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第106話 「カンパネラ」

出航からしばらく、海を眺めつつ思案にふけっていた。

最初、【氷の魔女】とその領域の脅威、そして大陸地図を見たとき思ったのだ。

だったら違う土地に逃げればいいじゃないか、と。


だがこの世界はそれすらも許さないらしい。

ザリードゥの奇跡に何度も世話になっておいてなんだが、この世界の神サマはずいぶん意地が悪いね。

まあもとの世界も神なんかいるような世界ではなかったが。


「こわい顔をしてどうした客人!ははんそうか、船酔いかこのお子ちゃまめ!」


へへんと存在しない胸を張る船長、カンパネラ。

白い歯を見せイシシと笑っている。

海風と、強い陽光にその笑顔がとても似合っていた。


「いや、船旅なんてほとんどしたことなくてね」

「なんと!それは人生の損失ですらあるぞ!

 海はいい、風もいい!魚もうまいしなぁ!」


「この船は、定期船以外はやってるんですか?」

「我がブランディワイン号は大陸と島との架け橋だ。

 そしてそれはまれびととの架け橋でもある」


突然、まれびとというワードがでてきてすこし驚く。

この世界で、自然にすらっとその言葉をく人物は稀だ。


ほとんどは憎悪とともに。

ほとんどは侮蔑とともに。


しかしカンパネラの口調からは一切そういったモノを感じなかった。

ただの、日常の会話のような。


「その……俺はひどい田舎からでてきてだな、世情に疎いんだ」

「ああ、そうか。つづけたまえ!」

「なぜフローレス島、そしてラビット達はまれびとを歓迎するんだ?」

「わからん!」

「そうか……って、ええええ!」


なにか重大な理由とか秘密があるんじゃないのか!?

そういうのを期待していたんだが……。


「わからんが、好ましく思う空気や匂いを感じるのだよ!

 そしてそれは郷愁きょうしゅうにもちかく、また父にもちかい!

 心がキミたちを歓迎しているのだ!」

「いや、うーん」


「それにまれびととは異客まれびとだ。

 まれなる客だ!

 どうして無碍むげにできようか!

 ようこそ、客よ、キミを歓迎しよう!」

「ええと、そのありがとうございます」


…………ん?

今なんて……。


「そう警戒するな。こたびの船路、キミの敵なるものはいない!

 教会も帝国もはるか彼方、スパイも内通者もなしだ!」

「……その、なんで気がついたんですか」


「架け橋たるブランディワイン号の船長を舐めないでもらいたい!

 幾人もキミたちを見てきたからな!外面だけでなく内面でもだ!」

「……。」


「この船はすでにフローレス島!安心めされよ」


村長、カンパネラはイシシと笑う。

その笑顔を見て、なぜか自然と目尻が熱くなった。

彼女はこうして、幾人ものまれびとの心を救ってきたのだ。


ふつうの態度で。

ふつうに接して。


俺は自然に頭を下げていた。

この小さく偉大な船長に。


「そういえばキミはこうするのが好きなんだろう!」


彼女の目線ほどに下げた頭をぐりぐりとなでられる。

恐らく、彼女にとってこれは初めての行為ではないのだろうな。


------------


そして5分後である。

つまり五分後の世界である。

文学である。


「師匠」

「はい」

「師匠はですね、ああいうプレイが好みなんですか?」

「えーっと……たぶん絶対誤解があるかと」


カンパネラに頭をぐりぐりされていたら、突然船の反対からイリムが走ってきたのだ。

すごいダッシュだった。


そうして船長から引き剥がされ、いまは船尾の甲板で正座中だ。

彼女は小さな体で腕を組み、ケモミミはピン!と空を突いている。

まさしく仁王立ちである。


「小さな女の子に撫でられて、泣いて喜ぶのが師匠の趣味だったとは」

「……。」


はたから見たらそう見えたのか。

確かにそれはキメエな。

だいぶぜんぜん誤解があるけどね。


「弁明の機会をくれないか」

「いいでしょう」

「まず、」

「泣いて喜んでましたよね?」

「ええと、」

「泣いて喜んでたのは事実ですよね?」

「まあ、それに間違いはない」


嘘をつくのはよくない。

カンパネラの人柄と、それによって救われたであろう人々。

感極まったのは事実だ。


「とんだ変態さんですね」

「いやあの、感動したんだよ」

「小さな女の子になでられると感動するんですか。救いようがないですね」

「うーん……」


ちょっと気恥ずかしいけど、本心を言おう。



「イリム」

「なんですか変態さん」

「俺がこの世界に来て、一番心動かされたのはあのときだけだ」

「……?」

「あの辺境の街、初めてのまれびと狩りの夜。

 俺を抱きしめてくれたイリム。お前だけだ」

「……ええと、」

「あのとき俺のすべてを救ってくれた、そう俺は思ってる。

 あのときお前がいなかったら、すべてがおかしくなってた」

「…………。」

「その気持ちは、1日たりとも忘れたことはない。

 改めてイリム。本当にありがとう」


頭を下げる。


あの夜以降。

うやむやになっていて。

旅も大変で。

仲間も増えていろいろあって。


きちんと言えなかった礼を初めてここで言えた。

ぶっちゃけ恥ずかしくて言えなかっただけだけど。

それは俺が恩知らずのフヌケ野郎だからだ。


「師匠」

「なんだ」


下げたままの頭を、イリムに抱かれる。

そのままぐりぐりとなでられる。


「ほんとに師匠はしょうがないですね」

「そうか……すまない」


「どうです?こうされて」

「ああ、すげえ感動するな。心がポカポカする」

「えへへ、そうでしょうとも!

 師匠は私がいないとだめですからね!」


しばらくふたりでそうしていた。

彼女への信頼と、彼女からの信頼と。

たがいに与えあえる関係が、とても心地よかった。


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