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酒乱

なぜ僕はまたここで正座をしているのだろう?

アレスは自分の置かれている状況に首を傾げるばかりだ。


アレスの横には二人の女性。


一人は幼馴染のシャロン

もう一人は召使のシータ


「だから……なんであんたがアレスの側にそんなにベッタリついているのよ!」


「私はアレス様付きのメイドです。ここにいるのは当然のこと。そう言うシャロン様こそ、なぜこちらの屋敷にいらしたのですか?」


「私だってアレスの幼馴染よ。顔を見に来るのは当然じゃない?」


アレスを挟んで二人は火花を散らす。


シャロンが帝都に来たのが昨日の事。それと同時にシュバルツァー領からシータもやって来た。


味方にすべき貴族達との面会を終わらせ、現在は続々とやって来る他の地方貴族達と面会をしていたアレスにとってこの事は寝耳に水であった。


「シータがくるなんて知らなかった……シャロンももう少し遅いと思ったんだけどなぁ……」


そう呟いた矢先。


「そもそもアレスが鼻の下伸ばしてるのがいけないでしょ!」


「えっ!?僕!?」


いきなり矛先を向けられてアレスはびくっと震えた。


「そもそもなんでシータがここにいるのよ!」


「いや、僕も知らなくて……」


「私がここにきたのは当然の事です!」


突然大きな声を出してシータが話を遮る。


「アレス様がいらっしゃる所には私がいます。これは運命なのです!」


いや、本当に誤解が生まれる言い方はしないで欲しい…

アレスからどんどん冷や汗が流れる。


「だから私、アレス様のためならなんでもします!」


そう言って、シータは頬を赤らめる。


「なんなら、この体も…全て捧げるつもりです!」


その場の空気が固まった!

アレスの思考も固まった!!


「何てこと言ってるのよおおおぉおぉぉぉぉ!」


固まった空気を溶かしたのはシャロンの絶叫だった。


「あんたにアレスの何がわかるのよ!私はあんたよりアレスとは長く過ごしているのよ!アレスは別にあんたみたいな人、必要ないわよ!」


あぁ、どんどん話が乱れていく…

今日はなんて日だろう……散々だ。


貴族との話し合いは大切な事。もしかしたら味方になれそうな貴族もいるかもしれない。でも、全てこの二人が予定を壊してしまった……


汗をかいたこともあって、喉が渇いたアレスは卓上に置かれてるグラスを見つけ、手に取って飲み干した。


「!? ゴホッゴホッ!!」


「アレス?」

「アレス様??」


二人が振り返った時、アレスは前のめりに倒れる所だった。


「ちょっと、あんた何飲ませたのよ?」


「そんな…確かに水のはずが」


「ちょっと、この瓶。水と書いてあるけどワインじゃない?」


「えっ?本当だ…。って事はアレス様の飲んだのはお酒…」


「アレスってお酒飲めるの?私飲んだ姿見たことがないんだけど…」


「シグルドさんに聞いてみましょうか?あと、急いで冷たい水を持ってきます」


そうシータが立ち上がった時、突然手を掴まれる。振り返ると倒れた筈のアレスがシータの手を握っていた。


「アレス…様??」


訝しげにアレスを見るシータ。その瞬間


「んっ!!?」


突然アレスは唇を重ねてきたのだった。


「んっ!んっっ!!」


中々離れないアレスとシータ。呆然と眺めるシャロン。


初めはバタバタと暴れていたシータだったが、アレスは肩をしっかりとつかんで離さない。そればかりかより激しく口づけを交わしていく。


はじめは唇を重ねただけだったのが徐々に舌が絡み合い淫卑な音が部屋に響く。


それに合わせてシータも暴れるのをやめ、静かにそれを受け入れるのだった。



ゆっくりとアレスが唇を離した時、側にいたシャロンはワナワナと震えながら真っ赤になって叫んだ。


「あ、あんた…何やってるのよ!?」


「この女は俺に全てを捧げると言った。だから望んだ事をしたまでだ」


呆けているシータを眺め、アレスはそう言うとニヤリと笑う。


「あんた…まさか酔っ払ってるの?」


「酔っている?違う。俺は今自分に正直になっただけさ」


そう言うと今度はシャロンの前に立ち、手を肩に置く。


ビクっ!と震えるシャロン。


「ちょっと…」


「シャロン。君がシータと俺のキスをずっと見ていたのは知っていた。なんだかんだ文句を言いながらも、目をそらさなかったよな。」


「なっ!!そ、そんなこと…」


目を見つめながらアレスはシャロンに語り続ける。


「わかっているさ。シータだけこのようなことをするつもりはない。シャロン…俺にとって君も大切なひとなんだから…」


シャロンは目をそらして言う。


「と、突然そんなことを言われても…」


「だから…これは初めに寂しい思いをさせたお詫びだ」


そう言うと今度はシャロンの唇を自分の唇で塞いだ。


「んっ!」


シータの時とは異なり、短いキスを繰り返していく。そして…


「んんんっ!?」


舌を口の中に滑り込ませていった。


クチュ クチュ クチュ…


舌が絡み合う音が聞こえる。


唾液が交わるたびにシャロンの頭の中には桃色の靄がかかっていくのだった。


アレスがゆっくりと舌を離すと、シャロンは恍惚の表情でアレスを見つめていた。


「アレス様!?ズルイです。私にも続きを下さいませ」


アレスの右からシータが抱きついてくる。


「アレス…私も…私も続きが欲しい…」


シャロンもまた左隣で腕を絡ませながら訴える。


アレスは二人の感触を楽しみながら言うのだった。


「あぁ、もちろんさ。今日はお前たちを満足させてやる。三人でこの時間を楽しもう」


そしてさらに付け加える。


「ただ、今日は接吻までだ。まだ俺たちは婚姻を結んでいるわけではないんだから。ただ…」


そう言ってアレスは笑った。


「今から身も心も…すべて俺のものにしてやるよ」




アレスが目を覚ますと、ベットの上だった。そして両隣には、恍惚の表情を浮かべ眠っているシャロンとシータがいる。


アレスは頭をかかえながら唸る…


「…若干記憶が残っている…あぁ…僕ぁ、何てことをしたんだろう…」


そう言ってアレスは自分の中のある記憶を思い返していた。


「あれではギルと何ら変わりがないじゃないか…」


その時、その声に反応して隣から声が聞こえた。


「アレスぅ…」


「アレスさまぁ…」


その声にアレスはビクッと震えた。見ると、蕩けたような顔の二人がこちらを見ている。


「もうケンカはしないから…皆で仲良くするから…」


「これからもお側にいさせて下さいね」



どうしてこうなった??


アレスにとって今日飲んだそのワインは…とても甘く、そしてとても渋いものとなったのであった。







かつて錬金王ギルバート・ゴライエは多くの国で浮名を馳せた人物であった。その口説き文句やテクニックで落ちない女性はいなかったといわれている。毎夜宮殿や貴族が催す宴に繰り出しては多くの女性たちを虜にしていたと言われる。


閑話休題


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