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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
間章 〜辺境伯領での出来事 嵐の前の静けさ〜
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龍心(ドラゴンハート)

「っということで、来てもらおう。ご主人様」


「……君達は本当に僕に何も言わずにいろいろな事を決めてくるよね……」


シャロンの聖槍ミネルヴァの一件から数日後。今度はリリアナがアレスにこう宣言した。


「当然、お前も来てもらうぞ、シャロン」


「まぁ借りがあるししょうがないわね」


シャロンも両手を上げながらやれやれというポーズをとって笑う。


「あのぅ……」


「何か?」


「コーネリアやジョルジュには……」


「当然言ってある」


「根回し、早っ!!」


がっくりと頭を抱えるアレス。それを見てシャロンは呆れた声をだす。


「そりゃ当然。あんたより先にコーネリア様よね」


「ジョルジュ殿も怒らすと大変だしな。やはり報告は早くしないと……」


「……もういいや……なんか悟ってきたよ……うん……諦めたよ……」


そう言ってため息をついた後、アレスはリリアナに言った。


「で、今度はどこに行くんだい?別に武器探しでもないんだろ?」


リリアナには相棒である聖剣アルフレックスがある。そんな理由ではないはずだ。


「お……おぅ……ご主人様、随分と切り替えが早くなったな……コホン」


リリアナはそう言うと、一呼吸置いた後、今後の行き先を告げた。


「今回向かうはグランツ東方の鉱山地帯。第13番鉱山と言われる場所だ」



グランツ東方の鉱山地帯。現在ノーラが任されているそこは、各地から鉱山技師が集まり今や街と呼ばれるほど盛大な賑わいを見せていた。


各鉱山には番号が付けられ、全ての鉱山がノーラの元管理されているのは報告で上がっている。しかしその中でも13番鉱山というのは……


「ノーラの言うことじゃあ、鉱山としては未知なる山。魔物が多すぎて精霊による探索もできなかったと聞いているけど……」


あまりにも強い瘴気が立ち込めているために精霊も入り込むことができないそうだ。

そんな鉱山にリリアナは入ると言い出した。


「なんでそんな山に入るんだい?」


「なんでもこの鉱山から高純度魔石のかけらが発見されたと聞いたのだ」


現在、シュバルツァー辺境伯領において魔石は珍しい存在ではなくなった。『龍脈』の発見がその要因だ。どんな石ころも龍脈に一定期間当てれば魔石と化す。これにより、多量のゴーレムや魔導機器の開発など、辺境伯領は発展してきた。


しかし今回の高純度魔石となると、龍脈から取れる魔石とは全然質が異なってくる。


本来魔石とは高位魔獣が命尽きる時、その生命力が結晶となり産まれるものだと言われている。高純度魔石はまさにその類、純度が高くなればなるほど、高位の魔獣のものだと言われている。


その最高峰となるのが、古代龍(エンシェントドラゴン)不死鳥(フェニックス)神狼(フェンリル)や麒麟と言った神獣達だ。


「たくさんの高純度魔石があったと聞く……それならもしかしたら神獣クラスの魔石があるのではないか?と思うのだ」


リリアナはそう言うとチラリとシャロンの顔を見た。


「私もシャロンのように戦乙女鎧(ヴァルキリーアーマー)が欲しいと思うのだ」


実はリリアナの戦乙女鎧(ヴァルキリーアーマー)はすでに開発済みだ。ただ、最後の1つにして、最も重要なもの、『魔石』だけが手に入らないのだ。


アレスが開発した戦乙女鎧(ヴァルキリーアーマー)は、魔法金属(ミスリル)を主に使用している。その為、それだけでも相当な代物だ。だが、最大の特徴はその核となる『魔石』の存在である。ミスリルは所詮その魔石を力を引き出す為のものなのだ。


そしてその魔石は……最高の魔石を必要としている。シャロンの戦乙女鎧(ヴァルキリーアーマー)不死鳥(フェニックス)の心臓『フェニックスハート』を使っているのである。


強い魔物は強い魔物を呼ぶと言う。それなら高純度魔石があるところ、多くの高純度魔石が出るのではないか。そしてその中に……神獣クラスの魔石があるのではないだろうか……


リリアナはそう考えたのだ。


こうしてアレス達は、今度はノーラの鉱山へ向かう事となったのであった。




「危ないと思ったら引き返すんだよ」


ノーラからはそうアドバイスを受けた。


「精霊に襲いかかるほどの魔物がいそうだからね……まぁ、アレス様がいるからなんとかなるとは思うけど……それでも無理だと思ったら逃げ出しなよ!」


そんな言葉を背に、3人はどんどん奥地へ進む。通路が整備されていたのは入り口付近のみ。奥に行けば行くほど、手付かずの坑道という印象だ。そして奥に行けば行くほど、魔物と出会う頻度も増えてくる。


やはり現れるのはアンデッド系統の魔物だ。しかも、スケルトンやゾンビ、グールと言った人の形をしているものではなく、魔獣の形をしたアンデッドが多い。


しかも一体一体がかなり強敵であり、これには流石のアレスも驚いた表情だり


「驚いた……これだと普通の兵を連れてもダメだな……今度白軍を出すのを考えないといけないかもしれないな……」


アンデッド達を蹴散らしながら、そんな事を考えていたアレス。

気づけばかなり奥の方まで歩いてきた。隣にいるシャロンやリリアナも少し疲れた表情だ。


「この辺はおそらくまだ誰も来たことがないはず。奥に行けば空気も薄くなってきているしね……そろそろ引き返すのを考えた方がいいかも…」



そう言いながらアレスは周りを見渡し……そしてある事に気がつく。そう……このあたりの壁面は青い色をしている事に。


「まさか……これは……」


「どうしたの?」


シャロンの問いかけを無視し、アレスは壁面の青い色をまじまじと覗き込み……そして呟く。


「驚いた。これはミスリルだ。ここは……ミスリル鉱山だったんだよ」


「ミスリルに鉱山なんてあるの?」


「……正直あまり聞いた事がないね。だからこそ……これはとんでもない発見だ」


少し興奮している様子のアレス。それもそのはず、アダマンタイトやオリハルコンと比べたら、多量にあるものの、それでも高い魔力伝導力をもつミスリルは超貴重素材である。それがたくさん出てくるとは……


「リリアナの魔石探しを付き合うだけのつもりが、とんでもないものを発見しちゃったな……」


そう言って笑った瞬間。


「オォォォォォォォォォオオ……」


とてつのない唸り声が坑道の奥底から響き渡ったのであった。



唸り声の方に向かったアレス達はそこで立ちすくむ事となる。


声の主は1匹のドラゴン……しかも古代龍(エンシェントドラゴン)級であったのだ。


「まさか……本当にお目見えするとは思わなかった……」


そう言ってアレスはため息をつく。そしてアレスは顔をしかめる。

アレスが顔をしかめた理由……それはドラゴンの状態にある。

肉が剥がれ落ち、所々に骨が見える。さらに目は淀んでおり、腐臭と瘴気を放っている。


「ちょっと……これって……」


思わず後退りするシャロンとリリアナ。


「あぁ……間違いなく古代龍(エンシェントドラゴン)……そしてアンデッド化している……!」


そう言うとアレスは身体中の魔力と闘気を高め始めた。

叢雲流戦闘術『魔闘術』……彼がこれを使うと言う事は、本気になった証でもある。


アンデッドといえど相手は神獣と言われる古代龍(エンシェントドラゴン)だ。大変な戦いになるのは簡単に予想ができた。


(これならシグルド達も連れてくれば良かったか?この3人だと分が悪い……)


アレスはシャロンやリリアナの方に顔を向け、そして口を開いた。


「二人とも、とりあえず一旦下がって……」


「いやよ」


アレスの言葉に被さるようにシャロンは即答する。


リリアナも何を言ってるのだとばかりに首を傾げ、腰に履いている聖剣アルフレックスを抜きはなった。

シャロンもまた聖槍ミネルヴァを構え直す。


「あんた何か勘違いしてない?私達は別に守られるために一緒にいるわけじゃないのよ?」


「しかし、相手はいくらアンデッドになったとは言え、古代龍(エンシェントドラゴン)だ。相手をするには分が悪すぎる」


「……あんたねぇ。逆に考えればいくら古代龍とはいえ、あれはアンデッドでしょ?」


そう言うとシャロンはため息をついた。


「それが……あ」


アレスもそこでシャロンの言いたかったことに気づく。


「ご主人様……我々の武器はアンデッドに一番効果を発揮するものだぞ?」


そう、シャロンの槍は『聖槍』ミネルヴァ。そしてリリアナの剣は『聖剣』アルフレックスだ。

通常の威力も強力なため、ついつい忘れがちになるが……元々『聖』属性の武器が一番効果を発揮するのは対アンデッドである。それこそ並のアンデッドなら触れただけで消滅するほどの。


「ここには、その『聖』属性の武器を持っているのが3人いる。これ以上対アンデットで有利な条件はないと思うが?」


リリアナの言葉にそうか、とアレスは考え直す。


確かに妻達の言った通りである。今はここで彼女達の力を借りた方が間違いない。


それにしても……と、思う。


なんと頼もしい妻達なんだろう、と。


アレスは小さく笑うと、己が武天七剣から『聖剣エクスカリバー』を取り出し、そして言った。


「僕が間違っていたよ……じゃあ二人とも、協力を頼む」


「元よりそのつもり!!」


「当たり前でしょ!!」


その言葉と共にリリアナは全身に魔力を纏う。そしてシャロンは戦乙女鎧(ヴァルキリーアーマー)を作動させた。彼女の背中から黄金の翼が広がる。


「僕が真ん中で奴を引きつける。シャロンは右から。リリアナは左から奴の足元を狙ってくれ」


「「承知!!」」


そう言うと3人は古代龍(エンシェントドラゴン)に向けて、走り出すのであった。




戦いは一方的な展開であった。


やはり古代龍とは言え、アンデッド。聖剣や聖槍は彼にとって相性が悪すぎるのである。


「いややああぁぁぁぁぉぁぁぁぁ!!」


シャロンの攻撃により左前足を吹き飛ばされる古代龍。


「はあああぁぁぁぁぉぁぁぁぁ!!」


リリアナの一撃により、右前足もまた深刻なダメージを受ける。


そした正面からはアレスのエクスカリバーが襲いかかった。エクスカリバーの『身体強化』と『魔闘術』の影響で恐るべき速さになったアレスの斬撃は古代龍の身体を切り裂いていく。


さしもの古代龍も、堪らず悲鳴をあげた。


その時だった。アレス達3人の元に声が届いたのは。


《助けてほしい》


その声にアレス達の動きが止まる。どうやら脳内に直接語りかけているようだ。


《我は命尽きた際に何者かの瘴気を受け、アンデッドと化した……我の誇りが汚されている……助けてほしい……この呪縛を解いてほしい……》


その声を聞き、アレスは顔をしかめ、シャロンは口に手を当てて固まる。リリアナは怒りの表情を見せた。


「どういう事……これって……」


「誰かが彼の死の直前にアンデッドに変えたわけだ。誇り高い古代龍の最後を汚して」


アレスの言葉にリリアナは叫んだ。


「……ふざけるな!!そんな事をやって言い訳がない!!」


リリアナはそう言うと古代龍に向き直る。目には涙を溜めて。


彼女は幼き頃より王族として、騎士として育ってきた。誇りを何よりも大切にして。

それ故にこの誇りを汚された古代龍の気持ちが痛いほど分かったのかもしれない。


「リリアナの言う通りだ……次の一手で彼を救おう。誇り高き古代龍は戦ってその生涯を遂げた、と」


アレスはエクスカリバーを解き、代わりにムラサメを取り出す。

それに合わせてシャロンとリリアナは古代龍の両後ろ足に向かっていった。


聖剣と聖槍の力により、アンデッドと化したその足は一瞬にして消滅していく。動きが取れなくなった古代龍は最後の咆哮をする。


そしてそれを見たアレスはカッと目を見開き、古代龍に向かって恐るべき速度で飛びかかった。


「叢雲流奥義『龍滅剣』!」


宙を舞ったアレスから放たれた斬撃。


叢雲流奥義の1つ、邪龍を滅する奥義『龍滅剣』


「グォォォォォォォォォオオオ」


さしもの古代龍も堪らず、崩れ落ちる。それと同時に身体が砂と化していく。


アレス達が崩れゆく古代龍を見ると、何か微笑んでいるように見えた。それを見て3人は、安堵感に包まれるのであった。



古代龍が崩れ落ちたところ……その中央でアレスは大きな光る塊を発見する。


「これって……魔石……龍の心臓となると『ドラゴンハート』か!?」


アレスの声に2人も駆け寄る。視線を向けるとそこには青白い大きな魔石があった。


「すごい……魔力が溢れ出ているのが分かるわ……」


シャロンの声にリリアナも頷く。


「これが神獣の魔石……想像以上の代物だな……」


「何はともあれ、これでリリアナの戦乙女鎧(ヴァルキリーアーマー)を完成させることができると思うよ!まさか本当に手に入るとは思わなかったけどさ」


弾むアレスの言葉に反してリリアナは不安そうに口を開いた。


「でも……神獣の魔石は人を選ぶとも聞いている。果たして私が選ばれるかどうか……」


「……リリアナ、何を言ってるの?」


そう言ったのはシャロンだ。


「だって、私達あの古代龍を解放してあげたんだよ?大丈夫に決まっているでしょ?」


シャロンの言葉にアレスも笑顔で頷いた。


魔石に目を向けると、キラリと輝く。それはまるでその言葉を肯定するかのように。


こうしてアレス達は戦乙女鎧(ヴァルキリーアーマー)の核となる魔石を手に入れる事ができたのである。





アレス達はその後、鉱山を探索し、とんでもない事実を知る事となる。


それは、この鉱山で多量のミスリルと高純度の魔石が取れるという事実。


そもそも古代龍は魔力の多い所を好む。この地にアンデッドと化しても住まわっていた理由はこのミスリル鉱山にあったのかもしれない。


高純度の魔石も然り。

強い魔獣は強い魔獣を呼ぶといわれる。そのためこの鉱山は強き魔物の巣窟だったと予想ができた。


「とにかくこれはとんでもない発見だ……皆に諮らないとなんとも言えないな……」


アレスはそう言うと小さく溜息をつく。


「あぁ、これできっと忙しくなる……のんびりするのも終わりかなぁ……」


アレスの予想通り、この発見はシュバルツァー辺境伯領にとって、再び戦乱の狼煙となる初めの出来事となるのである。

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