東征13 豚王の最期
今年最後になんとか間に合った……
遅筆な作者についてきてくださりありがとうございました。
ちょっと大切な事を後書きにて書かせていただきました。よろしくお願いします。
ドルマディア国王ドルマゲス。
オークという魔族に生まれ、その高い知能と実力から数多の魔獣を従えた魔族である。
彼もまた魔獣に分類される下等魔族であった。だが、様々な魔術や薬を使い、また魔剣などを手に入れる事ができた事で、今では妖魔貴族を超えるほどの力を得た『カイザーオーク』へと変貌した経緯をもつ。
サマンサ王国東部にあった魔獣が住まう森。ゴブリンの集落を落としたのを足掛かりにここにいる全ての魔獣を掌握。次にその力を持ってサマンサ王国を滅ぼし、その地全土を手に入れる事に成功。
人族の『国』を手に入れた事で食料は技術を手に入れたドルマゲスはさらに魔獣を集めこの東大陸全土を荒らしまわったのである。
東大陸西側はほぼ彼の手中にあり、まさに地獄と化していた……
そう……彼がくるまでは。
◆
ドルマゲスは今、静かにその相手が来るのを玉座の間で待っていた。近くには数多くの女性の遺体が転がっている。
彼女達は先程までドルマゲスがその溢れるばかりの性欲をぶつけてきた相手である。
彼は彼女達全員と交わった後、その全員の命を奪ったのであった。
ここに彼の魔獣としての異常性を感じられるかもしれない。
「きたか……」
ドルマゲスはそう呟くと玉座の右に刺してあった大剣を引っこ抜く。
彼の手に収まった瞬間。その黒い刀身に血で描かれたような紋様が浮き上がる。
ドルマゲスはその紋様を見ながら……ここまできた時間を振り返っていた。
そう、全ては奴が原因だ。今、この部屋に向かっている巨大な魔力。その中でも純粋で、そして最も大きい魔力。それが自分がここまで落ちぶれたら原因を作った男であろう。
ドルマゲスの頭の中は、その男への憎しみでいっぱいになっている。
奴さえ来なければ。
すでに東大陸西側は全て自分のものになっていたはずだ。あのイストレアの女も何もかも自分のものになっていた。あの富んだ国を食い物に、東のバイゼルドと雌雄を決する事ができたはずだ。
それが今はどうだ?
もはやこの国は終わろうとしている。
あれほどいた魔獣の軍勢は今,この地に僅かしかおらず、それもまた殲滅されているところであろう。
王城の外からは魔獣達の断末魔が、響き渡っている。
だが、彼にそれを憐れむような心は持ち合わせていない。彼にとって部下とは自分の駒でしかないのだ。
今ドルマゲスの頭の中は
これから来る、憎き相手をどのように八裂きにするか。それのみだ。
ドルマゲスは剣を握る手の力を強くする。
それに呼応するかの様に魔剣が怪しげな輝きをみせる。
殺す殺す殺す殺スコロすコロすコロすコロすコロす……
ドルマゲスの気持ちが抑えきれなくなってくる。
そして……玉座の間の扉が開かれるのと同時に……
「グアオァァァァァァァアァァァァァァァア!!」
雄叫びと共にドルマゲスは跳びかかっていくのであった。
◆
アレス達は扉を開けたと同時に横に跳び退った。
その瞬間
「グアオァァァァァァァアァァァァァァァア!」
雄叫びと共にドルマゲスが跳び込んでくる。
「あれだけ醜悪な魔力を、垂れ流しておいて不意打ちとは……みっともないな、豚」
そう言ってアレスは鼻で笑った。
その声を聞き振り返ったドルマゲス。
だが、その言葉に反応した訳ではない。彼が反応したのは……アレスという存在だ。
そう、この男だ。この男がこの軍勢……いや『群』の長だ。
こいつだ。こいつさえいなければ
こいつを殺せば再びチャンスは巡ってくる!!
「グアオァァァァァァァアァァァァァァァア!!」
ドルマゲスは再び雄叫びをあげる。彼の身体はどす黒い闘気で覆われ、全身にその手にある魔剣のように赤黒い紋様で覆われ始める。
「どうなっている……?」
「これは……??」
シュウもレグルスも訝しげにその様子を眺める。
「……最期の賭け、と言うところか?魔剣の力を取り込んだんだろう……それが貴様の奥の手だな?」
返事はない。ただ、唸り、咆哮をあげ、赤く輝いた瞳をこちらに向ける。
「最早理性もない……か。それにしてもあの剣は、どこかで……?」
柄に蛇が刻まれたあの魔剣。何処かでも見たような……?
そんな事を考えていた時。ドルマゲスは再び咆哮をするとアレスに向かって襲いかかる。
『グラムっ!!』
アレスは武天七剣の中でも腕力に特化した『魔剣グラム』を呼び出し、迎え撃つ。
「なっ!!」
だが、そんなアレスをものともせず、ドルマゲスはその腕力で押し切っていった。
アレスは相手の力を見極めつつ、その剣圧をいなして力を逸らすと後方に跳び退り、体勢を整えた。
「親方様っ!」
「加勢するっ!!」
アレスが後方に下がった瞬間。今度はシュウとレグルスが同時に跳びかかるもドルマゲスはその攻撃を恐ろしいまでの速さで避け躱す。そしてそんな2人には目もくれず、再びアレスに向かって跳びかかっていった。
「なっ!?」
「無視をすると言うことか!?」
顔を顰めるシュウとレグルス。
そんな様子を見ながら、呼吸を整え終わったアレスはアレスは小さく呟く。
「あの剣が奴の恨みつらみを増幅させている……そしてその相手が……僕か。奴の覇道を妨げた張本人だから」
そしてアレスは魔剣グラムを納め、新たな剣をだす。
「聖剣エクスカリバー!」
青白い刀身がその手に現れた。それと同時にアレス自身も『魔闘術』を使い、黄金色に輝き始める。
「いいよ、相手になろう。さぁ、死合おうかっ!」
そう一言言うとアレスもまたドルマゲスに飛びかかっていくのであった。
◆
その戦いは筆舌を尽くしたものとなった。
ドルマゲスはその剛腕でアレスに襲いかかる。対して力で劣るアレスは身体強化されたスピードと技術でドルマゲスを翻弄していく。
シュウもレグルスもそれを眺めることしかできない。
加勢に加わろうとしたが……2人とも剣を下ろすこととなった。それは……
「むぅ……まさに武人同士の戦い……これを妨げるのは無粋よ」
「豚王と侮っていたがまさかこれほどとは……」
彼らが驚いたのはドルマゲスの武勇。
一介のオークから頂点に上り詰めた男。やるとは思っていたがまさかここまでとは。
その気迫。その剛腕。その技。いずれも当代きっての豪の者と言ってもいいだろう。
シュウもレグルスも武人である。武と武の戦いの中に美しさを見出す者達だ。だからこそ、その戦いに水をさす気持ちは持ち合わせてなかった。
アレスもまた心中で思う。
(魔獣であるオークからここまで進化を遂げた……並大抵の覚悟ではできないはずだ……)
と。
2人の剣撃が100を超えたほどになった時。アレスは再び後方に飛び、距離をとった。
アレスは荒い呼吸をしながらドルマゲスを見据えている。
対してドルマゲスもまた荒い息をし、滝のような汗をかきながら赤い目をアレスに向けていた。
その様子を見ながらアレスは口を開いた。
「見事だ、豚王。いや、ドルマディア国王ドルマゲス。お前は……オークではない。当代きっての英雄だよ」
それは賛辞。暴虐の限りを尽くしてきた魔獣とはいえ……これほどの武を見せた相手に対しての武人としての敬意。
アレスはそう言うと静かにエクスカリバーを収めた。
「そんな英雄だからこそ……俺も全力をかけよう。でろ!妖刀ムラサメっ!」
アレスの手に、今度は禍々しい色をした刀があらわれる。
そして居合の構えを取った。
「むっ!?あれは……」
シュウはそれを見て目を見張る。
対するドルマゲスはアレスの一言を聞きつつも表情を変えずに興奮状態で再び襲いかかっていった。
猛烈な速さでアレスに近づくドルマゲス。
だが、アレスに焦りはない。
「さらばだ。ドルマゲス」
アレスはそう言うとふぅ、と一呼吸。そして
「叢雲流奥義 龍滅閃!!」
そう呟いた。
それは一筋の閃光のように。
一瞬の出来事だった。
シュウも。レグルスも。そして恐らくはドルマゲス本人も。
何が起こったのか目で追えなかった。
「其は龍を滅する閃光也」
アレスの姿勢は変わっていない。
ただ、小さくアレスは呟く。
その瞬間。
ドルマゲスの身体は左右にずれ始め……真っ二つに分かれたのである。
息を飲むシュウとレグルス。
二つに分かれた身体はそのまま床に崩れ落ち盛大な音を立てた。
その音を聞きながらアレスは静かに言葉を紡ぐ。
「もう一度言う。ドルマゲス、お前は当代きっての英雄だよ。一介の魔獣から王になった……きっとそんな奴は2度と現れないだろう」
アレスの言葉はきっとドルマゲスには届かない。だが、彼は続ける。それが武人にとっての枢要な事だから。
「暴虐の限りを尽くしたお前に対し、憎しみこそあれ哀れと思う気持ちはない。だが……その武勇に対しては認めよう。見事な敵だった……と」
暴虐の王ドルマディア国王ドルマゲス。
一介のオークから、東大陸における大国の王となり、暴虐の限りを尽くした男はこうしてその命を己が玉座の前で散らせていったのであった。
年末最後のゲリラ投稿!!
とりあえずドルマディアとの戦闘がひと段落着きました!長かった……ありがとうございます。
東征編はいよいよバイゼルドとの戦いになります。こちらは……実は既に進んでいたり?年始に一度更新しようと思っています!
さて、ご報告。
『魔王様の作り方 〜暗黒剣士+死霊術師+魔物使い=魔王になって無双することになりました〜』
https://book1.adouzi.eu.org/n0931hf/
も第二章の方が完結しました!!自分の中ではかなり力を入れている作品なので……ぜひお読みになっていただきたいと思います。よろしくお願いします。
そしてもう一つ。コメントからのアドバイスを生かしてTwitterアカウントを作ってみました!!
アカウントは
@71Aw9
となります。
来年から本格的にこちらで呟きつつやっていこうと思ってます。よろしくお願いします。




