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女の敵

再開してから、暖かい感想をいただいております。本当にありがとうございます。励みになります!!

このような声がある限り、駄作ではありますが精一杯頑張りたいと思います。


今後ともどうぞよろしくお願いします!!

アレスが屋敷に戻ったのはシルビア、コーネリア両名との面談の後だ。


数日ぶりの我が家。叙勲式でここを出た時にはこのような事になるとは流石のアレスも想像していなかった。


屋敷の門の前で、アレスは足を止める。そう、ここには……話をしなければならない人物がいるためだ。


屋敷の入り口扉まで歩きながら何度もアレスは思考する。しかし、その前まで来た時……大きな深呼吸をして考えるのをやめた。


言い繕っても仕方がない。裸の心で言葉を紡ごう。そうしないと、きっと納得しないだろうから。


アレスは意を決して扉を開けた。


「アレス、ただ今戻りました」


「「「「お帰りなさいませ!!!」」」」


入り口には多くの使用人達が左右に分かれてひかえていた。アレスの言葉に使用人達の元気な声が聞こえてくる。


中央にいるのは、シグルドやユリウス、アルベルトや家令のバートンなどだ。


「兄上、おめでとうございます!」


ユリウスは純粋に喜びを表し、飛びついて来た。


「アレス様……征夷大将軍という役職に就かれるとは……驚きました」


シグルドも笑顔だ。アルベルトも、家令のバートンも……多くの使用人たちも。

アレスもまた彼らに笑顔を見せた。その時だった。


「アレス。お帰りなさい」


階上の方から声がかかる。見るとそこにはいつもの微笑みではなく真面目な顔をしたセラの姿があった。


それを見てユリウスを始め多くの者がアレスから距離を取り、成り行きを見守る事とする。

彼らは知っている。この屋敷で一番力のあるものが誰なのかを。

そして彼らはあまり見たことがないのだ。セラの真顔というのは。


いつも微笑みをたたえ、どのようなものにも丁寧に、そして優しく接してくれるシュバルツァー大公夫人セラ。誰からも慕われる彼女であったが……怒った時の恐ろしさは皆よく知っている。


あの様子は怒っている………しかも尋常じゃなくだ。


その場にいた全員が……ハラハラした面持ちでアレスの方を見ていた。


アレスもまた真剣な面持ちで近づき、そして跪いた。


「アレス、ただ今帰りました」


「親子の間でそのような挨拶はやめましょう、アレス。…………何か他に報告をする事があるんじゃないかしら?」


あぁ、やはりそうだ。母は全て知っている。


そうアレスは思う。すでにコーネリアとも何かしら話し合ってるに違いない。あの会話の内容を考える限り、間違いないはずだ。そして他の女達とも。


「母上に話したき事があります」


そういうと一呼吸置いてアレスは口を開いた。


「神聖アルカディア帝国第四皇女コーネリア殿下と縁談が決まりました」



その言葉を聞き、使用人達はざわめき、ユリウスは素っ頓狂な声を上げる。


「えっ?アレス兄様、姫君と結婚するの?」


そのユリウスの声に反応する事もなくセラは口を開く。


「…………アレス」


「はい」


「詳しく話し合いましょう。私の部屋に来なさい」


そう言うとセラは踵を返し、部屋の方に向かっていった。

アレスもまたその後を追う。


その場にいる者たちは、黙ってその後を見送ることしかできなかった。




「おめでとう……というべきなのかしらね?それで、貴方を慕う他のお嬢さんはどうするつもり?」


部屋に入り、二人きりになった早々、その言葉を発するのと同時にセラの目がきっ、とキツくなる。


しかしアレスはそれに動じず答える。


「全員迎え入れるつもりです」


「貴方…………それは側室をたくさん作るという事?」


「形式上はそうなるかもしれません。でも側室ではありません。私の妻としてです。そこに正室も側室もありません」


こうなったら開き直りだ。アレスはそう思う。


「誰かを捨てる事は私はできません。だから私からはそのような事をするつもりもありません。皆を受け入れます。でも、今回の事で、また私の決断した事で彼女達が私に愛想を尽かすかもしれません。それはそれで結構。それ故……彼女達と一度話し合おうと思っています」


「…………女の敵になるって事ね?」


「他からどう言われようと知りません。都合のいい男と思われて結構。情けない事に皆が上手くいくための方法を考えたらこれしか浮かびませんでした。私は誰に何を言われてもどうって事ないし、もし彼女達が非難にさらされようなら全力で守ります」


「コーネリア姫のお気持ちは?」


「殿下とはすでに話し合いました。そうして欲しいと許しも得ています。彼女もまた私と共に歩んでくれると言ってくれました。それ故に彼女もまた何があっても守り通します」


アレスの決意を聞き、セラは黙り込む。そしてしばらく後呟いた。


「そう……それが貴方の結論なのね……」


と。


そして深い溜息。


「まったく。エドガー様は私一筋だったのに貴方はなぜこうも天性の女たらしなのかしら??」


そう大きく嘆息する。アレスは苦笑しかできない。


そしてセラは微笑む。


「私、昔占い師にこう言われたのよ」


「…………はっ?」


唐突に話が変わり戸惑うアレス。


「貴方は今後多くの娘や孫に囲まれて幸せに死ねるでしょう、と」


「…………」


「でも産んだのは息子2人。おかしいなぁ、間違ったのかしら……なんて思ってたけど……こういう事ね。そしてきっと……これからも数は増えるんでしょうねぇ……」


そしてセラは深い溜息の後、アレスの方を向き直りビシッと指をかざした。


「アレス!」


突然大きな声で呼びかけられたので思わずアレスはビクッと反応して返事をした。


「はいっ!!」


「いい?今後貴方の妻の事を私は娘だと思うようにします。それ故に貴方が私の娘を泣かすことは許しません。全員幸せにする事。男ならそれぐらいやってみなさい!」


「はっ……はい……」


「返事が中途半端!」


「はいっ!!」




アレスとセラの話は終わった。そう終わったはずだ。しかし、いつのまにか、普段と変わらずアレスは正座になり、セラは『奥方語り』の態勢に入る。


その様子を扉の向こうからそっと確認し、全ての使用人達は各自の仕事に戻っていった。


扉の向こうで見守るはユリウス、シグルド、アルベルト、バートン……数名のみ。そして彼ら全員は思う。


大公、辺境伯、征夷大将軍……間違いなく高位の役職、爵位であるのは間違いない。だが……間違いなくそれよりも偉い存在というのはいるという事を……



その後、すぐにアレスは行動に移した。

まず屋敷の中にいる一人の女性から始まり、その後様々な屋敷に向かう。


ロクシアータ伯爵家、ロザンブルグ侯爵家、黒薔薇の館にマーゴット商会…………


そう、彼女達に自らの決断を伝えるために。彼女達に問うために。


そして数日後、世間に大々的に公表されるのだ。


アレス・シュバルツァーとコーネリア・アルカディアの婚約、および様々な身分の複数名の女性との婚約を。



本当は一話一話、各女性との話も書こうと思いましたが……長くなりそうなので割愛しました。


時間があれば、いずれこぼれ話という形でアップする予定です。

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