東征 その7 解放
投稿、忘れておりました……ごめんなさい……
アレスは現在ドルマディア王国中央部……旧カナン王国王都サンベールに駐屯している。
そのサンベールの中央には、その首都の名前を冠していた、東大陸でも豪華絢爛で有名だった居城サンベール城がそびえ立っていた。
今はドルマディアに荒らされ、かつての面影は全く見られないサンベール城。その一角にて、アレスは家臣たちと今後のことを図っている。
現在彼に付き従っているのはシュウ、ゼッカそして副将としてよくアレスに従う事の多いロランをはじめ、白軍の主だった面々だ。
ここでひとまず各地の情報を集めつつ、次の作戦を練っていたのである。
アレスの目の前には一枚の大きな地図が置かれ、そこには東大陸の現状が記されている。
アレス達がドルマディアに侵攻してから一月以上が経つが、すでにドルマディアの版図はイストレア侵攻前の3分の1ほどになっていた。
ロランはその地図を見て……そして次いでアレスに視線を向けて、ここに至るまでのドルマディア軍との攻防の様子を思い浮かべるのであった。
◆
アレスの軍勢がイストレアを経ってから数日後の事。
ホルス王都セーランから南に広大な草原が広がっている。その地に敗北以後、各地に散っていたドルマディア軍は結集していた。
ドルマディア軍は魔獣の軍団。その強さの源は圧倒的な数を使った物量作戦だ。
本来なら個で活動する魔獣を軍として組織した事。それこそがドルマディア最大の武器なのである。
各地街や村に駐屯していた魔獣達も全て、集められる。そしてその圧倒的な軍団でアレス達を迎え撃ったのである。
対してアレスはその草原が見下ろせる小高い丘に布陣した。
「しかしまぁ……かなりの数がいるものだ。ドルマディア軍も先の戦に懲りて本気になったとみえる」
草原中に蠢犇く、魔獣の軍勢。しかしアレスはそれを見て笑った。
「でも『魔王の遺物』で狂っているわけではないからね……奴らにも当然感情があるわけだ」
そしてこれこそアレスが狙っていた状況であった。
数が多いことは武器である。だが同時に機動力は低下する。
襲いかかる分にはいいのだが、守りに入る場合、それは時として不利な状況を作り出す。
「まずは僕の魔法……対戦略魔法『流星をもって相手を撹乱させる。そして動揺したところを徹底的に潰していく」
そう言うと、アレスは風魔法を使って、『破軍』に指示を出した。そしてそれが終わると普段は使わない丁寧な魔法詠唱を唱え始める。
長く紡がれる詠唱。それが終わった瞬間、アレスはニヤリと微笑みそして大声をあげた。
「さて、これを会戦の火蓋としようかっ!『流星!!』」
アレスの使った古代魔法。
数多の隕石を落とす無属性の戦略魔法。
無数の隕石により魔獣の群れは大混乱に陥った。
「……『オルディオス』ぐらいの魔力があれば、こいつらの3分の1ほどの数を削れるかも知れないけどね……今の僕には無理だな」
狂乱する魔獣の群れを見ながら、アレスは誰にも聞こえないような小さな声でそう呟く。
アレスの魔法により、魔獣の軍勢の真ん中あたりにポッカリと穴が空いた。しかしまだまだその数は数えきれないほどいる事が丘の上からでも確認できる。
超戦略的古代魔法ではあるが……戦況を動かすほど数を減らす事はできていないのである。
しかし……アレスの魔法により魔獣の軍勢は行動不能に陥っていた。逃げまどう魔獣達があちらこちらでパニックになって、潰し合いながら蠢いているのがよく分かる。
そしてこれこそ、アレスが一番望んでいた状況であったのだ。
アレスは再び風魔法を使いながら全軍に指示を出す。それに合わせてまるで生き物のように彼が率いる第一軍……『破軍』が風のように動き始めた。
始めに動いたのは重騎兵隊……黒軍である。その破壊力を生かし混乱した魔獣達を確実に踏み潰していく。
魔獣達の混乱はまだ続いている。その影響で魔獣の軍勢は様々な形を変えながら動いていく。それを機動力を生かして丁寧に赤軍が狩っていく。
中央の動けない魔獣達には後方から支援している青軍が雨霰の如く魔法を浴びせかけていく。
そしてこの軍勢の核となっている、魔人達の所には……
「おうおう、右も左も獲物だらけだ」
「バラン!残しておけよっ!」
「残すも何も……たくさんいるだろうがっ!」
「とにかく……今回の作戦は奴らの『頭』を潰す事だからな。洩らすなよ!」
『破軍』最強部隊である白軍が突撃していく。
彼らの進む道は圧倒的な力による虐殺が巻き起こる。
こうしてホルス領における一大決戦は、数に劣るアレスの軍勢が一方的に蹂躙をしていくという結果に終わることとなる。
戦いはほぼ一昼夜続いたが……終わった後には数えきれないほどの魔獣の屍で草原が埋め尽くされる……そのような状況になっていたのである。
◆
ホルス領内にいたドルマディア軍はこの戦でほぼ殲滅。ドルマディア帝国はその軍事力を大きく減らすことになった。
そんなアレス達の動きと連動してホルス王国がドルマディアの影響力を国外に追い払う事に成功。それと同時にその北部にあったナキア公国、メイアン王国の民が図ったように一斉蜂起を起こす。
その動きを皮切りに今みで虐げられていたドルマディア各地の民衆が魔族からの解放を謳い、武器を手にとり立ち上がりはじめたのである。
この図ったかのような一斉蜂起。これもアレスがイストレアに入る前より内々のうちに進められていた戦略であった。
アレスは各地に資金と武器を提供し、そしてそれぞれに数名の白軍を派遣し、指揮することでそれぞれの蜂起を成功に導かせていったのである。
白軍の面々はその武勇のみならず、統率力、政治力ともに高い。本来なら一国の将になってもおかしくはない面子だ。
戦闘に関しては素人集団にすぎない反乱軍を一手にまとめ上げ、作戦を立案、実行する。
また、口だけではなく、常に体を張りその先頭にたって戦い味方を鼓舞していく。
いつしか白軍の面々は、反乱軍にとってなくてはならないものとなっていった。
そして彼らに率いられた反乱軍にとって、烏合の衆とかしていた魔獣達を制圧するに時間はかからなかったのである。
アレスは各地を解放した後もその地には残らず北上を続ける。
一斉蜂起によって魔族の圧政から次々と解放される国々。アレスはそれぞれの国に先程の白軍を代官として置くことにより、混乱の収集を図った。
民衆も己が国のために彼らが何をしてくれたのかよく知っている。
民衆達は不平不満を言うことなく、白軍の指示に従ってくれた。
また、同時に解放に力を尽くしたものを復興に登用。荒れ果てた国の復興もすぐさま手をつける。
こうして解放した地を後にして、再びアレス達は恐ろしいほどの速さでドルマディア領内を突き進む。
そして……ドルマディア中央部。旧カナン王国の王都サンベールまで辿り着いたのだった。
◆
「『解放地』の復興は順調に始まったようです」
ゼッカの報告に、この一か月の戦いを思い起こしていたロランは現実に引き戻された。
ゼッカは続ける。
「ナキア公国の解放のために戦っていた公王の第三子、エルダン王子を発見いたしました。
ドルマディアの追手から逃れるために公都郊外に隠れていた様子です。また、戦にて負傷もしている模様」
「とりあえず、回復薬と回復が使える魔術師を送ろう。怪我が治り体力が回復次第、彼にナキアの政を任せようと思う」
「御意。人物的にも信のおける人物のようです」
その言葉にアレスはうなずく。
「さて、ナキアはいい……問題はメイアンの方だね」
「御意……メイアン王国の王族も見つかりましたが……あまり民衆からは歓迎はされてない様子です。王としては圧政を敷き、ドルマディアに国を引き渡してからは、雲隠れした者たちですから」
「で、ドルマディアが去ったら今度はこちらに媚を売る……か」
アレスの手には一通の書状があった。そこには旧メイアン王より、自身の身の安全の保証と王位に返り咲きたい旨が記されていた。
「都合の良いことばかり書いてあるね……彼が無条件降伏した事でどれほど民衆が魔族に虐げられてきたのか……知らないのかな??」
アレスはすでにメイアンのドルマディアへの降伏条件を掴んでいた。
その内容……自身の安全が保たれるなら、国も民も家臣も好きにして良い……という無茶苦茶な事だったのだ。
「王としては不適格……だね。とりあえず捕まえておいて、後は民衆に任せておくように。民衆が生かすならそれに従うし、殺すならそれまでだったという事だよ」
そして恐らくは後者になるだろう……アレスはそれは口にしないで次の話題に進んだ。
「カナンの王族はどうなった?」
「カナン王は投獄されていた牢から救出いたしました。酷く憔悴されてますが一命は取り留めるかと。また王族の方々も隠遁先から救出しております。どうやら民達が彼らを隠していた様子です」
「民衆が王家を守る良い例だね。メイアンとは大違いだ」
そういってアレスは優しい微笑みを見せる。
「取り急ぎ、彼らの健康に留意をしておこう。いずれ、白軍が行なっている国政を任せるのだから。政務がとれるぐらい回復したら、引き継ぐ事としよう」
そう言って、アレスは解放地についての話を一旦打ち切る事にした。そして、次に話題を移す……
◆
「では、今後の事について皆で話し合おうか。ゼッカの情報に気になるものがあったしね」
そういうとアレスは眼前に広がる地図のある箇所を指差した。
カナンの北東、荒野が広がる地。ここに魔獣の群れが集まってるとの情報があがったのだ。
「……ほう、奴らを率いる将がまだいるのですね」
シュウは少し驚いた表情を見せた。
ドルマディアは魔獣の軍。それ故に指揮を取るのは難しい。高位の魔人でないと彼らは中々指示を聞こうとしないのである。
アレスはそれ故に、シュウやロラン……そして白軍達に将となるような魔人は確実に、そして徹底的に仕留めておく事を厳命していた。
「頭がいなくなればどんなに群れていても烏合の衆。恐れることはない」
とは、アレスの言。
事実、ホルスでの戦い以降、大規模の魔獣の群れは見たことがなかった。これは彼らを指揮するもの達が不在である事を物語っている。
「それが再び群れている……となると、何者かが指揮をしていると言うことですね?」
シュウの質問に答えたのはゼッカであった。
「はい。しかし指揮をとっているのは魔族ではなさそうです」
「!?どういうことだ?」
目を見張るシュウとロラン。
アレスは面白そうな表情を見せ、話の続きを促した。
「その形は雄々しき獅子。白い体毛に黄金の立髪を持っておりました。魔獣人とは異なる透き通った魔力をもち、その強大な力は遠くからでも分かりました。そしてその佇まいから……おそらくは……」
「……真獣人か」
「御意。そしてその中でも主が探していたお方でありましょう」
その言葉にアレスはニヤリと笑みを見せた。
「東方の真獣人のリーダー、レグルス・バルハルト。その勇猛さは真獣人達をして獣王の生まれ変わりと言われた猛者……か。以前、ゼッカの報告にあった人物だね」
「御意。ただなぜ彼がドルマゲスの下についているのかは分かりません……どうやら何かドルマゲスに弱みを握られているようですが……」
アレスはその言葉を聞き、しばらく何か考えると、すぐさまゼッカに指示を出す。
「ゼッカ。その『弱み』とやらを探れ。場合によっては、それを手に入れてこい。大至急だ」
「はっ!」
ゼッカはそう言うと小さく頭を下げ、風のように姿を消した。それを見届けながら今度はシュウが口を開く。
「我が君……『真獣人』とは……??そして『レグルス』と言う人物とは……?」
「『真獣人』は亜人……獣人の祖にあたる一族だ。その力は獣人を凌駕すると言われている」
そう言うとアレスはニヤリと笑った。
「辺境伯としてグランツを治めるようになってから、その所在を探していたのさ。『真獣人』や『ハイエルフ』達を。彼らは『この世界』では迫害の対象になりかねない……と同時にその力は強大だ。彼らをなんとか守り……そして協力してもらえないか?とね」
亜人の祖と呼ばれる一族……『真獣人』『ハイエルフ』『真のドワーフ族』……彼らは能力は高いが教会の教えから迫害の対象にもなっている。
アレスは彼らを守りつつ、その力を国のために生かす場所を作っていきたいとずっと前から考えていたのである。
それと同時に。彼らは非常に高い能力をもっている。それ故に、この亜人達の多い辺境伯領において核となる存在になってもらいたい……そのようにも考えている。
「しかし……それとは別に獣王の生まれ変わりと言われたレグルスという人物には興味があるな……一度手合わせしたい……いや、やはり欲しい……」
アレスがその言葉を口にした表情を見て。
シュウはギョッとした表情を見せた。
そう、彼は知らなかったのだ。このアレスの性格を。
おそらくこの場にシグルドがいれば、こう言ったであろう。
「あぁ、アレス様のいつもの悪い癖(人材収集欲)が始まった……」
と。
すみません……またしても完全に放置していました。
コロナ禍で、自宅にて……なんですけど、それはそれで忙しく。そんな忙しさに追われるとすっかり忘れてしまう……
ただ、忘れた頃に感想欄で『楽しみにしてます!』みたいなありがたいお言葉で、思い出す……
なんかそんな繰り返しです。
激励、本当にありがとうございます!!




