第十七話
真夜中に、オレは近場の公園で剣術の型をしていた。
真剣を構え集中すると、記憶を掘り起こしながら身体を動かし、ゆっくりとなぞるように師の動きを再現する。
筋肉の動きや骨の位置をしっかりと把握して、指の先の先まで意識を集中させ技をしていた。
オレが知っている最高の動き。それは紛れもなくかつて模範とした師の動きだ。道場内には筋が良いものもいたが、あれほどまでに研ぎ澄まされた剣の動きを見たことがない。
洗練された剣士の動きが公園に設置された外灯のおかげで影となって現れる。その動きを軽く見ても、いい模倣であると、オレは感じていた。
「今日も悪くはないな。九割以上ってところか」
師の動きを完璧に模倣しているとはいえ、本質となる気迫や圧の込め具合までは再現できていない。骨格が違うため力の入り具合も違う上、その人の本質と深くかかわる意志や感情の部分は人によって変わる。どんなに上手く模倣できる天才であっても、経験や環境によって形作られた、根源とも呼べるその人間の本質までは模倣できない。
「九割できてりゃ上等。後は自分を再現しなくちゃならない」
動きをやめると徐々に集中が切れていき、身体を操作する感覚が鈍くなる。オレは大きく息を吐き初めの構えに戻ると、目を瞑り意識を再び集中させた。
〇〇流や○✕流とか色々あるが、どんなに剣術として合理的で正しいとしても、その剣に人間としての本質が伴ってなきゃ剣術として成り立たない。そんな剣はチャンバラと相違ないだろう。むしろチャンバラの方がキチンとしているかもしれない。良くも悪くも剣を振るう時は命と関わるのだから、精神の部分が重要なのは当たり前であった。
意識の集中が最高潮になった瞬間、今度は速さを追求して振るう。
刀が風を切る音が連続して鳴った。砂塵が舞い、辺りを舞う葉が刃に当たり切断される。
剣士同士の戦いは疾く剣を振るいかつ、手の長い奴が勝つ。手が長い奴の方が間合いがある分有利だし、速く刃が当たれば相手にダメージを負わせられるので、必然的にそいつの勝ちになる。
日本刀の切れ味は素晴らしい。触れるだけでも肌が裂ける。治療技術が発展していない昔の時代であれば、血がちょっとたくさん出るだけで簡単に人は死ぬだろう。
「それは現代も一緒か」
速度が上がり刃が視認できないほどの超速で行われる剣舞。
第三者の素人から見ればがむしゃらに速く剣を振るっているようにしか見えないだろうが、しっかりと人型を想定して振るっている。太腿、腹、手首、肋骨や胸骨までの骨の隙間、首、顎の柔らかい部分、目などなど、柔らかい部分や急所など様々な場所を狙った、ちゃんとした動きだ。
剣は奥が深い。その人間の経験や感情までも動きに大きく影響し、剣の質とも呼べるものを大きく変える。慈しんだものから、残虐なもの、雑なもの、美しいものなど、同じ動作であっても、全く違う剣撃になるのである。
「とりあえずこんなものか」
汗をぬぐい、刀をしまう。
剣の速さは明らかに上昇していた。全盛期の剣速などとっくに超している。物理的な速さが上昇していた。恐らくはダンジョンの影響だろう。探索者になりダンジョンに潜ると身体能力が向上すると聞く。その影響でオレの剣はより速くなったのだろう。
(それに剣が洗練されている)
未知の世界、戦い、交友、出会い。あらゆる要素が剣に影響を与え、その剣技を鋭く洗練させていっている。
オレの剣は確実に前へと進んでいる。友も仲間も前へと進んでいる・・・気がする。
悪くはない。順調と言っても問題がないくらいに、オレは今を謳歌している。
(なのにどうしてかな。何となくの予感でしかないが、嫌な予感がする)
この先に、いつかは分からんが良からぬ出来事でも起きるのではないか。
そんな予感がオレの頭を掠めるのであった。




