第104話 「元冒険者の成り上がり」
自由都市からフローレス島への渡航には、領主が発行する渡航証明書が必要となる。その手続は配下の者が行うそうだが、アルマがここの領主と知り合いだということでついでに挨拶しておきたい、と。
連れがいないと様にならないとのことで俺とイリムも同伴。
今はこうして館のホールで領主どのに謁見している。
「フラメル殿、遠路はるばるご苦労であったな」
「いえいえ、カナール殿もお元気でなにより」
ここ自由都市の領主、カシェム・カナールはなんと元冒険者だとか。
数々の冒険譚で知られ、実力と幸運で今の地位にまで登りつめたそうだ。
冒険者時代にアルマの親父さんに世話になったらしく、その交友がいまでも続いている。
「あなたがたがアルマくんの仲間の?」
「はい」
「どうもです!」
カシェムさんはふうむと注意深くこちらを観察してきた、いや。
観察というより『鑑定』か……彼の茶色の瞳が鈍く輝いている。
「君は徴がないみたいだけど、魔法職だよね?」
さすが元熟練の冒険者。
その眼力は今なお壮健だ。
「……精霊術を使います」
「えええっ!!ほんとうかい!?」
「ほんとですわ、私も確かめました」
「いや、たまげたなぁ……現役時代でも一度だけ、西森の古老に会ったきりだよ」
「そうだ師匠さん、ぴーちゃんを見せてあげては?」
「えっ、ああ」
なんとなく仕草があったほうがカッコいいかな、と黒杖で床を打ち鳴らす。
とたんに俺を守るようにぴーすけが顕現、彼は体をくねらせ、「がお」とのんきにあくびをした。
「おおおおおおおおお!!
火蜥蜴……いや紅飛竜か!?」
最近成長期に入ったのか、ぴーすけは召喚のたびにデカくなっている気がする。
そろそろ3mにはなる。
領主のひろいホールとはいえ、これだけサイズがあるとさすがに窮屈だ。
「なあ君、この、彼に乗ってもいいかい!?」
「ええっ!」
その発想はなかったな……。
さすが元冒険者か、いい年したおっさんだと思うのだが、心は少年のようだ。
「えーっと、たぶん大丈夫だと思います」
「そうかそうか!」
ニコニコとした顔でぴーすけの背中にまわる領主どの。
ぴーすけも特に嫌がることなく体を下げている。
背中の突起に気をつけ、それを掴みながらなんなく搭乗した元気なおっさんは破顔した。
「この歳になって夢が叶ったよ!私はついにドラゴンライダーだ!」
「よかったですわね、カシェムの叔父様」
そっか……乗れるっちゃ乗れるんだよな。
アレで飛ぶのはちょっと遠慮したいが。
しゅたっ、と飛び降りたカシェムさんは満面の笑みでこちらの手を握る。
「ありがとう、師匠くん!」
「いえ、よろこんでもらえたのなら」
「と、そうだな。渡航許可だったか」
カシェムさんは執事にアレコレ指示をだす。
すぐに彼は書類を取りに屋敷の奥へと歩いていった。
その後ろ姿をイリムがじっ、と注視している。
「すごいですね、今の人」
「うん?」
「気配も足音もまったくしませんでした。たぶん空気もほとんど……」
「……へえ」
気になって『俯瞰』を走らせると、確かにさきの執事さんの歩法はおかしかった。まるで、空間を凪ぐかのようであり、イリムの言うとおり大気すらほとんど震わせずに移動している。
「すごいね君は、お嬢ちゃん。彼は元盗賊だからね」
「やはりですか!ただものではない気配はしていましたが……」
「現役のときはもっとすごかったよ」
「なんと!」
というと元仲間あたりか。
元凄腕で現執事か……武器は糸とか使いそうだぜ。
と、そうだここにはもうひとつ大事な用があるのだ。
「領主様、お聞きしたいことが」
「なんだね、あとカシェムさんでいいよ」
「ではカシェムさん。
ここ自由都市はフローレス島と契約を結んでいますが、なぜです?」
「彼らに頼まれたからだよ」
「領民は納得しているのですか?」
「うーん、おおむねは。
教会がらみがちとうるさいけど、彼らもここではそう大した勢力ではないからね」
4年まえはその裏をかかれたけどね……と小さくこぼす。
4年前……みけの実家であるネビニラル家が異端狩りに襲撃されたときか。
「王国や他の街と比較するとちょっと考えられない制度ですよね?
まれびとは処刑せずフローレス島への追放というのは」
「追放じゃなくて移送だよ。
ことばを間違えないでくれ、ラビット達にどやされる」
「いえ、すいません」
「そうだね。いくつか理由がある。
まず、この街ではそもそもまれびとへの憎悪が薄いんだ。
大陸の南端、冬の脅威もはるか北。
それが長いあいだ続いているんだ。
帝国からすれば平和ボケとそしられるだろうが、彼らもはるか北東だからね」
地図を見ればわかるが、帝国がもっとも危機感を持っているのは間違いない。
大昔に冬の侵攻で国土に線が引かれ、帝都の移転も余儀なくされている。
彼らがもっとも俺たちを憎悪しているのは間違いない。
現に、最初にこの世界で遭遇したまれびと狩り。
あそこは辺境の街であり、聞けば帝都との交流も多い。
あの青年の体を、死後も必死に痛めつけていた者のなかに、帝国出身者もいたのでは。
そうだ。
罵声のなかには子どもを返せというのもあった。
つまり、あの辺境の街も憎悪値が高いエリアだったのだ。
そう考えると、帝国から最も遠いこの街は最もまれびとへの憎悪が低い。
「それに僕個人の感覚でも、それほどまれびと狩りは賛同できない」
「……なぜです?」
「冒険者としていろいろ見てきた。
ある価値観が絶対だなんて到底ナンセンスだね」
「……。」
こういう人がもっと大勢いればこの世界も違っただろう。
たしかに、まれびと狩りへの対応にも個人差があるのはわかる。
ザリードゥなどの獣人種を別にしても、最初のあの夜ですら参加しない者、「あいつらよくやるよ」などヤジを飛ばす者。
さまざまであった。
「それにね、なによりね。彼らだ」
「誰です?」
「フローレス島のラビット達さ。
彼らにお願いされたら誰だって断れないよ」
「ほう」
交渉に長けた種族なのか。
すごく頭がいいとかだとすこしやりにくいな。
「とてもかわいらしいんだ」
「へっ?」
「しかもこう……みんなで囲んでお願いされたらねぇ。
アレはちょっと、コロッと頷いちゃうよ」
「……そうですか」
交渉事がうまい、は当たっているようだが、知力判定ではなく魅力判定のようだ。
エルフのように美男美女の美しい種族とかか。
……会うのに別の楽しみが増えたな。
ブックマークしてくれた方々、ありがとうございますm(_ _)m





