第十八話
第四階層到達から二日後、再びオレ達はダンジョンに潜り第四階層の踏破を目指していた。
「それにしても、この風景も見飽きたよな~」
「確かにな」
オレは高志の言葉に頷く。
始めこそは幻想的だと思えた洞窟の風景も、何度も見れば特に真新しいもののないただの洞窟だ。
その上モンスターも出てくるのでダンジョン内をただ歩いているだけなら、普段の日常風景よりも楽しさを感じない。
オレも未知の世界を切り開くことには興奮を覚えるが、変わり映えのない世界で変わり映えのないモンスターを狩っても達成感はない。
(生を奪うことに快感などないしな)
人は狩猟を行うと快感とまでは言えずとも興奮するものだが、オレはそういうのは感じない。アドレナリンも大して出ないし、血を見ても興奮など決してしない。
猛者を相手にすれば肉体のコンディションをベストにするために戦意で身体を満たすが、このレベルの敵であれば、ただただ目の前の命を絶つだけでいい。時に刀を振るい、刺し、モンスターの息の根を止める。この行為は命を奪う行為であって、それ以外の何物でもない。
先程もアサシン・ゴブリンを狩ったが何一ついい感情にはならなかった。
「そう?私はこういう雰囲気は好きだけど。モンスターを狩るのも楽しいし」
「それは八重樫さん貴女だけですよ」
きょとんとした表情でオレを見る。そんな顔されても、オレは全く共感できない。
(モンスターを狩るのがそんなに楽しいか?)
オレは疑問を抱きながら刀を抜き、後ろに向かって振るう。
「ほう」
刀は完全に空を切った。それは刀が適切な軌道を描いていなかったからか?
いや違う。避けられたのだ。
(それはやるな)
オレは顔だけ後ろを向け、モンスターを視る。ただ見るのではなく、モンスターの強さを測るため、目の奥を射貫くように。
少し小柄な成人男性並みの鬼。明らかなユニーク種。瞳から感じられるのは強い殺意。
「二人共!距離を取れ!」
アサシン・ゴブリンは黒いナイフを持っている以外は他のゴブリンと見た目の違いはないのだが、目の前にいるゴブリンは違う。
肌は黒と緑を混ぜたようなどんよりとした色をしており、目の奥は黒く暗い。両手には大振りの黒いナイフが握られており、俊敏な動きができるよう全体的に短めの服装をしている。
戦うことにだいぶ気を使っているようだ。
(これはアサシンというより、ファイターだな)
闇討ちするタイプと言うよりも、近接戦闘でバチバチに殺し合うタイプ。
つまりは戦士である。
「シッ」
アサシン・ゴブリンのユニーク個体(以下ユニーク)は圧倒言う間に間合いを潰し、大振りのナイフを振るってくる。薄暗い洞窟内では黒い塗装のナイフは見えずらいが、最初にナイフを見た時点で距離感は分かっている。
問題はそこではない。
(結構速いな)
予想通りの俊敏さ。技術的な早さではなく、物理的な速さ。身体能力が高いのだ。
ゴブリンであるにもかかわらず。
刀を振るうが肉を斬ることは叶わず、一本のナイフを弾くにとどまる。
「残念だったな」
ユニークは今の一撃を何とか防げたと思っているようだが、ユニークの後ろには八重樫さんと高志がいる。高志は力を込めた渾身の一突き、八重樫さんは見た目からを想像できない破壊力を込めた杖の一撃が繰り出され、どちらも両方避けることは不可能。
(高志の一発が当たったか)
高志も何もしていないわけではない。
この中で武術・武道・格闘技の経験がないものの、フィジカルの面では悪くはない。足りない技術は八重樫さんの指導とパワーで補うことで突きに関してはなかなかな出来に仕上がっていた。
「グギャワアアアヴァ!?」
横っ腹を掠めてわめくユニーク。
オレはすかさず距離を詰めて首を刎ね、直ぐに心臓を貫く。刎ねた首は地面に落下すると同時に八重樫さんが潰し、高志はそれを真剣な表情で見ていた。
「とりあえずユニークゲットだな」
オレが刀をしまいそう言うと、幸先の良いスタートに二人も満足げに頷くのであった。
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