第十話
あの後、家に帰宅したオレは何も食べずにベッドに倒れ込み、泥のように眠った。
外の喧騒で目が覚める。久々の対人戦は思ったよりも疲労が蓄積されていたようで、時計を見ると、短い針は十一時を回っていた。
「まだ、少し眠いな」
日曜日だったので、もう少し寝てしまおうかと思ったのだが、何やら楽し気な鼻歌がキッチンから聞こえる。
「フンフフンフフ~ン」
オレがキッチンの方を見ると、頭が幻覚でも見せているのか、そこには一人の少女が鼻歌を歌いながら料理をしている。
十人中十人が美少女と答えるような整った顔立ちをしており、プロポーションも悪くない。八重樫さんのようなモデル体型ではないが、この方が一般受けが良いのではないだろうか。
「何を作っているんだ?」
オレが幻覚に声を掛けると幻覚(美少女)はこちらに振り向き、花が咲いたような可憐な笑みを浮かべた。
「あっ起きたんですね。おはようございます。私が派遣されたサポート役の東雲冬子と申します」
「幻覚の割に流暢にしゃべるな」
「いえ、幻覚じゃないですよ?だって」
東雲冬子と名乗った少女はスカートの中から拳銃を取り出し、オレに向かって構える。
少女の身体からにじみ出る殺気はその存在が生きていることを表していた。
「ほら、ホンモノの拳銃ですよ。日本が規制が厳しいですけど、しっかりとしたルートを使えば、ちゃんと手に入ります」
「そうか」
「凄い落ち着きようですねぇ。流石、現代の剣鬼の一ば「黙れ」」
オレは少女から拳銃を絡めとり、自分の手元に持ってくると、銃口をこめかみに押し付ける。
「ははは、これは禁句なようですね。以後、気をつけま~す」
生殺与奪を握られているのに、ニコニコと笑う少女。
あの野郎、とんだイカレ女をサポートに寄こしたようだ。
♦♢♦♢♦
「どうです?美味しいですか」
先程と変わらず、ニコニコと笑みを浮かべる東雲。
この笑顔だけを見ているとただの笑顔が可愛い少女にしか見えないが、いきなり殺気を出しながら拳銃を構えたり、銃口を押し付けられても平然とするヤバい女だ。
「ああ、美味しいな」
この言葉に全く嘘はない。テーブルに並べられたザ・和食は、普通の店で食べるものよりも数段上なレベルで美味しかった。
東雲は、他にも洗濯、掃除など家事全般に精通しているらしく、一家に一人欲しい存在だ。
(性格と行動に難ありってことで、差し引きマイナスだが)
「それは良かったです。料理が不味いなんて言われてたら、ここにある拳銃で頭を撃ち抜いてました」
「おいおい物騒だな。だが、弾丸程度なら躱せるぞ」
オレがそう言うと、東雲は首を横に振る。
「いえ、私の頭を撃ち抜くんですよ。料理が不味いなんて、乙女失格じゃないですか」
そう言って、悲しそうな表情をする東雲。
やっぱり、ヤバい奴だな。なんていうか、こう病み系っていうのか?負のオーラを感じる。
「あっそ、オレは部屋でだらだらしてるから、東雲は適当にくつろいでおいてくれ」
「分かりました。では、彰一さんのだらだらしている姿でも眺めておきますね」
「オレ、寝るわ」
「添い寝しましょうか?」
「お前、何か勘違いしてないか」
「お前、だなんて」
そう言ってくねくねしだす東雲。
やっべぇ、コイツやっべぇよ。マジでチェンジしてくんねぇかな。
オレは心の底で願いながら、お気に入りの映画をipadで見るのであった。
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