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北伐 その12 〜終わりの始まり〜

「さて……そろそろ行こうと思う」


「あぁ……本当に世話になった」


戦後の処理を終え、バトゥとアレスはそれぞれ別の道を行こうとしていた。


アレスは領内に戻り、今度は東大陸の情勢に気を配らなければならず、バトゥは草原の統一という壮大な目標のために軍を進める必要があるのだ。


草原の真っ只中、お互い背後には自軍が控えている。皆、己が主達に視線を向け、整然と並んでいた。


大陸の人間と草原の人間。以前なら反目しあい殺しあっていた者達が今は違う。

この地に滞在した数日。両軍はお互い交流しあい、酒を飲み交わし、共に笑顔で過ごしていた。

大陸の人間と草原の人間の間には今、壁というものがなくなっていたのだった。


「もし兄貴が我らの力を必要とするなら、我らはいつでも馳せ参じるつもりだ。遠慮なく言ってくれ」


「それは心強い言葉だね」


バトゥの言葉を聞き、アレスは微笑んだ。


「でも、君も今は大切な時だ。自分の事に全力をかけてくれ。もし……お互いその志が叶ったら、再びこの地にて酒杯を交わそう」


「あぁ……勿論そうなると思っているがな」


バトゥもまたニヤリと笑う。そして右手を差し出した。

アレスもまたその差し出した右手を力強く握り返す。


「風の部族……いや、草原の民は受けた恩は忘れない」


「これからきっと大変だと思うけど……君なら必ずその志を達成できると信じているよ」


こうしてアレスとバトゥはそれぞれの道に分かれて軍を進めていった。


アレスは領内に戻るため、南西へ。バトゥは軍を進めるため東に向かって。





とある歴史書にこう記されている。


この年、二つの太陽が昇り、そして大陸を広く照らすことになる……その始めの年であったと。


アレスとバトゥ。後の世に『英雄皇』と『風の王』と讃えられる英雄。

この2人の出会いはアルカディア大陸……そして草原などを含む大大陸において歴史の転換期となるのである。




「やれやれ……期待外れもいいところだったな。もう少し踊ってくれるかと思っていたのだが……」


両軍が去った後、戦場となったガヤグの丘を彷徨う、大小二つの影があった。

共に黒いローブを纏っており、体から禍々しい瘴気を漂わせている。


「ふん、無駄に『魔王の遺物』を使っただけだったな」


大きな方の影がそう毒づく。明らかに彼は小さい方の男を非難していた。


しかし小さい方の男はそれを聞き流して小さく笑いながら答える。


「そう零すな。まだ『あれ』はたくさん残っている。それに……」


そう言うと小さい影の方は手から黒い水晶玉を取り出した。


「我らが『混沌(こんとん)(ぬし)』も、復活が近い……その準備を整えなければならぬ」


その言葉を言い終えた途端、手に持っていた水晶玉が怪しく光りだした。それと同時に目の前に尋常じゃないまでの瘴気が集まる。その中心には、先日跡形もなく崩れ去った魔王の遺物によって変わり果てたアムガの姿があった。


「我が主のための『兵隊』は多いにこした事はないからのぅ」


「ふん……怨みの力を使い、再び死者を復活させる死霊術(ネクロマンシー)か。相変わらず貴様の魔術は気持ち悪いものだ、ボグダーン」


大きい影はそう言って侮蔑の態度を見せる。それに対して、小さい影の男……ボグダーンはそれを鼻で笑いながら答えた。


「なに、主のためなら儂はなんでも利用するさ。例えそれが神々が決めた摂理に反していようともな」


ボグダーンはそう言うと南西の方を眺めた。


「しかし憎きはやはり『軍神』か。奴が完全に力を得る前に、なんとかしたいものだな」


「もう『草原の猿』の方は良いのか?」


「あっちは後でどうとでもなる。まずは……一番の障害となるであろう、彼奴を『悠久の回廊』に送り返すのが先だろうさ」


ボグダーンはそう言うと復活したアムガに一言二言呟く。それと同時にアムガはゆっくりと動き始め、二人の背後に控えた。


その様子など意に介さず、大きい影が再び呟く。


「奴の周りには着々と『宿星』が集まっている……また『刻印持ち』や『神の落とし子』までもが奴の元にいるらしい。早く手を打たねば手遅れとなるぞ?」


大きい影はそう言うとボグダーンの肩を掴んだ。


「場合によっては俺が自ら行って……」


「いらぬわ」


そう言うとボグダーンは肩に乗せてあった手を振り払う。


「だから貴様は頭がないと皆から笑われるのだ。先ほども言ったではないか。奴の周りにはすでに『宿星』がいる。行っても下手をすれば返り討ちよ。それよりも奴の勢力を削りながら、更なる混沌を生み出していったほうが主のためにも都合が良いわ」


そう言ってニヤリと笑うボグダーン。


「東大陸には、どうやら面白そうな『依り代』がいそうだ。其奴らの元にも我らが同胞が入り込んでいる。また、帝国内部に潜り込んだガーラに連絡を取って大陸中枢でも混沌を生み出してやろう」


そして、静かに消え去る3つの影。


誰も知らないところで、様々な思惑が混ざり合いながら、時代は進んでいく。

アルカディア大陸に着々と混乱の時代が近づいてくるのであった。

これにて第4章は終了です。いかがでしたでしょうか……?少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


さてさて、たくさんの感想等、本当にありがとうございます。自分の文章力と構成力の無さには日々泣けてきますが、それでも本当に多くの方がこの作品を応援してくださり……それが今のモチベーションになっています。


この作品はこのような読者の方に支えられている、と今回も強く感じた次第です。楽しみにしてくださる方々のためにも、エタる事なく、執筆していこうと思います。


あ、あとお気づきでしょうが、ラスボスっぽい人の名前を変えました。結構、某戦記物のラスボスの名前と一緒!?というご指摘がありましたので。なんとなく書いていたら……あ、確かに同じだ……と反省したわけです。すみません。




さて……今後の展望だけお伝えします。


4章の終わりと、非常に区切りがいいので、ここらでまた2ヶ月程度お休みさせてください。

予定では12月に5章を再開したいと思います。5章では……東大陸の騒乱にアレスが本格的に関わっていきます。


また来年以降の話ですが……現在2作品をストックしています。

1つはアレスに深く関わる人物が主人公のもの。そしてもう1つはアレスの皇立学院時代の話。


どっちから投稿しようか迷っているので……どこかで皆様のご意見をお聞かせください。



さて、今回も沢山の読者に支えられてここまでこれました。コメント等沢山いただいておりますが、返信できていない事、申し訳ありません。でも全部見てますし、非常に支えになってます。本当にありがとうございます。

第5章でもどうぞよろしくお願いします!!

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