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第105話 「ブランディワイン号」

フローレス島のラビット族。

ウサギ耳の種族で、まれびとを歓迎する唯一の種族だ。

そこへは自由都市の港から、定期船で訪れることができる。

その船の船長はなんと、ラビット族であった。


「やあやあキミたちが次のお客様か!」

「……うわあ」

「わたしのお船へようこそ!ようこそ!」

「……ね、だから私は苦手なの」


カシスがはあ、とこちらへ聞こえるようなため息。

俺はなるほどこういう系ねと納得。


彼ら【ラビット】は、いわゆる子ども種族であった。


元祖指輪運搬人(ポーター)から派生し、ハーフなんちゃら、そしてペドロリショタ種族。

ラビットは圧倒的に後者であった。

4頭身のぷにぷにしたおこちゃまが船内をうろちょろしているさまは、これから学芸会かなにかが始まるかのようだ。

いやお遊戯会か?


「うわー、師匠!すごいですね初めてみますよ!」

「うん、そうね」


今まで王国でも西方諸国でもラビットを見たことはない。

イリムに昔聞いたときも子ども種族はいないと聞いた。


……まあ当のイリムが成人しているわりにはとてもそうは見えないのだが。


「……自由都市だとたまーに見るぞ……」

「ごくごく稀に、冒険者やってるヤツはいるけどなァ」

「えっ、あの体型で?危なくないか」


「手先が器用、すばしっこく隠密ステルスは彼らの右に出るものはいませんわ」

「ああ、マジでそういう種族なんだ」


「あと、ラックがすごくいい。

 盗賊シーフに一番必要な才能って、なんだかんだでソレだしね。私もほしい」

「そうか」

「あまりによすぎてほとんどの賭場では立ち入り禁止。

 まあ、フローレス島からほとんど出てこないけど」


話にラビットたちがわって入る。


「わたしのような船乗りは違うぞ!もちろん船員たちもな!」

「はいさおやぶん!」

「そのよびかたはやめるのだ!」

「へい、あねき!」


わちゃわちゃと会話に割り込んできたラビットたち。

元気のかたまりといった感じで、見た目どおり精神も幼そうなんだけど。

……操船とか任せて大丈夫なのか?


「ええと、キミが船長さんか。偉いね」

「なぜあたまをなでるのだ!?」


ペシ、と手を払われる。

そうか。

初対面で失礼だな。

いつもイリムやみけにやっていて、つい父性本能がな。


背後から殺気を感じて振り返る。

にこにこと微笑むカシスさんであった。


「アンタ、ほんと好きよね小さい子と接触するの」

「なんですかその、犯罪者みたいな言い方」

「日本だったらそろそろ重犯で死刑よ」

「まじすか」


もし送還されることがあったら気をつけよう。


正面の船長さんを改めて見る。

淡いピンク色のショートヘアでウサギ耳がぴょんと飛び出している。

くりっとした緑の瞳で、元気な子どもそのものだ。

いかにも船乗り、といったラフな格好で、だぼだぼなズボン。

腰には小さなサーベルをいている。

身長はイリムよりさらに低く、100センチあるかないか。


「よろしくなっ!わたしはこの船【ブランディワイン号】の船長、カンパネラだ!」

「ああ、よろしく」

「そうとも、よろしくだ!」


カラコロと鐘の音のような声が耳に心地いい。

見た目はアレだが、海の女にふさわしい陽気さのおかげだろう。

出航の準備のため船員に激をとばすその声も、追い立てるようなものではなく元気づけるものだ。

船員たちもわちゃわちゃニコニコと、一生懸命働いている。


「師匠さん、コレを」

「ああ、そうね」


アルマから渡航証明書パスポートを受け取る。

乗船時に彼女がパーティの代表としてまとめて提示していたが、そのあとは各自で管理。

船内での臨時チェックや、フローレス島への立ち入りの際に必要となる。


「ではヨーソローだ!ゆくぞ出航なのだ!」

「ヨーソロー!」

「ヨーソロー!」


もやいが外され、帆船はんせんの帆が張られ、ぐらっと地面がゆれる。

おっ、と軽くたたらを踏み、すぐ横の船のヘリを掴む。

さすがというか、イリムやザリードゥ、カシスはまったくバランスを崩さなかった。


「アンタも足腰はもう十分なはずだけど……」

「不意打ちには弱いんだ」

「気をつけてくださいよ、師匠!」

「へいへい」


船のヘリに体をあずけ徐々に離れゆく自由都市を眺める。

こうして海から見るとわかるが、ナポリなどのイタリア風の港町ににている。

ベージュやレンガ色の四角い建物が多く、そこにぽつぽつと水色や黄色が混じる。

違いは、港自体の規模がひかえめなこと。


「あんまり大型の船がないようだけど」

「……外海は行かないからなぁ……」

「そうなの?」


ユーミルはここの出身で、街にも詳しいはずだ。

なにかこの街独自の理由があるのだろうか。


「ええと、師匠さん。もしかしてですけど」

「あん?」

「知らないんですの?」

「……まー、今まで内陸だったからな……」


「なにが?」


みなから奇異の目で見られる。

ものすごくあたり前のことを知らない子どもを相手にするかのような。


「師匠さんの故郷に海は?」

「むしろ海まみれだ」

「海の向こうに行けるのですか?」

「ああ。船、あと空飛ぶ乗り物でね」


アルマは5秒ほど絶句していた。

やれやれと頭を抑えてすらいる。


「やはりまれびとの世界は驚異的ですわね」

「まあ、科学技術は自慢できるな」


あちらの世界に魔法はないが、科学の力は凄まじい。

長い歴史と偉大な先人たち。

魔法にまったく引けをとらないモノだと思う。


「……海の向こうにはな、行けないんだよ……」

「?」

「大陸が見えるか見えないかぐらいまで外海にでると、そこから先は死地です。帰ってきた船はありません」

「……海底がガクッと深くなる……」


「あまりに深い海は、そのサイズに見合った生物の楽園です。

 山程もある大海魔クラーケン大海蛇リヴァイアサン、船を丸ごと掴んでいずこへ連れ去る怪鳥シムルグ

 人間に許された領域ではありません」


つまり、巨大生物の群れか。

地球防衛軍を召喚するべきだな。


「私も一回、漁船から見たことあるけど」

「ああ」

「スカイツリーを2本、そのままくっつけたみたいな海ヘビが泳いでた」

「うおお……すごいな」


水族館で大きめの魚とか、わりとゾクッとするけどそれの比じゃないな。

キロメートルレベルの生物とか、意味がわからない。

地球防衛軍でもムリそうだ。


「ですから、あまり大きな船は意味がないんです」

「ふうむ」


ということは、あの大陸地図。

外がどうなっているかはわからないということか。


「飛行魔法とかは?」

「最上位の魔法ですわ。

 しかも過去にそれで何人もの魔法使いが旅立ち、みな帰らぬ人となりました」


外海へラストダイブ。

勇敢なのかイカれていたのか。

たぶん両方を持ち合わせた冒険野郎だったのだろう。

そういう莫迦バカは嫌いじゃないぜ。



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