き渡る。
あうんの呼吸。
このパーティは、本当に優秀だ。
その直後、美しの塔の方向から。
丘を越え大軍があらわれた。
鉄鉄鉄、くろがねの群れ。
ギラギラと鈍い光を見せつけながら、ソレはこちらへ迫っている。
彼らは、主に長い槍で武装しているようだ。
……?
その槍にたくさんの、なにか丸いモノが突き刺さっている。
なにかの追加武装、あるいは魔道具か?
「…………。」
部隊が近づくたび、ソレの仔細が明らかになる。
見たくもないモノを見せつけられる。
「……ちくしょう……」
怒りで食いしばった歯から、血がにじみ出る。
彼も、彼女も、あの子も。
まれびと村で出会ったたくさんの同胞であった。
……あの黒い髪の青年は、サトウさんか。
サトウさんの下には彼の娘が。
会ったことはないけれど、その下は奥さんだろう。
そうか。
そうだな。
すべてがベキリとへし折れる音が脳内から。
――――皆殺しにしてやるよ。
想起するはひたすらに破壊の炎。
火炎の暴風、ただそれだけ。
限界まで鼓舞された、いまだここまでの破壊衝動にさらされることのなかったぴーすけ含む火精達は。
真実このとき初めて。
歓喜の産声をあげた。
――やっと、本当の力が出せるのだと。
俺の咆哮と、彼らの咆哮が互いに重なる。
同じ意思のもとチカラを織りなす。
そうしてカタチ作られたソレを、前方の大軍に展開した。
巨大な火柱、そしてそれが渦を巻き炸裂する。
ひとつのビルほどの『火炎旋風』が大軍をかき回す。
ソレを左右に振り回す。
豆粒のように、ゴミクズのように。
兵士たちが巻き上がり焦げ上がる。
「……まれびと、お前……」
「――ハアッ!ハアッ!!」
「師匠!」
ぽふっ、と温かいものに抱きとめられる。
「師匠、目と、鼻から血がでてます!」
「――それが、なんだよ!」
「師匠、だって!」
「ごちゃごちゃうるせぇな、あいつらを皆殺しにしないと……」
ペチン、とほほをアルマに叩かれた。
ものすごく冷めた目で俺をにらんでいる。
「師匠さん、冷静になってください」
「――いや、だって!」
「大軍攻略の要は師匠さん、アナタです」
「……だったら!」
「であるから!そんな暴走のようなチカラを行使していつまで持ちますか!?」
「……。」
「あくまで戦いを、継続しなければなりません」
「……。」
「なぜなら、今この時も殺戮にさらされんとする人たちがいるからです」
「……それは」
「彼らをひとりでも多く守るために戦うんです」
「……守る……ために」
そうだ。
それが正しい行いだ。
「すまない……みんな」
「イヤ、いいぜ師匠」
「実際、あの一撃に関しては有効でした」
「……まー、連続して師匠がぶっ倒れたらぜんぶおじゃんだったけどな……」
「では、やはりここは冷静なるリーダーの指示に従ってくださいね」
「頼む、アルマ」
仲間一丸となってうなずく。
この危機を、この悲劇を、乗り越えるために。
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