第十二話
あれから特に何もなく、一日を終えた。
東雲は隣の部屋に住んでいるらしく、今日は合鍵で入って来たそうだ。
ははは、こわ。
まあそんなこんなで時間が過ぎていき、次の日、大学の授業がある日だ。いつも通り、普通に授業を終え、駅前の広場で高志と会う。
呑気に道を歩いていると、高志のシルエットが見えてくる。
「おう、おひさ」
高志が軽い手ぶりでこちらに挨拶をしてくる。いつも通りの高志のはずなのだが、
「今日はいつもと雰囲気が違うな」
オレは高志に近づくにつれて、いつもとの雰囲気の違いに気づく。
いつもはもっと何というか、軽い感じなのだが、今日の高志は引き締まった顔をしているのだ。ただ緊張しているだけのものでもない。しっかりとした男の顔つきだ。
「ああ、色々あってな」
そう言ってかなり嬉しそうな反応をする高志。
コイツのこういった反応は見たことがない。ゲームが上手くいったり、バイトの給料で浮かれたりなんかとはレベルが違う喜びようだ。
喜色満面、喜びが溢れ出していた。
「実は俺、彼女ができたんだ」
ほう、彼女か。
「やるじゃないか」
オレは「詳しく教えろよ」と詰め寄る。すると、照れたように笑いながら、
「あの受付嬢だよ」
と言った。
あの受付嬢?・・・・・ああ!探索者登録の時の、あの受付嬢か。
「マジか。それは凄いな」
あの女性はオレから見ても相当レベルの高い女性だった。たくさんの男が言い寄ってきていたのが、恋愛にくわしくないオレでもぼんやりとイメージできる。そんな付き合うことが厳しいと思われる女性に高志は選ばれたということだ。凄いという他ない。
「だろ。実はこの前、偶然会った時に思い切って食事に誘ったんだよ。それでそのまま勢いに任せて告白したんだ」
「そして、オーケーを貰ったと」
「ああ」
それはホントに凄いな。偶然会っただけで特に理由もないのに、いきなり好きな異性を食事に誘うにはかなりの精神力がいるだろう。それをやってのけたのだから、高志は魔王に挑む勇者並みの度胸があるのかもしれない。
「でも、お前も美人の女性と食事したんだろぉ」
高志はじっとオレを睨みつけてくる。いや、お前もしてるじゃん。そっともとびきりの美人じゃん。オレがそうツッコみを入れていると、
「久しぶり、佐藤君。で、そっちはパーティーメンバーの近藤君かしら」
長身の女性がこちらに近づいてくる。動きやすい服装ではあるが、お洒落な雰囲気を全身に纏った八重樫さんがやってきていた。
「お久しぶりです、八重樫さん。その杖は武器ですか?」
八重樫さんは杖を持っており、他には何も武器を持っていない。しいて言えば、懐に隠し持っている短刀ぐらいだろうか。
「ええ、お父様が古武術の達人で、私もそれなりに使えるの」
そう言うと、八重樫さんは杖を変幻自在に動かす。
杖の利点は間合いが読みづらいこと、剣であれば刃の長さで間合いが図れるが、杖は持ち方を変えることで間合いが変わり、読むことが難しくなる。
それにしても、なかなかの使い手だな。このレベルで杖を使える人間は現代にもあまりいない。
現在はダンジョンの出現によって、武術や格闘術に焦点が与えられており、その技術の進歩・発展が著しい。そのため、かなりの使い手もいるにはいるのだが、それでもある程度の才と厳しい鍛錬は必須で、どうしても合わない、馴染まない人間もいる。
彼女はどう見ても馴染んでいる側の人間で、才有るものだ。
「かなり上手ですね。見直しました」
「ちょっと待って、それどういうこと」
至極真っ当なことを言ったつもりだったが、何か気に障ったのか八重樫さんが詰め寄ってくる。
「いや、そのままの意味ですけど」
「え?私は見直されるところなんてないわよッと」
鋭い杖の一撃が飛んでくるが、オレはそれを躱し間合いを取る。
「やっぱりかわされたかぁ。残念」
「やっぱりって、危ないですよ。当たったら、どうするんですか」
素人が使うのではなく、実力者が振るう杖は恐ろしい。しっかりと重さが乗っているので、当たればそこそこ痛いのだ。
というか、最近は暴力的な女性にばかり会うな。正直、しんどいんだが。
「いや、どういうこと?」
そんな風にオレと八重樫さんがスキンシップを深めていると、そのやり取りが理解できなかったのか、高志はポカーンとした表情をしていた。
「まっこういうことだ」
「そうね。これが私と佐藤君との関係ね」
「いや、分からないですって!?」
あまりに理解不能だったのか、困惑と驚きの混じりあった悲痛な叫びが広場に響き渡るのであった。
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