第十三話 第三階層
オレ達は現在、ダンジョンの第二階層に到達していた。
第一階層はそこまで金にもならないし、モンスターも弱いので基本はスルーするか一瞬で殺して先に進んだ。
「それにしても、はあ、よくゴブリン相手に躊躇なく攻撃できるよな」
高志は息を若干切らしながらそう言うと、八重樫さんの方を見た。
彼女は淡々とゴブリンと戦闘を展開しており、杖を縦横無尽に振り回しながら、ゴブリンに攻撃している。
相手にしていたのは二匹のゴブリン。一匹は既にこと切れており、もう一匹もかなりのダメージを負っており、勝利は目前といったところだ。
杖を巧みに使ったヒットアンドアウェイの戦術でゴブリンを翻弄する姿はさながら舞を踊るようであった。
「まあ、あの人だし」
「お前もだけどな、容赦なさすぎだろ。知らないやつが見たら、引きまくって十メートルは距離を取るぞ」
呆れた声を出す高志。
オレの周りにはゴブリンの死体が元々散乱していた。今は死体が霧散して、魔石とエグイ血の臭いが残っているだけであるが。
「そうかもしれないが、このダンジョン内だけだぞ。オレがこんな攻撃的になるのは」
前回襲撃された時みたいなのは例外だが。
「そうじゃなかったら、問題だわ」
「何呑気に喋っているの?」
オレと高志がだべっていると八重樫さんが戻ってきていた。先ほどまで八重樫さんがいた場所を見ると、そこには頭をへこませたゴブリンの死体がある。
特に疲労したようすもないし、衣服が汚れてもいないため、難なくゴブリンを倒せたようだ。
彼女の動きは元々よかったので、大した心配はしていなかったが、予想よりもはるかに強い。世の中に強い女性はいるが、それでも彼女は相当上の部類に入るだろうと言えた。ホント、高志とは比べ物にならないぐらいには強い。
「なんか、すっげえ馬鹿にされた気がするんだが」
「気のせいだろ。さっさと進むぞ」
今のところ、特に異常はない。八重樫さんを殺すための刺客が攻めてくるような気配もないし、殺気も一切感じない。
こうしてオレ達は苦戦することもなく、第二階層を突破するのであった。
♦♢♦♢♦
第三階層も同じく洞窟。非現実的な世界だが、毎日何時間も潜っていればその面白さや目新しさもいずれなくなるのだろう。
「第三階層は大型の蜘蛛がでるんだよな」
高志が少し怯えた様子で言う。
この第三階層では一メートルほどの巨大な蜘蛛がモンスターとして出てくる。特に毒などは持っていないが、巨大な顎で噛みつかれれば、かなりのダメージを負う。ここからはモンスターの強さというものが格段に上がり、死のリスクも大きくなる。
反面魔石の価値は上がり、一個につき千円となる。ダンジョンで生計を立てていくには第三階層以上に潜れるようになることが必須だ。
「おいあそこにいるのがそうじゃないか」
高志が小さめに声を出し、少し先の岩を指さす。
その先には巨大な蜘蛛が居座っており、その巨大蜘蛛はこちらに気づいた様子はない。ただただジッとしている。
「じゃあ、オレが行くわ」
「マジか、がんばれ」
高志の応援を無視してオレは気配を薄くし、ほとんど足音を立てないようにスルスルと蜘蛛に近づいていく。
距離がだいぶ縮まり刀の間合いになって、ようやく巨大蜘蛛はこちらを振り向いた。
「シャッッッ!?」
威嚇音を鳴らすが、もう遅い。オレは刀を既に抜いており、蜘蛛に強烈な一太刀を浴びせる。
パッと青い血液が飛び散り、巨大蜘蛛が一刀両断された。両断された蜘蛛の体が地面にくずおれる。
「やりぃ」
オレの一撃に八重樫さんは称賛の拍手を送った。
「そこそこってところだな」
真正面からの勝負に持っていくとなると、若干苦戦はしそうだが、それでも特に問題はないだろう。
オレの実力であれば、問題なく狩れる。
「お前、ホント化け物だな」
「そんなことはないぞ。硬さもそんなにだったし、槍で殺すのは少し難しいが、武器を変えれば高志でも狩れるぞ」
そう、問題は武器である。この蜘蛛はそれなりにサイズも大きく、普通の武器では致命傷を与えるのに時間がかかってしまう。槍や杖なんかはこの蜘蛛を相手取るには不適切な武器と言えた。
それが分かっているからこそ、割と好戦的な八重樫さんもオレが戦うのに特に文句も言わずに放っておいたのだろう。
「まあ、今回はオレが蜘蛛を狩るから二人はいざという時に助けに入ってくれ」
オレの言葉に二人は何度も頷くのであった。
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