第十四話 ユニークモンスター
「キシャアッッ!!」
威嚇音とともに巨大蜘蛛がオレに飛び掛かってくる。
「よっと」
並みの人間であれば死を覚悟する攻撃をあっさりとかわし、返す太刀で蜘蛛の足を二本斬り落とした。
「キシャア!?」
足を二本も斬り落とされて怒り狂った巨大蜘蛛が猛突進を仕掛けてくる。
かなりのスピードであるが、オレはそのタイミングに合わせて無造作に刀を突き入れた。
ズブリと、頭から胴までを貫く感触が刀から手へと、そして全身に伝わる。刀が刺さった蜘蛛の体は痙攣しており、確実にダメージが入っていることが確認できた。
オレは刀を抜き、血ぶりをする。
パシャっと青黒い血液が地面にかかった。
「やはり問題ないな。知能が低いからか、相手取りやすい」
この巨大蜘蛛のモンスターは虫である故か、知能が低く、攻撃のパターンも読みやすかったため、思ったよりも苦戦は強いられなかった。個体としての能力は高いが、複数体で連携をとってくるわけでものなく、攻撃も突進がほとんどの単調で真っ直ぐな攻撃のみであり、慣れてしまえばこれほど倒すのが簡単なモンスターもいなかった。
そんなオレの冷静な分析に、高志は異を唱えてくる。
「あえて言わせてもらうが、それはあくまでお前だから言えることだぞ。俺もネットで調べたが、このライト・スパイダーは初心者の登竜門と言われるモンスターで、パーティーが一丸となって倒せて一人前を意味する強力なモンスターだ。単体で挑んでほいほい倒せるんじゃないんだぞ」
「そんなこと言われても、事実だからなあ」
高志がまくしたてるように言ってくるのに、オレはこう返すしかない。
事実は変えようのないものだ。
「高志君、覚えた方がいいわよ。天才って大体こういう奴だから」
「いいえ、八重樫さん。貴女もですよ」
「えっ私?」
八重樫さんもジトォっとした視線を向けてくるが、高志の言葉の矛先は八重樫さんに向けられる。
それに酷く驚く八重樫さんだが、彼女もこちら側の部類と言える(武芸の実力を基準とするならば、だが)。彼女の強さも常軌を逸しており、これまでの道中で一度、あの巨大蜘蛛を杖一本で倒していた。オレとしては難しいと読んでいたのだが、その予想を覆し、見事に討伐していたのである。彼女も並みを遥かに越えた超人であると言えた。
「それはさておき、そろそろ第四階層に到達しそうだな」
第三階層は普通の階層よりも洞窟が短く設定されているらしく、蜘蛛が面倒なこと以外は楽な階層らしいのだ。そのため、探索を始めて三十分ほどだが、既に次の階層への扉が見えてきている。
ダンジョンの次の階層への階段は洞窟内にある不自然な扉の先にあり、洞窟を進んでいけばいずれは到達できるようになっている。階段を見つけること自体が困難なダンジョンも存在しているが、この第八十二ダンジョンは特にそういう仕様にはなっていない。
「やっとか。俺は蜘蛛には一人じゃ勝てないからヒヤヒ「ちょっと待って」ヤしたぜ?」
高志が安心しきった様子で前に進んでいると、八重樫さんが警戒を滲ませた声を上げる。
「あそこに何かいる」
八重樫さんが指を指す方向には岩しかない。
オレはもしやと思って気配の察知に意識を集中させる。
「ハハハ、擬態しているのか」
オレは洞窟内の小石を拾うと、その岩へと思いっきり投げた。すると岩が動き出し、八本もの足が生えて蜘蛛の顔が出てくる。
「もしかして、ユニークモンスター?」
高志が引きつった笑みを浮かべながら言う。
ユニークモンスター。その階層にいるモンスターの変異種や亜種を指す。ユニークモンスターは通常のモンスターよりも強力で、実力がないものは逃げることを推奨されている存在だ。
ライト・スパイダーの変異種はストーン・スパイダー。全身が岩の鎧で覆われており、機動力やパワーなどはそのままに外皮の硬度だけを上げた厄介なモンスターだ。槍や杖は言うに及ばず、刀剣類も効果が薄く、巨大なハンマーなどの打撃系の武器だけが有効であり、倒すのが大変なことで有名なモンスターである。
「どうすんだよ!?こっちの武器は槍に杖に刀だぞ!勝ち目がないじゃないか!?」
高志が半狂乱に言っている間にも、石をぶつけられて怒っているのか、ストーン・スパイダーはこちらに向かって猛スピードで迫ってきていた。
「落ち着け、高志。大丈夫だ」
「おい、危ないぞ!」
オレは大きく踏み込み、ストーン・スパイダーに接近する。
(ちょっとズラすか)
オレは刀を抜き大きく振りかぶると、斬るのではなく衝撃を与えるようにしてストーン・スパイダーの頭に刀を振るった。
「ギシャアァ」
刀から伝わる衝撃にストーン・スパイダーの頭がぱっくりと割れる。オレはすぐさま飛びのき、ストーン・スパイダーの様子を見るが三十秒ほど経っても動く気配はない。
「凄いわね。兜割って初めて見た」
八重樫さんが感嘆した声で言う。
昔なんとなくやったらできたので、ここでも試してみたが、問題なくできたようだ。
「お前、ホントに化け物だな」
高志の呆れた声が洞窟内に響くのであった。
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