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家に帰り着いた時、時計は10時を指していた。
大学生ならまだ起きてるだろうと思い、電話をかけた。
…出ない。
何度かかけてみるが、留守番サービスに接続される。
もしかしたら何かしているかもしれない。例えば皿洗いとか。
しばらく時間を置くために晩飯を食べる。
すると俺の携帯が鳴った。
画面を見ると、他の誰でもない、彼女からだった。
不用心な奴め。そう思って電話を取る。
「もしもし」
『あの、さっき何度かお電話頂いてたんですが…』
しばらく黙ってみたが、もう無理だ。どちら様ですか?と尋ねようともしたけど、話をしたいという欲求に負けた。
「古野ドライビングの内村です」
『あ、やっぱり?すみません、お風呂に入ってて…』
彼女が笑っている。が、そこは彼女のためにガツンと言っておかないと。
「かけ直すなんて不用心だなぁ」
『すみません…でも根拠はないけどそうだって思ったんです』
受話器の向こうで彼女が笑っている。何だか嬉しかった。
「あ、でさ、休みなんだけど…一番近い休みが今度の火曜なんだよね。どう?」
『あー…火曜はバイトが…』
「何だとー!?」
『すっ、すみません!』
電話でも会話の雰囲気は変わらない。だからこそついついいじってしまう。
「いいよいいよ。じゃあ木曜は?」
『あ、その日なら大丈夫です』
よし、決まり。
「じゃあ朝から空けとけよ。9時に下山駅前ね」
『はい』
その柔らかな声からいつもの笑顔を想像する。無意識のうちに俺の頬も緩んだ。
「とりあえずさ、アドレス教えとくから連絡して?
メールだったら教習の合間でも出来るし」
『わかりました』
電話を切るのは惜しかったが、彼女は明日バイトらしいし、俺も明日仕事がある。
「じゃあ今日はこの辺でね。おやすみ。バイト頑張れよ」
『はい。おやすみなさい』
彼女がいた頃を思い出させるやり取りだった。




