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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
間章 〜そして時代は動き出す〜
156/189

『刻印』

※1月8日追記


大切なご報告を活動報告にて書かせていただきました。

北の大地から帰ってきてから。アレスは平和な日々を謳歌していた。


妻達との日々は、時に追い詰められることもあれど、彼の心に潤いを与え、豊かなものにしてくれている。


怒られる事もある……されどそれ自体をアレスは楽しんでいた。


しかし、そんな妻達との日々の中でアレスはとても気になっていることがあった。





正妻であるコーネリアの事である。





彼女は優秀だ。政務に長け、聖術に秀でている。慈愛の心を持ち合わせ、夫を立てる姿勢をもち、他の妻達とも上手くやり……妻として申し分ないだろう。しかし……それだけではどうにも説明がつかない事がある。


なぜ、他の妻達が絶対的に彼女に従っているのか。

なぜ、家臣達が一様に忠誠を捧げるのか。

なぜ、住民達が彼女の事を母のごとく慕うのか。


アレスが言うのもなんだが、妻達も、家臣達も……一癖も二癖もあるもの達ばかりだ。それがなぜ、あれだけ彼女を慕うのだろう?


それだけでない。彼女を中心に物事を行なっていくと、その面々はいつも以上に力を発揮しているように思える。


報告書にあった大々的なはぐれ魔獣の討伐。どうやらコーネリアが指揮官として参戦していたと聞く。その指示に従い動いたシャロンやリリアナ、エランやエアハルトの動き……見事としか言いようがない働きをしていた。


コーネリアは戦に関しては素人のはず。なのにその命令に従い、戦功をあげる……どうにも不思議である。


そして……アレスが最も気になる点……それは彼女がいつか見せた瞳の色である。

ゼッカの報告書にもあったが、時折彼女の瞳の色は赤く変わり、その右目には紋章のようなものが浮かび上がるという。


(ギルを封じた時に見せたあの瞳……そしてその時のギルの慌てよう……絶対何か秘密があるはずだ)


アレスはそう言うと再び思考の海に沈んでいくのだった。




その夜、アレスは夢の中で3人の記憶と語り合うことにした。


「珍しいね。君から僕達を呼び寄せるなんて」


ギルバートは笑顔。シンは仏頂面。そしてレオンは苦虫を噛み潰したような顰め面。


「今回どうしても聴きたかった事があってね」

そう前置きをすると、アレスは今まで聞けなかった率直な質問を口にした。


「ってかさ、いつも思うんだけどさ。皆は僕の記憶であり、僕本人な訳だろう?でもなんで喋れるんだい?」


今まで聞こうにも聞けなかった事。それをまずストレートにぶつけてみた。

その疑問に答えたのはギルバートだ。


「確かに。我々は君の前世の姿であり、そして記憶である。それ故に我々は君であり、それは間違いではない。だが……まだ雛鳥であった君のためにあのクソ神様……おっと失礼、あの命の神アドニスが別人格として君から切り離したわけだよ。君を助けるためにね」


ギルバートはそう言う。それに続き、シンも口を開いた。


「其方は我らの記憶を受け継ぐにはあまりにも〈器』として未熟であった。それ故にこのような回りくどい方法をとったのだ。其方が成長し……少なくともギルバートの魔術を極め、我の剣術の奥義を身につけ、レオンの権謀術数を手に入れた際には我らは其方の中で消えるであろう」


「まだまだ先は長そうだね……」


アレスはそう言って笑う。


「馬鹿を言うでない。そう悠長な事も言ってられぬ。貴様ももう20歳をこえた。一人前と呼ぶに相応しい年齢ぞ」


レオンは少し怒り口調でそう言った。アレスはそっと首をすくめる。


「自分自身を脅してどうする……王様根性が抜けないねぇ……さて。今回聞きたい事とはなんだい?」


ギルバートの言葉にアレスは少し迷った表情をしながら……意を決意して口を開くのであった。




「……『刻印』について教えてほしい」


アレスの言葉で3人の表情が変わった。


「この前、ギルがちょっとだけ教えてくれただろう?もっと詳しく教えてほしいんだ」


アレスはそう言うとギルバートの方に向き直った。


「恐らくコーネリアの瞳の紋章……あれが刻印だと思っている。あれは一体何なんだい?」


ギルバートは難しい顔をしながらジッとアレスの顔を見る。


しかしはじめに口を開いたのは横にいたレオンであった。


「あの娘だけでない。実は……貴様も『刻印』を持っている」


「……へ?」


それに続いて口を開いたのはシンである。


「其方が左目にもっている刻印は……『勇者の刻印』。我らがもっていたものよ」


「君は無意識に使ってるからね。だって不思議に思わなかったかい?なんで記憶に目覚めたその日からシンの無茶苦茶な稽古についてこれたのか。なぜ、急激に魔力が上がったのか」


後に続いたギルバートの言葉にアレスは過去を振り返る。思い当たる事はたくさんある。確かにあの記憶が入り込んだその日から……身体がまるで別人のようになった。


「それって……ギルの作ったあの薬のせいじゃないの?」


「あの薬は元々即効性はないからね。最初のうちは刻印の力に頼っていたものさ。ま、君には教えなかったけどね」


「なぜ?」


「刻印の力は絶大よ。下手に意識してその力を使うと(ぬし)自身の破滅につながる」


そう続けたのはレオンである。


「それぞれの刻印は違った能力を持っている。『勇者の刻印』は主に『勇者としての力』……すなわち優れた身体能力と魔力を授けてくれる」


「君の周りに『勇者』とか『英雄』と呼ばれるような人が集まるのもその影響かもしれないね。まぁ正直、僕も『刻印』については全てを理解している訳ではないんだ」


そう言うとギルバートは笑みを見せた。


「分かっていることは……どうやら現時点で確認されている『刻印』は8つあるということ……そして、その中でも強力な力を持っているのは……2つ。そのうちの1つが……君の奥さんがもっている『王者の刻印』だよ」


「『王者の刻印』?」


「その力は不明。でも、様子を見る限りあらゆる者を徳をもって服従させる事ができる力……そして影響下にある者達に力を与える事だと思う。確証はないけどね」


「そもそも『王者の刻印』持ちは歴史上確認されてない……それ故に確実には分からぬのだ」


ギルバートに続き、言葉を続けたレオンはしばらく目を閉じると……言葉を続けた。


「『王者の刻印』の対になるものは『覇者の刻印』だ。これもまた、覇道を進む者に力を与える。その能力は己が覇道のためにあらゆる者を従える『絶対服従』と己が家臣達に力を分け与える力……『覇王勅令』よ」


そう言ってレオンはそっと目を伏せた。


「『絶対服従』と『覇王勅令』?」


「あぁ……兄がそう言っていたわ」


「兄?」


「『覇者の刻印』はかつて余の兄、ライエルが持っていたものなのだ」


「え?レオンて兄さんいたんだっけ?」


「その記憶は貴様に授けていないからな」


そう言うとレオンは珍しく笑みを見せた。


「ライエル・アルカディア……彼こそまさに『覇王』と呼ばれるに相応しい男よ。誰もが畏怖し、そして敬っておったわ。本来ならば大陸は彼によって統一されていたであろう……」


「じゃあ……なぜ?」


「余が殺した」


「……」


レオンの言葉にアレスは息を飲む。初めて聞く話だ。大アルカディア帝国初代皇帝レオンに兄がおり、そしてレオンはその男を殺害しているとは。


「兄は統一の途中で家臣達を粛清し始めた。理由はなぜかは分からぬ。だが……そのために国そものものがおかしくなったのだ。それ故に余は彼らを守るため兄を殺した。そして歴史上からも消すように資料を残さなかった……残虐な王として兄を歴史上に残したくないからな」


「……そのライエルが持っていたのが……?」


「そう、それが『覇者の刻印』よ。特に『絶対服従』の力はタチが悪い」


「『絶対服従』?」


「その瞳を見たものを服従させるという力よ。余のように同じ刻印持ちか、もしくは真に強き精神力を持つものは耐えられるが……それ以外は皆確実にその者に従うのだ」


アレスはレオンの話に言葉を失った。絶対的な力を持つもの……それが刻印である。味方なら心強いが敵になったらなんと恐ろしいことか。


「そう出会う事はないだろうけど。刻印持ちと出会ったなら、油断をしてはならぬ。もしかしたら、汝の最大の敵となるかもしれない。心するように」


「出会う可能性はあるからね。ちなみに歴史上でも確定しているのは史上最凶最悪の暴君として名高いオルドロン王国のギルバルス・オルドロン王の『暴者の刻印』とそれを葬ったアルカディア帝国でも屈指の名君、賢帝レミクラー・アルカディアの『賢者の刻印』、そして我々の『勇者の刻印』とレオンの兄ライエルの『覇者の刻印』ぐらいだけど……この時代は何が起きても正直不思議ではないよ……」


そう言いながら、シンやギルバートの姿が薄くなっていく。そして横にいるレオンも。


「さぁ、どうやら朝が近づいたようだ。今日はここら辺でお終い。また聞きたければ別日に聞いてくれ」


ギルバートの最期の言葉が終わるか終わらないかの頃に……世界が暗転するのであった。




まだ薄暗い時間に。アレスは目を覚ました。横には昨夜夢の中で話題となったコーネリアが静かに寝息を立てていた。


「刻印……ね。厄介な存在だ」


そう呟きながらアレスはコーネリアの髪を優しく撫でる。


己も持ち合わせている『刻印』。恐らくこの強大な力はお互いを引き合わせ、そして争わせていくに違いない。


幸いなことに、刻印持ちの1人が妻コーネリアである事はわかった。だが、それ以外の刻印持ちとは争う事になるかもしれない。


「君もまた、様々な宿命(さだめ)をもって生まれたのかもしれないね……でも、大丈夫。必ず側にいるから……」


アレスはそう呟き、そしてコーネリアの額に唇をつけるのであった。


間章を読んでいただきありがとうございました。


さて、新章……といきたいところですが、とうとう仕事と私事での過労が祟り、病院送りになりましたー!!……ってテンション高くやってる場合じゃないんですけどねぇ。


という事で、しばらくの間は頭も使わずのんびりしたいと思うので、新章はもうしばらくお待ち下さい。



で、お待たせするのもなんなんで、1月からはわずかながらストックしていた、アレスの学生時代の皇立学院の話を載せたいと思います。

いやはや、こんな物語ですが楽しみにしてくださる方が多数いらっしゃるので……せめてもの償いです。


キリがいい感じ、1月1日よりいつもの6時更新です。


https://book1.adouzi.eu.org/n5910fe/1/


になります。

よろしくお願いします。


とは言っても、視点がアレスではなく違う人物ですけどね。


一応ストックが尽きるまではガンガン更新していきますが……後はどうなることやら……すみません。更新途絶えたら勘弁してください。


という事で、どうぞよろしくお願いします。


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