第二話 いざ、ダンジョンへ
装備を整えたオレと高志は後日、最も近場にある第八十二・ダンジョンへと足を運んでいた。
「やっぱすげえな。これ」
高志の視線の先には箱状の建物が佇んでおり、現代の建築物には感じられにくい無機質な外観だ。
これがダンジョンであり、中は異空間になっているらしい。異空間と言っても、中に入れば一生抜け出せないというわけでもなく、普通に戻ってくることができる。だが、ダンジョン内部にはモンスターが生息しており、好き勝手に入っては命を落としかねない危険な場所だ。
「おい、彰一早くダンジョン行こうぜ」
「まあ、待て。先ずは装備のチェックからだ」
せっかちな高志にオレは諭すように話す。
気持ちがどんなに準備ができていても、装備の準備ができていなかったら怪我を、もしくは死すらも待っているかもしれない。
オレと高志はお互いに装備をチェックし、不備がないかを確かめる。
「とりあえず、大丈夫そうだな」
「じゃあ、早速行くか」
オレ達はダンジョンの前に行くと、迷彩柄の服に身を包んだ男の防衛官に登録証を見せる。日本の自衛隊は十年前に改組されており、今は防衛軍という名称に変わっている。正確には日本国防衛軍であり、日本という国家を守るためだけの軍隊だ。
ダンジョンが発生してから世界は大きく変貌を遂げている。それはどの国も共通で、日本も同じことが言えた。
登録証の確認を終えた防衛官の男はこちらに来ると、オレの方をじろりと睨みつけ、口を開いた。
「初心者か。くれぐれも気を付けるんだぞ。ダンジョンは何が起きるか分からないからな」
防衛官の男はオレ達に登録証を返すと、持ち場に戻り、こちらには一切視線を向けない。
「さてと、許可も下りたし、行くか」
オレと高志は防衛官の横を通り過ぎ、ダンジョンに向かっていく。通り過ぎた後、何か視線を感じたが、オレは無視してダンジョンの方へと歩いていく。
「思ったよりも大きいな」
オレ達がダンジョンの目の前まで行くと、目の前の壁に切れ目が入り、切れ目から内側の壁が分解され、砂になり人が入れるくらいの穴ができる。これがダンジョンへの入り口であった。
「何かすげえな」
「確かに」
こんなのどんな原理でなっているのかもさっぱり分からない。
オレと高志が自動的に作られた穴に入ると中は壮大な景色が広がっていた。
「やっべ、興奮してきた」
高志が興奮も露にそわそわとしだす。
ダンジョンの内部はまるで幾つもの光が散りばめられた洞窟となっていた。何故光っているのかは分からないが、天井には幾つもの光があり、それが夜空に浮かぶ満点の星をイメージさせる。更に空中を浮遊する光もあり、この世のものとは思えないほどに幻想的な光景だ。
「おっと危ない。高志、ここはダンジョンだ。モンスターが出ることを忘れちゃいけないぞ」
ダンジョンの第一階層は最も安全で護衛の探索者を連れたツアーがあるほどだが、モンスターが全くでないわけではない。
「そうだったな。危うく忘れるところだったわ」
高志はそう言うと、槍を持つ手に力を込める。
「それじゃあ、奥に行きますか」
ここにはほとんどモンスターが発生しないが、奥には次の階層への階段があり、そこに近づくにつれ、モンスターが発生する確率が高くなる。
♦♢♦♢♦
「おい、どうしたんだ気難しい顔して」
見回りを終えた一人の防衛官が、先程彰一達を相手にしていた防衛官、御手洗玄に話しかける。
「いや、大したことじゃない」
「いやいや、大したことじゃないって言っても、そんな顔してたら気になるだろ」
玄は一度大きくため息を吐くと、一文字に閉じていた口を開いた。
「化け物がいた」
「は?確かにここはダンジョンだからモンスターはいるけど」
「違う人間の方だ。あれはそうだな、オーラや熱量が違うんだ」
「もしかして、探索者か?」
「ああ、それも登録証を見る限り、初心者だった」
「嘘だろ」
唖然とした様子で呟く防衛官、越前明人。この二人は幹部への道が決定しており、現在はこのダンジョンで警備の仕事を任されているが、本来はバリバリの現役探索者である。
「俺らの仕事に関係ある感じだったか?」
明人は鋭い視線で玄の方を見るが、彼は首を横に振る。
「あの件とは関係はないと思う。ただ、とんでもない原石がいたものだと思っただけだ。下手すれば、俺でも負けるかもしれない」
「それほどか。だが、関係がないようで良かったよ」
「もし関係があるなら、真っ先にお前を呼んでいるよ」
「それもそうだな。持ち場を変わるぞ」
彼らはこの後も普通に職務を全うしていくだろう。
ふと玄は彰一が向かっていったダンジョンの方を見る。
「これからの日本が平和であることを願うばかりだ」
一抹の不安を抱えながら、玄はダンジョン周辺の見回りを始めるのだった。
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