第四話 探索者セミナーと出会い
2020年5月10日に内容を改定しました。
ダンジョンから戻ってきたオレ達は魔石を換金し、受け取った額をキッチリ半分に分けた後、解散となった。
高志は大分疲労していたらしく、別れ際の笑みには普段から感じられる自信などではなく、影が浮かんでいた。流石に今から飲みに行こうとはならず、解散の運びとなったのである。
「それにしても、あれだけ殺して二千五十円か」
オレは自室に帰った後、手元にある千円札二枚と一枚の五十円玉をテーブルの上に置く。
ダンジョン探索は四時間以上掛けたが、結局採れたのは魔石だけで、ダンジョン・コウモリは十一匹、ゴブリンは二匹(二度目の遭遇時にはオレが殺した)で合わせて四千百円の儲けが出た。モンスターの素材が出れば、もう少し金額は上がると思うのだが、これならば明らかにバイトをした方が効率は良い。
(バイトじゃ味わえない、冒険と興奮があるけどな)
バイトはあくまで金を稼ぐための手段でしかなく、そこに冒険はない。働くことに生きがいを覚える者もいるにはいるだろうが、そういったものとは全然違った興奮や楽しみが、ダンジョンにはあった。
軽く休息を取ったのち、オレはスマホでダンジョンや探索者についての情報を検索していく。オレはダンジョンや探索者についてはあまり知識はない。探索についての基礎的な知識はある程度、頭に叩き込んだが、大して深堀はしていなかったのだ。
何か有益な情報はないか。そんな思いで検索を続けていくと、ある情報が目に留まる。
(探索者セミナー?)
何でも、探索者として身につけておきたい知識や技術についてのセミナーがあるそうだ。簡単な実技の指導もあるそうで、ためになりそうである。
(来週の週末は暇だし、高志を誘っていくとするか)
オレはセミナーについての説明にしっかりと目を通していくのであった。
♦♢♦♢♦
週末の土曜日、オレは一人でセミナーの会場へと足を運んでいた。
(まさか、アイツに予定が入ってるとはなあ)
高志は丁度、土曜日に予定が入っていたらしく、この場にはいない。そのため、一人で探索者セミナーを受ける羽目になったのである。
(それにしても、混んでるなあ)
会場には割とたくさんの人が集まっており、盛況なのが見て取れる。それも大半が若者であり、これから探索者としてやっていこうという希望に溢れているのか、皆目が輝いていた。
(何か凄いな。熱意と希望で溢れてる)
オレは適当な場所を取ると、スマホを弄り、時間を潰す。今回のセミナーには日本探索者協会の職員や元自衛隊の探索者など、実践的なことを学べそうであった。
刻々と時間が過ぎ、セミナーが近づくにつれ、がやがやとした雰囲気も鳴りを潜め、次第に室内は静けさと緊張の混じった独特の空気になっていく。ここにいるほとんどが探索者志望なためか、ある程度の人数は武術や武道を経験したものの独特の雰囲気があり、各々が微かに圧を出していたのかもしれない。
「本日は集まっていただき、ありがとうございます。私は日本探索者協会の川西朋絵と申します」
壇上に立った、にこやかな愛嬌のある笑みを浮かべている若い女性が挨拶をすると、続いて、仏頂面の四十半ばの巨漢が口を開いた。
「元自衛隊第一探索隊所属の大友虎之助だ。自衛隊、つまり今の日本国防衛軍を辞めた後、民間の企業を渡り歩いて、現在は太田株式会社の主席探索者をしている」
自衛隊の第一探索隊と言えば、現日本国防衛軍のエリート集団、『特殊探索隊』の前身に当たるものだ。昔は軍のエリートで今は民間お抱えの探索者とは、凄い経歴だな。
「では、自己紹介を終えましたので、セミナーを開始したいと思います。まず、レジュメの一ページ目を開いてください」
こうして、静けさと緊張が支配した探索者セミナーは厳かに始まるのであった。
♦♢♦♢♦
あれから約一時間半ほどでセミナーは終わりを迎えた。
セミナーの内容は概ね知っていることもあったが、見落としていた点も多く、充実したセミナーだったと思う。実技の指導は午後の部らしく、今は午前のセミナーの質問を受け付けている時間だ。
「大友さんに聞きたいのですが、探索者としての心構えなどはあるのでしょうか?」
今、オレは元自衛官の男に質問している、のではなく、偶然知り合った女性の質問に付き合わされている。セミナーを終えた後、隣に座っていた女性にいきなり話しかけられたのだ。
名前は八重樫玲子。今はオレと同じく大学生だが、将来はダンジョン関係の職場に着きたいらしく、今から探索者として経験を積んでおくために、先にこのセミナーを受けたそうだ。高身長のモデルのような美人で、英語も堪能、歴戦の探索者に躊躇せず質問に行く姿から、度胸も備わっているらしい。正に、高スペック美女である。
「そうだな、心構えと言っても大したことはないが。第一探索隊時代からダンジョンに潜る前には必ず生きて帰るという目標を設定している。今でこそ、探索者の安全度は高いが、昔は未知のことも多く、余り情報もなかったからな。常に命がけだったから、命あるまま帰還することを目標としていたよ」
大友さんも若くて美人の女性からの質問のため、流暢に答えている。ちなみに後ろで控えているオレには一切視線を合わせておらず、ずっと八重樫さんに視線を向けていた。
「ありがとうございます」
「質問はもういいかい?」
「はい」
他に質問する人もいないので、笑顔を浮かべて去っていく大友さん。日本探索者協会の川西さんは他のセミナー関係者とおしゃべりしている。
「それじゃあ、佐藤君、大友さんから聞きたいことも聞けたし、早速行こうか」
そういって、華やかな笑みを向ける八重樫さん。
オレはこのままここで午後の部が始まるのを待っていようと思っていたのだが。
いや、どこに?オレがそう言うと、
「昼ご飯だよ。お腹すいたでしょ」
「まあ、確かに」
オレは八重樫さんのマイペースさに呆れながらも、腹が減っていたこともあり、そのまま彼女の後ろについていくのであった。
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