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家臣達の思い

シグルド、シオン、ジョルジュの三名がアレスから帝都行きが決まったと呼び出された晩の事。アレスが部屋を出た後、シオンは深く溜息をついた。


「やれやれ、とうとう主に呼び出しがかかったか。これで否応にも休みは終わりかな?」


シオンの言葉にジョルジュも頷く。


「あの方は炎のようなお方だ。行けば間違いなく、各地に火がつくだろう。そしてそれが帝都なら……アルカディア帝国は変革期を迎えることになるのは間違いない」


三人は先ほどの会話の内容を思い返す。あの時アレスは何と言ったのか。


《皆にも言ったけど、僕の最終目標は人種による差別がなく、全ての人々が平等に暮らせる世の中、国を作ることだ。そのためにはどんな事でもするつもりだよ》


「……アレス様の望みを叶えると言うことは、帝国を全て変えること……言うなれば、帝国を内部から全て作り変えるか、滅ぼして新しい国を作るか、と言うことだよ」


シオンはそう言うと近くに置いてあったグラスを傾けた。


「おそらく、他の諸国も巻き込んでの大戦(おおいくさ)になるだろうね。そして……今までタブーとされていた教会勢力とも争わないといけない」


「教会勢力か……」


シグルドは渋い顔をする。たとえ大国の王や皇帝と言えども慎重に動かざるを得ない相手、それが『教会』勢力だ。


アルカディア大陸における宗教は『太陽神アイン』を主とする多神教である。そして、その教えを説き人々を導くのが『教会』である。またそれだけではなく、彼らは神々の力を借りて行う『聖術』を使い、怪我の治療や解毒などを行い人々の生活を助ける役割をしていた。


その中心となるのは、アルカディア帝国中心部、帝都から少し離れた地、シェラハザードにある。ここに彼らは独立した自治領を持っていたため、その地は『シェラハザード神国』とも呼ばれていた。


彼らは、『宗教』という人にはなくてはならないものを楯に、各国に多大な影響を及ぼすこととなる。また、各地の教会が集める寄付金もシェラハザード神国に集まるため、巨万の富も手に入れていた。


神国には教会を統べる『法王』が存在する。彼がこの宗教の最高権力者である。次の権力者である数名の『枢機卿』は、数名は神国に残り法王を補佐し、他は各国に派遣され、政治の中心に据えられている。またそれから下の『大司教』以下、「司教」「司祭」「助祭」と多くの聖職者はこの大陸中の神殿や教会に派遣されていた。


特に『神聖アルカディア帝国』や北方の『ヴォルフガルド帝国』などは国教として認めており、ここでは大きな大きな発言権を有している。


さらに彼らは独自の軍隊を所持している。その中でも『シェラハザード聖騎士団』は神の加護を受けた最強の騎士団として名高かった。


それゆえ、彼らはすでに国家と同等の力を持ち合わせており、全てをまとめて『教会勢力』と呼んでいる。


しかし……当初は高潔な理念を持ち合わせた教会であったが……時が経つにつれて腐敗し、今では中枢にいる人間から末端の人間まで、自らの欲望のために動くものが多くなっていった。


また、現在各地で行われている『亜人』差別の元凶は教会勢力と言ってもよい。彼らは人族以外のものを『悪』として捉え排除をすることを声高に唱えていた。


「本来、太陽神の教えにはそのようなものはない。太陽神の子には獣神や森の女神、また魔神なども含まれるのだから」


シオンの言にジョルジュは頷く。


「あれは潜在的に人族が亜人を恐れ、それを宗教を通して利用したに過ぎない考え方だ。事実、この領内の教会ではそのような事は許されないからな」


シュバルツァー領は開祖以来、亜人を差別しない。それゆえ、そのような伝統が教会にも残っているのだろう。教会中枢部もシュバルツァー領内に関してはあまり細かい事を言うことはできなかった。


「いずれにしても、この教会勢力も変革しなければいけない時期に来たと言う事さ。セシルから何か連絡は来たかい?」


シオンの言葉にジョルジュは首を振る。


「いや、何も……どうやらまだ『光の御子』は見つからずに済んでいるようだ」


セシルとは彼らの数少ない学友の一人であり、現在最年少で神国の『司教』にまで登った男である。彼らはこの聖職者としては変わった考え方を持つ友人と常に連絡を取り合い、動きを探っている。


「『光の御子』はこっちの切り札だからね……時が来るまでしっかり匿わないと」


シオンとジョルジュの話にシグルドは黙って耳を傾けている。宗教の事、教会勢力の事、そして光の御子の事……彼は分からない事には口を挟まない主義であった。


シオンはそんなシグルドの姿を見て、小さく笑みを見せ、そして話を変えた。


「他にも分からない事はたくさんあるんだよね。なんで雷帝はあれほど主にこだわるのか、とかね」


シオンは今みでずっと疑問に思っていたことを口にした。確かに不自然なのだ。今回は皇帝自らの親征である。それなら、大陸中に名が売れている『シュバルツァーの双璧』の二人を指名するはずだ。しかし、今回直々に指名されているのはアレスなのである。しかも勅使の言葉ではかなりこだわりをもっていたと聞く。


「主もこの件に関しては絶対口を閉ざすしね……あの口調は何かを隠してるとは思うけど」


「だが、それでも」


ここで初めてシグルドは口を開いた。


「例え、我らに何か隠していようとも……私の仕事はあの方を信じ、あの方の『剣』となる事だ」


シグルドの言葉にシオンもジョルジュも頷く。

当然の事だ。自分達はそのためにこの地にいるのだから。


そして今は話せなくとも、いつか必ず話してくれることを信じて。


「ま、今は自分達を仕事をしっかりやる事だね。きっとここ数年で時代は大きく変わるよ。それぞれがしっかり準備を整えておかないとね」


シオンの言葉に力強く頷くシグルドとジョルジュであった。

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