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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
第2章 〜グランツ攻防戦〜
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三ヶ国処分

「ここは…」


リリアナが目を開けると天井には大きなシャンデリア。そして自分は王族用のベッドに寝かされていた。


「気がついたか、リリアナ」


その声の方を見ると兄、横でウィルフレドが椅子に腰掛けながら、笑顔でこちらを見ていた。


「兄上…なぜここに?というかなぜ私はこの部屋で寝ているのです?」


状況が呑み込めないリリアナ。それに対しウィルフレドがゆっくりとリリアナが敗れた後のことを語りだした。



「私は敗れ…そして国も滅んだということですか」


リリアナは唇を噛み締めながら、そう呟く。


「簡単に言えばそうだな。だが……まだ国は滅んでいない」


ウィルフレドはリリアナにそういうと窓の外を見た。


ウィルフレドとリリアナは現在フランの城の西塔に幽閉という名目で閉じ込められている。あと数日でアルカディア皇帝セフィロスがやってくる。そして今後の沙汰が決まるのだ。


ウィルフレドは眼下に広がる景色を見る。そこにフランの街並みが広がっていた。


ウィルフレドがといかける。


「リリアナ。国とはなんだ?」


「国とは…」


「国とは民だ。王家ではない」


そう言うとウィルフレドはリリアナの方を見る。


「民が無事な限り、国は保てるのだ…たとえどのような形になったとしても」


「し、しかし!」


リリアナは飛び起きる。そしてウィルフレドの腕をつかんで叫んだ。


「雷帝セフィロスは抵抗した国を徹底的に滅ぼしています。彼がきたら…民も街も…兄上もきっとただじゃすまないはずでは」


「彼が約束してくれたんだ」


そう言うとウィルフレドはリリアナに笑いかけた。


「そなたを破った男…アレス・シュバルツァー殿が必ず何とかすると言ってくれた。だから私は彼を信じてみたいと思う」


「そんな…たかだか一軍の将の言葉などあの雷帝が…」


「そう。そう思うのは当然だろうさ。だが不思議なものだよ」


ウィルフレドはリリアナが話そうとするのを遮り、言葉を続けた。


「アレス殿を見ていると…彼の話を聞いていると不思議なほど大丈夫だろうと思ってしまうのさ。なんとかなるんじゃないかと安心してしまうんだ。だから私はあの方を信じてみようと思う」


そういうとウィルフレドは優しく微笑みながらまた窓の外を眺める。


その姿を見ながら、リリアナは小さく溜息つく。


これからどのような決定がされるか……それは分からない。でも何がなんでも兄は守る。そう、命に代えても。


リリアナは兄の横顔を見ながらそう決意していた。





皇帝セフィロスがフランに到着したのはレドギアが降伏してから2週間後であった。

セフィロスはフランの城を多くの諸侯を連れて闊歩していく。その中に第一皇子カルロスやザクセン大公の姿もあった。彼らは同様にして複雑な表情をしている。


セフィロスが王の間に到着すると、そこにはアレスとシルビア、さらにウィルフレドとトレブーユ国王だったルイ、さらにブルターニュ諸連合の新たな代表となった商人達が跪いていた。ゼフィロスが玉座に座ると、同時に諸侯たちも跪く。


「皆のもの、大儀であった。これから本格的にグランツに攻め入る。それゆえ論功はひとまず後にする。だが先に降伏したレドギア、トレブーユ、ブルターニュの処分を決めたい」


セフィロスはそういうと側にいる待中に自らの勅書を読むよう催促をした。


「これより処分を下す。まずブルターニュ諸連合について。今後アルカディア帝国に年2回、税を納めること。どれほど収めるかは今後決めることとする。ただし今まで通りの商い、および自治はそのまま可能とする」


意外な決定に諸侯たちから多少のざわめきが起こる。


「トレブーユ国王、ルイは今後トレブーユ伯爵として臣下になることを認める。なお、領土もそのままトレブーユ伯爵領とする。これは降伏した際に勅書で述べたことと同様である」


「ありがたくお受けいたします」


ルイは深々と頭を下げ、横目でちらりとアレスの方を見た。アレスはそれに対し、笑みで返答する。


「続いてレドギア王国の処分である」


セフィロスは大きく抵抗した国に対して苛烈に処断してきた。今回レドギアは抵抗激しく砦に籠ってザクセン大公、および第一皇子カルロスの第一軍を寄せ付けないほどであった。王家に連なるものを皆殺し…フランはすべて焼き尽くす…それぐらいのことをしてもおかしくない。諸侯たちに緊張が走る。


「ラッセ要塞とソラン砦は放棄。二つの砦は取り壊しとする」


レドギアが誇っていた二大砦はまず取り壊しが決まる。これは誰もが分かりきったことだ。だから驚きはない。大切なのは次だ。この国の王族、および民達への処分。いったいどれほどになるのか……皆固唾を飲んで見守った。


そして次の沙汰が告げられた。


「レドギア王ウィルフレドには伯爵の地位を与える。レドギア王家は今後レドギア伯爵家として臣下に下るべし。また王国はそのまま伯爵領としてレドギア伯爵が治めることとする。なお家臣たちはアルカディア貴族として帝都に来るか、陪臣として残るかの選択を与える」


アレスが語った通りの展開になり、ウィルフレドは驚きを隠せなかった。

後ろでは予想外の皇帝の決断に諸侯たちが騒ぎ出す。


「あれほど抵抗して手ぬるいのでは」


「今までにない温情。いったいなぜ…」


諸侯たちは近くの者たちと小声で話し合う。


「恐れながら申し上げる!!」


それらの騒ぎを打ち消すように一人の男が立ち上がった。その場の者達の視線はその男に集まる。見るとそれは第一皇子カルロスであった。


「我らはレドギア軍の抵抗の前に少なくない被害を受けた。その逆賊に対してあまりにも手ぬるい。どうか、ご再考を」


カルロスはそう言うとウィルフレドを睨みつけ、そしてセフィロスに視線を戻した。


セフィロスはカルロスを見て顔をゆがめながら声を掛けた。


「ではそなたならいかがする?」


「はっ。レドギア王国に連なる一族は皆処刑。このフランも跡形もなくなくすのがよいかと。そうでなければ栄えあるアルカディア帝国に逆らったものたちに示しがつきませぬ」


「威勢のよいことを言う。砦一つ落とせなかったのにな」


「!!?そ、それは…」


カルロスはその一言に何も言えず、歯嚙みをしながら、再び跪いた。

それと同時に他の貴族が口を開いた。


「恐れながら、伯爵家とは高い位。降伏した者にその位を与えるのは如何なものかと」


セフィロスは今度は、そちらの方に目を向け。そして答えた。


「レドギア、トレブーユ共に力もある。それゆえ伯爵という位に相応しくないとは思わぬ」


そう言うとセフィロスは立ち上がって言った。


「処分の話はこれまでとする。さて、今回第一陣として出立したアレス・シュバルツァーは多大な功績がある。グランツを落とした後、褒美をとらす」


「はっ…」


「そしてこれから本格的にグランツとの戦を始める。先陣はこの度、功あるアレス・シュバルツァーに任せようかと思う」


「恐れながら申し上げます」


セフィロスの言葉を聞き、手を挙げたものがいた。見るとそれはローゼンハイム大公公子サイオンであった。


「先陣はカルロス殿下とザクセン大公閣下がよろしいかと思います。お二人の軍勢はまだまだ士気も高く先陣として活躍できます。アレス殿やシルビア殿下は此度の戦で活躍されました。一度休息をとって頂く方がよろしいかと」


「ふむ…」


セフィロスはサイオンの言を聞き、カルロスとゲオルグの方を見る。


それに合わせて、二人は立ち上がった。


「どうか我に再戦の機会を!」


「見事先陣を果たしてまいります!!」


その声に合わせてさらに多くの諸侯から


「殿下と大公閣下に我らはついていきます。ご英断を!」


「再戦の機会を!!」


多くの声が上がった。


多くの野心ある貴族にとってこれ以上アレスに活躍されるのは面白くないのだ。ただでさえシュバルツァー家は恐ろしい存在である。これ以上活躍されると帝都での派閥争いに多大な影響を及ぼしてくる。


諸侯の様子を見ながらセフィロスは決断した。


「あい分かった。先陣は再びカルロスとゲオルグに任す。アレスは余とともに後詰として参陣することとする。よいな?」


「臣アレス、異存はございません」


アレスもまた深々と頭を下げた。



皆の思いは異なる。



その様子を見てサイオンは笑いをかみ殺していた


サイオンにとってもこれ以上アレスに活躍されるのは面白くない。またここで意見をし、採用されることにより、多くの諸侯に自分の発言権の大きさを見せつけることができた。そしてカルロスやゲオルグには恩が売れる…自分にとって理想の展開になったのであった。





対する俯くカルロスは憤怒の形相を押し殺すのに苦心する事となる。今回は言わばアレスにしてやられた形となった。今回制圧を失敗した事で、皇位継承に向けての動きに陰りが生まれてしまった。厚かましく恩を着せてきたサイオンには腹がたつが、再び巡ってきたチャンスを確実に生かさなければならない。


「この屈辱…決して忘れぬ」


そう心に決め、アレスを睨みつけるカルロスであった。






アレスもまた微笑みをうかべながら、諸侯達の様子を伺っている。

そんなアレスの方をシルビアは怪訝そうに見ていた。

サイオンの言葉に各諸侯が図ったように声をあげた。どう考えても、アレスの功績を嫉妬した諸侯の策略だ。アレス本人も分かってはいるだろう……なのに。


彼は何事もなかったかのごとく、いや、その状況を楽しむがごとく笑顔で笑っている。

きっとまた何かを企んでいるに違いない……





多くの思惑を抱えたまま、アルカディア帝国はグランツ公国との戦を始めようとしていた…


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