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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
間章 〜辺境伯領での出来事 嵐の前の静けさ〜
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緊急招集

祝!!令和!!

アレスが北の大地より戻ってきて半年ほど過ぎようとしていたある日。

レドギア伯ウィリアムは領都ハインツへの突然の招集に戸惑いを隠せなかった。


シュバルツァー辺境伯領では三ヶ月に一度、アレスの直臣を始め、各領の領主達、また大きな街の長といった、主だった全ての者たちが集まり、方針を決める。


しかし、今回のように急な呼び出しは異例中の異例……アレスがこの地に来て約2年。未だ嘗てこのような事はない。


「一体何が起きたと言うのだ……」


訝しむウィリアム。彼は横目でチラリと馬車の外を眺める。そこには己が股肱の臣である『金虎将』ジオンの馬上の姿がある。

今回の招集には彼……ジオンもまた呼ばれているのである。


魔境の大地を横切る一本の街道……通称『始まりの街道』をひた走りながら、ウィリアムはこの後の会議に想いを馳せるのであった。





ウィリアムがアレスの屋敷に到着すると、早々に『円卓の間』に通される。

シュバルツァー辺境伯領において重要な話はここで話されるのである。


当初は円卓というものに戸惑っていたウィリアムだが、今では戸惑いはない。対する背後にいるジオンは興味深そうにあたりを見回している。


「ほほう。これが……話に聞いていた円卓ですか」


「あぁ……私も当初は戸惑ったものさ」


そう言いながらウィリアムは近くの席に座った。


周りを見渡すと、いずれの者達も戸惑いを隠せない表情である。


ウィリアムは各々の表情を観察しながら……一人の男の顔に視線を止めた。そこにはここ1年ほど顔を見せていなかった者の姿があったのだ。


「あれは……ダリウス将軍?帰ってきていたのか……」


そう、アーリアにいるはずのダリウスがそこにいたのである。

ダリウスは静かに目を瞑りながら、腕を組み座っていた。


そうこうしているうちに、次々と人数は増えていき、残るはアレスとその妻達、および参謀のシオンとジョルジュのみとなる。


円卓の間は妙な緊張感に包まれており、話をする者はいない。


ウィリアムとジオンは目配せをしながら、自分たちを呼び出した者の登場を待つ。


その瞬間。


「待たせたね、皆」


いつものように明るい笑顔を見せながら、この辺境伯領の主であるアレスが現れたのであった。




アレスは早々と空いている席に腰を下ろす。ジョルジュやシオンもその両脇に座り、アレスの妻たちは、少し離れたところに席が用意されていた。アレスの遠征以降、代理を務めていた彼女達もまた参加をするようになったのである。


ウィリアムがそちらに目を向けると、妹のリリアナと目が合う。お互い小さく笑い合うと、再び己が主を視線を向けた。


「急に呼び出してすまない。だが大きな発見と動きが起きたからね……主だった者全てを集めさせてもらった」


その一言にウィリアムは思わず生唾を飲み込んだ。アレスは今『大きな動き』と言った。彼は話を誇張するタイプではない。本当に何か大きな事が起こったのだろう。


それこそ、この大陸全土が巻き込まれるよう何かが。


彼は自分がその場に居合わせる事に興奮し始めていた。


「まずは、内政から。ジョルジュ。説明を頼む」


「はい。まずは……ノーラが開発している山脈で……多量の高純度魔石と……ミスリルの鉱脈が見つかりました」


「なっ!!高純度魔石!?」


「ミスリルの鉱脈とな!?」


予想外の報告にその場が騒めく。


それもそのはず、高純度魔石、ミスリル、どちらも金、銀以上に希少な鉱石なのだ。

高純度の魔石は現在魔境の大地の『龍脈』で作られる魔石とは桁外れに魔力が違う。

高純度魔石は魔力が強い魔獣などの心臓などが結晶化してできるものだ。その中でも最高峰がヴァルキリーアーマーに宿っている『フェニックス・ハート』や『ドラゴン・ハート』だ。今回はその『ドラゴン・ハート』とともに、数え切れないほどの、その一ランク下ほどの高純度の魔石が発見されたのである。


さらにもう一つの発見、ミスリルの鉱脈も大変な事である。この大陸において強力な魔力を帯びた武具防具は全てミスリル製だ。名のある武将や冒険者は皆、ミスリル製を好んで使う。

オリハルコンやアダマンタイト、または東方由来のヒヒイロカネを含む三大超金属ほどではないにしろ、鉄や鋼とは比べものにならないほどの魔力伝導力と頑丈さをもつ金属である。

鉄の王と言われる『黒鉄』よりもはるかに貴重であり、特に魔法を使う者たちからすれば垂涎の金属なのだ。


「流石にこれは公表できません。公表したら即座に没収となるでしょう。しかし放置することもできない」


ジョルジュはそう言うと皆を見渡す。


これが公表されれば間違いなく没収、それは誰の目にも明らかである。

それだけ大きな物を発見してしまったのだ……


もし、没収ともなるとそれを機に、多くの者が出入りをし、悪い方向に辺境伯領が変わってしまう。また、今までひた隠しにしていた辺境伯領の発展も公になり、この地ごと没収ともなるであろう。


だが……だからといって無視することができないものでもある。


「それ故に……売ったり献上したりするのではなく極秘にこれらのものを使って開発を致します。共に使い道として、武器防具の作成、および『戦闘用ゴーレム』と『魔導列車』の材料に使おうと思っています」


「『戦闘用ゴーレム』とな?」


聞きなれない単語が飛び出した事で、思わずトレブーユ伯爵ルイは聞き返す。


その疑問に答えたのはアレスであった。


「『戦闘用ゴーレム』……これはミスリルで作ろうと思う。そしてその心臓に高純度魔石を配置する……うまくいけば意思をもつゴーレムになるはずだ」


想像もつかない使い道。皆は唖然とする。

そしてその言葉に次いでジョルジュも口を開いた。


「主の話だと『魔導列車』に組み込むことで、高速で走る列車も作れそうだ、との事でした。まぁ、場合によっては列車も意思をもつかもしれませんが……それも面白いかもしれませんね」


怖い事をさらりと言うジョルジュ。ウィリアムやグレイは意思をもつ列車のくだりで少し首を捻ったが……アレスたちはなんとも思っていないようだ。


「しかしそのようなゴーレムが配備されたら、軍団を再編しないといけませんね」


そうエランは疑問を口にした。その言葉に答えたのはシオンである。


「その通り。という事で、二つ目の議題は……軍団の再編成さ」




シオンは説明をする。


「龍騎士団もだいぶ使えるようになってきている。これは第2軍団として組み込んでもいいと思っている。またダリウスが連れてきたアーリア人の兵も強力だ。これもまた軍団の中核に据えようと思う。そして……シュウが呼びよせている東方の兵達……聞けば相当の強者だとか。1年ほどで合流予定の彼らもまた軍団に合流してもらう」


その言葉にシュウは頷く。

シオンが考えている軍団の配置。


ここ数年で鍛え上げたシュバルツァー辺境伯領が誇る精強な領兵を5つの軍団に分ける。


そして、特異性のある兵をその中に混ぜる。


第1軍団 アレスを団長とする『破軍』を中核とした軍団。


第2軍団 シグルドを団長とする『龍騎兵』を中核とした軍団。


第3軍団 ダリウスを団長とする『アーリア兵』を中核とした軍団。


第4軍団 シュウを団長とする『叢雲家の武士(もののふ)であるサムライ』を中核とした軍団。


「第4軍は基本、サムライが入るまでは守備役とする。それまでシュウは第4軍の指導と指揮を。そして戦の際は主の副将を務めるように」


「畏まった」

シュウはシオンの言葉に頷いた。


シオンは言葉を続ける。


「第5軍にはシャドウ殿も副将として加わっていただき、スケルトンの部隊と『戦闘用ゴーレム』を加えます」


第5軍団 シオンを団長とする『スケルトンとゴーレム』を中核とし、守備を担う軍団。


シャドウはハインツに入ってから、スケルトン集めに奔走していた。それだけスケルトンの需要は高く、内政においてからの力は不可欠となっていた。


その力を今度は軍事のほうに(本来の目的はこちらだったが)本格的に使ってみようと考えたのである。


「軍団を再編し、戦に備えましょう。平和な日々も……もうすぐ終わりですからねぇ」


シオンの何気ない最後の一言。それが発せられた瞬間、先ほどまでざわついていた、この円卓の間が静まり返った。


シオンはアレスを見る。目と目が合い、アレスは頷く。


確認を終えた後、シオンは再び口を開いた。


「なぜ、再び軍備を整えるのか?そして……今回皆を急遽呼んだ理由は……間違いなくここ一、二ヶ月で大きな戦があるからです」





「情報は二つ。まず、西側…トラキアとの戦が本格的に始まるとの報告が入りました」


そう言うとシオンは円卓に大きな地図広げた。アルカディア大陸西方が詳細に載っている大きな地図てある。シオンはその地図の二つの地点を手に持っている鉄扇で指し示した。


「この二方向より軍を進める事でしょう。一つはザクセン公国を通ってトラキアに攻め入る道。もう一つは旧モルオルト領……現シルビア皇女直轄領から『トランベルグ公国』を通って攻め入る道。ここに現在兵が集まっているのと大公領のローエン殿からの報告で間違いないかと思われます。大公領の兵もまた、こちらに向かうよう指示がおりたそうなので」


シオンの声を聞き、質問が上がった。


「ザクセン領から行くのは分かるが……なぜわざわざトランベルグを通る?あの地には『戦神』との勇名が轟く『鉄騎公』アルバレス・トランベルグ公王がいるではないか?」


シオンに疑問を投げたのはグランツの顧問を務めるゲイルである。

ゲイルの言葉に皆大きく頷いた。


アルバレス・トランベルグ


現在、齢40代後半。現在最も脂の乗り切った時期であり、精力的に国の指導者として活躍している。

戦の天才と名高く、小国トランベルグがアルカディア、トラキア、ヴォルフガルドといった大国に挟まれても独立を保っているのは彼の力だと言うのは有名な話だ。

その生涯に敗北はなく、トランベルグの鉄騎兵は大陸最強の名を冠しており、大国の王に生まれていたら大陸を制覇できただろうとも言われている。


各国にとってトランベルグは不可侵の土地であり、ここ数年、攻め込む事はなかった地であった。


ゲイルの質問を聞き、シオンは大きく頷く。


「そう、それが普通の考えです。されど、今回の戦、ローゼンハイム公子が一枚噛んでいる様子。恐らくは『誰にも負けない大きな手柄』が欲しいのでしょう。主のようにね」


そういうと、シオンはチラリとアレスを眺め、アレスはそっと首をすくめた。


「サイオンは今、間違いなく帝都で最も大きな派閥の長です。皇女との婚姻も結び、近い将来確実に宰相の位に着くでしょう。しかし……それだけでは足りないものがある。それは軍部に対しての影響力です」


そう言うとシオンは全体を見渡し、一呼吸置いた。


「トランベルグを通れば……誰も成し遂げる事ができなかった偉業。最初はなんとか懐柔しようとするでしょうが、あのトランベルグ公王が頷くとも思えない。間違いなく戦になるでしょう。それ故に、圧倒的戦力を向かわせ、数で飲み込もうとしているに違いありません」


先ほどの情報によれば確かに大規模の人数がシルビア皇女直轄領に集まっているとの事だった。シオンの説明を聞き、頷く一同。


「もしくは何が策があるのかもしれません。彼にはどうやら得体の知れない参謀がついているようですから。まぁ、それでもトランベルグ攻略は難しいと思いますけどね。数で飲み込めるような相手だったらとっくに飲み込んでいますから……ただ問題なのはシュバルツァー大公家の兵もまたそちらに配属になった事でしょうか?辺境伯領としては断れても大公領の兵は断る理由はありませんからねぇ」


シオンの言葉に次いで、アレスもまた口を開いた。


「まぁ、そちらに関してはすでに手を打ってあるから安心して良いよ。むざむざと父上の大切な兵達を死地に送るつもりはないからね」


そう言ってアレスは笑った。


「大将もローエン殿だと聞きますし、後は主が上手くやってくれるでしょう」


シオンもそれに合わせて笑う。


「この戦、必ず敗れることになります。しかも手酷く……トランベルグの事は勿論、ザクセンから行く軍もです。トラキアも弱兵ではありません。その上必ずザクセン大公に足を引っ張られます。サイオンがザクセンを通りたいのは、彼に対する牽制です。しかしそれが裏目にでる事でしょう……そしてここで敗北が起これば……確実に帝国は乱れる」


「まっ……待ってください!」


声をあげたのはウィリアムである。


「帝都にいる『雷帝』は……それを許可しているのですか??」


ウィリアムの言葉に多くの者たちが頷いた。


「セフィロス陛下は『雷帝』と言われる方。そのような方が現状を分からないとは思えませんが……」


アレスはその言葉を聞き、チラリとコーネリアに視線を送った後……口を開いた。


「恐らく陛下は……何もしない……いや、正確には何もできないだろう……」


アレスの言葉に一同は息を飲む。そして、静寂があたりを包んだ。


体調が悪いらしいとは風の噂で聞いている。しかし何故、いつもアレスはそこまで断言できるのか……それは未だに分からない。コーネリアの顔を見るものもいるが、彼女もまた黙ったままだ。


シオンがアレスに問う。


「主……貴方の言葉を疑った事はありませんが……それがどうしてか、まだ話せませんか?」


アレスは苦渋の顔をしながら言葉を紡いだ。


「……ごめん。まだ話せない……」


そして再び静まり返る円卓の間。


「後1年……後1年たったらきっと話せる時がくる。それまでは……待っていてくれ」


その言葉を聞き、誰かが溜息をつく。それを合図に沈黙を破ったのはジョルジュであった。


「……ではこの話は『必ず』一年後に話していただきましょう。ではもっと大切な話……次の議題に入ります」


そう言うとジョルジュは再びシオンを見た。


「東方の動きについて。そして我らはどう動くのか。目下一番大切な事を説明してもらいましょう」




時代が平成から令和に変わりました。


アレスの物語も新ステージへ向かい始めます。


今後ともどうぞよろしくお願いします!!

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