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一話 獣狩りは哀愁を纏う

 手慰み作品です。荒い部分や、勢いで書いた部分が多々存在します。

それでもよければ、どうぞごらんくださいませ。

 昔々、あるところに、とてもかわいらしい女の子がいた。


 誰もが可愛がるような美貌を持つ彼女は、きっと大人になればとんでもない美女に育つだろうと噂されていた。彼女は両親を既に亡くしていた。しかし、やさしい祖母がいたので、いつも笑顔で暮らしていた。


 祖母は女の子を非常に可愛がった。あれがほしいこれがほしいと自分の要望を口にしない彼女に、これがほしいだろう、あれがほしいだろうと様々な物をかい与えた。だから、彼女のリボンは毎日違ったし、彼女の寝台のぬいぐるみが同じこともなかった。


 ある日、祖母は両親からの贈り物も受け取る事が無かった彼女に、赤いビロードの頭巾を作ってあげた。女の子は大層喜び、その日から毎日それを着る様になった。小さくなれば自分で修繕し、何時までもそれを手放す事はなかった。そんな彼女は、皆から"赤ずきんちゃん"と呼ばれていた。


 ある日、森で木の実を摘んでから帰った赤ずきんは、コンコンッ、とリズム良くドアをノックした。ドアノッカーもない素朴な森の小屋は赤ずきんは大好きだったが、その日ばかりは不審に思った。何時もなら直ぐにでてくる祖母が、返事もしなかったのだ。


 しかし、そろそろ祖母も年だと知っていた赤ずきんは、聞こえなかったのだと思ってもう一度ノックした。すると中から、枯れ草の様な声で「お入り」と言われた。聞き様によっては、獣の声にも聞こえた。


 不思議に思いながらも、赤ずきんはそっとドアを開いて中に入った。すると、目に入ったのは何時もより大きく膨れあがった祖母のベッドだった。


「どうしたの、おばあちゃん。酷い病気なの?」


 心配そうに聞く彼女に、ベッドからまたもしゃがれた声で返答が返ってきた。


「そうだよ」

「どうしてそんなに膨らんでいるの?」

「体中が腫れているのさ。ああ、いたいいたい」


 「まぁ、大変!」というと、彼女は、急いで薬草を採ってこようとしたが、「傍にいておくれ」と言うベッドの声で止められ、仕方なくストンとべッド脇の小椅子に座り込んだ。心配そうな顔は、可憐な少女のそれに違いなかった。


「なんでそんなに声が枯れているの?」

「咳き込みすぎて喉がいたいからさ」


 大丈夫なの? と聞く赤ずきんに、赤ずきんがいてくれればね、という祖母。少女はそのまま、いくつも質問する。それは純粋に、祖母が心配だからだ。既に両親が戻って来る事はないと分かっている彼女にとって、祖母の死は考えたくない事であった。


 だが、そろそろ八個目の質問になろうとする頃、祖母のベッドから苦しそうな声が上がった。赤ずきんが心配して声をかけた。


「ああ、胸がいたいよ。ちょいと、薬草を採ってきてくれないかい?」

「はい、おばあちゃん! 直ぐに採ってくるから、待っててね!」


 クルリと後ろを向いた赤ずきんの背中へ、祖母を装っていた狼の牙が迫った。


 祖母は既に狼……否。肥大化しおおよそ狼の体裁を保てていないそれの、口の端の血痕となっている。肉体は腹の中だ。魂は既に月へ昇ったか、さもなくば狼の形をしたそれに噛み砕かれているのであろう。確かな事実は、祖母はもういないという点か。


 祖母を食らいて人の言葉を介する力を得た獣は、より柔らかく食欲を誘う彼女の孫すらも食らおうとしていた。


 嗚呼、瞬き一つと同時、その牙は可憐な少女の首へ突き立てられる事だろう。




「だよな」




 ――但しそれは、赤ずきんが唯の力なき少女であれば、の話である。


 まるで分かっていたかのように――いや、端はなからわかっていたのであろう。少女は声色を凄みの効いたそれへと変え、クルリと反転した。狼に向かって突き出されたその片手には、少女には到底似合わぬ無骨な銃が握られていた。


「馬鹿が」


 酷くつめたい目をした赤ずきんが、引き金を引くまでに瞬き一つ分の時間すら掛からなかった。


 放たれる散弾は無慈悲に狼の口から侵入し、そのまま頭蓋を貫通して飛び出した。鮮血が舞い、制御を失った獣の牙は、一瞬たりとも赤ずきんの柔らかそうな体に当たること無く何処かへ転がっていった。


「はぁ。……ここら一体は、全滅か」


 全く少女らしくない声色と口調のまま、銃口に揺れる煙を吹き消した。そのまま、もう片手にも同じ銃を取り出す。手慣れた手付きでクルリと銃を回した赤ずきんは、祖母が死んだことをあまり悲しんでいないようにも見えた。


 彼女が両親の死後、獣を狩る狩人になった事を祖母は知らなかった。それも、食肉の為の狩人ではない。"獣"……人を食らわんとする怪物を相手にする狩人になった事を。


 スンスン、と鼻を揺らして、少女が辺りの臭いを嗅いだ。先の鮮血のせいか、大分強烈な臭いが漂っていたが、まだ生きている獣の臭いを見逃す事はなかった。チッと舌打ちが彼女の小さな口から漏れた


「数は…三、四って所か、ね」


 弾丸を詰め、ゆっくりと外に向かいつつ少女は呟く。そこに、僅かに怨嗟の声を含ませて。


「ケジメだ。手前ら全員、皆殺しにしてやる」


 言うが早いか、少女は扉を蹴破って外へと踊り出る。ギラギラとした野生の目が、柔らかそうな白い肌をした赤ずきん――否、(あか)ずきんを爛々と見つめていた。


 即座に飛び掛ってきた正面の一体に対し、紅ずきんは先ほどと同じ様にして右手の銃から口内へ一発を叩き込む。単発の威力の高い銃弾で、またしても脳漿が爆ぜ、牙は届かない。


 仲間の死を一切気にせず、飛び掛ってきたもう二匹。左右それぞれから飛んできたそれを、それぞれ一回ずつ見つめた紅ずきんが、迷うことなく右へとスライディング。そうしながら、体を捻って方向を合わせ、左手の拳銃を一発、左から飛び掛ってきた方へ撃ち放つ。


 無数の弾丸が宙を舞い、頭と言わず、体、足、腕に至るまでを穴だらけにされた獣は絶命。紅ずきんは初動のままにスライディングし、右からとびかかって来ていた獣の腹の下を潜り抜けた。


 潜り抜けられた獣は、着地点で即座に回転し、もう一度跳んだ。今度は、もぐり込ませないためなのか、地面と接触するぎりぎりの低空飛行であった。


「薄汚い獣風情が、人間様の真似事かよ? ――まァ、無駄だけどな」


 吐き捨てる様な声と共に、今度は紅ずきんが飛び上がった。スカートが翻り、下着が見える事も気にせず、空中でひらりと一回転して皮のブーツの(かかと)を獣の後頭部へ突き立てた。


 無論、それが唯の皮のブーツであったなら、紅ずきんの踵落しは無意味な物だっただろう。しかし、その踵には、鈍く反射する刃が仕込んであった。


 回転により踵から飛び出た刃が、回転の勢いと少女の重量を伴って獣の後頭部に突き刺さる。脳漿へ深くめり込んだその刃によって、三匹目の獣も絶命する事となる。


 危なげなく着地した紅ずきんは、スカートに手を突っこんでふとももに巻いたベルトから弾薬をとり、両手の拳銃を再装填した。がちゃり、がちゃりと無骨な金属音が、血塗れの静寂の中に響いた。


「人食い四か。ここにくるまでに狩った人食いじゃねえ獣も四。……寒村にしちゃ居過ぎだな」


 倒した獣を検分しながら、少女は見た目にそぐわない口調で呟いた。


 獣は、基本的にすべての生き物を食らうが、人を食う獣も、食わない獣も、何故か人里に集まる。人が多ければ、比例して獣も多くなる。計八匹というのは、大体、百人程の村の平均だ。


 しかし、紅ずきんの村は寒村であり、裕福な祖母がいる程度で、特産もない村だった。人口はおおよそ五十程度で、獣に狙われる理由はそうないと言ってよかった。


「人食いも出てる……となると、狩人が食われたか?」


 少女は呟いたが、もちろん、返す者は誰一人いなかった。


 月は丁度彼女の真上に座して、紅色に染まった少女を照らしていた。

不定期更新となります。でも、多分そんなに長く続きません。

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