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北伐 その5 〜義兄弟〜

アレスの告白を聞いたシュウは、すぐ様後ろに跳びのき、アレスに対し平服をした。


「申し訳ありませんでした!!4代目とは知らず……」


先ほどとのあまりの変容にアレスは苦笑し、そして口を開いた。


「いや、記憶があるだけだし、叢雲の血を引いているわけではない……そんなに畏まらなくてもいいんじゃないかな?」


「いえ、そうはいきません。叢雲の『血』は大切なれど、ご本人ならそんな事は些細なこと。特に我が不知火の一族にとって4代目は別格なのですから……」


そう言ってさらにシュウは(こうべ)をさげる。

アレスはそれを見て困ったように話題を変えた。


「君は……ライハの子孫だよね?」


「はっ。我が不知火家の祖は不知火雷覇。4代目の一番弟子にて、一の家臣を自認していた男です」


そう言うと、ふと思い出したようにシュウは顔を上げた。


「4代目……恐れ多い事ですが一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「なんだい?」


「我が不知火家の言い伝えで、4代目が大陸に向かう際、我が祖雷覇は供をする予定だったと聞き及んでおります。何故にお一人で向かわれたのでしょう?」


その言葉を聞いた瞬間、アレスはバツが悪そうな顔をした。


「なんでそんな事知ってんの?」


「雷覇はその後1年間、供ができなかったことを嘆き山に篭ったと伝えられております。そして、その後何もかも思いを振り切って5代目に仕えたそうです……ただ……その後、性格が少し荒いものになったという言い伝えがありますが……」


シュウはそう言うとアレスの方を見た。アレスはさらに顔をしかめる。


「雷覇は死の間際、その事を不知火一族に伝えました。もし一族で大陸に向かう者あれば、その子孫を訪ねその意を確認せよ、と。子孫ではありませんが、ご本人なら間違いありますまい」


必死のシュウとは対照的にどんどん顔が歪んでいくアレス。その顔を見てシオンが口を開いた。


「主……もしかしてロクでもない理由ですかね?」


見ればシグルドも心配そうにこちらを見ている。


大きく溜息をした後、アレスは意を決意したように口を開いた。


「……忘れてたんだよね」


「は?」


「いや……シンてさ、結構周りが見えない事が多くてさ。大陸に行くって決めたらすぐに行動したくなっちゃったみたいなんだよね。だから、ライハと一緒に翌日行くって約束してるのを忘れててさ。その日のうちに荷物背負って出かけちゃったんだよね。んで……船の中で気付くんだけど後の祭りでさ……」


アレスはちらりとシュウの様子を見る。シュウは衝撃を受けたように固まっている。


「忘れられた……??まさか……そんな……我が祖はそんな理由で置いていかれて、そして一族の後悔として数百年も言い伝えられて……」


「あ、でもシンは一応それを後悔して……って聞いてる?おーい……」


その様子を見てシグルドとシオンは哀れそうに呟く。


「なんか……シラヌイ一族が可哀想に思えてきたな……」


「我々も主にいつかそういう仕打ちを受ける日がくるかもしれませんねぇ……」


落ち込むシュウ。そして慰めるアレス。そんな様子を見ながらそう呟く2人であった。




数日後の事。アレスはバトゥに呼ばれて風の部族の陣の中心にある天幕に呼ばれた。


「わざわざすまぬな、グランツの長」


「いや……気にしないでくれ」


バトゥは天幕の中心に胡座をかいて座っており、アレスもまた、そこに座るよう勧められた。


「こうしてゆっくり向かい合うのは初めてだな」


そう言ってバトゥは笑う。目の前には数日前に戦をしていた相手がいるというのに、堂々たる態度。アレスはその姿を見て微笑んだ。


「さて……返事を聞かせてもらおうか」


座ったと同時にアレスは口を開いた。と同時にお互いのの目が鋭くなる。バトゥの返答次第ではアレス自身も目の前の男を斬りふせる事を覚悟しなければならない。


バトゥはしばらく黙っていたのち、口を開いた。


「風の部族は恩を忘れぬ。されど……大陸人と手を結ぶ事は躊躇う」


北の蛮族……己が事を騎遊民と呼ぶ彼らは草原以南、アルカディア大陸に住まう者たちを『大陸人』と呼び嘲っている。もう何百年もだ。それ故に彼らの葛藤も理解できた。


恩は返さなければならない、それは風の部族の誇りにかけても守る必要がある。しかし大陸人とは騎遊民の誇りにかけて手を結びたくはないのだ。


「それ故に俺に一つ提案がある」


バトゥはそういうとアレスの目を見た。アレスもまた真剣に言葉を待っている。


「俺と義兄弟(きょうだい)になってくれ」




バトゥの申し出はこうだ。


風の部族として恩を果たさなければならない。だが、大陸の人間と手を結ぶ事は躊躇われる。それならば。


大陸の人間が己が部族ならば。


自分と義兄弟になる、という事は彼もまた風の部族の仲間入りをするという事。アレスが風の部族なら他の風の部族達も従うし、彼の家臣以下領民もまた風の部族と同等だ、ということになる。


バトゥの申し出にアレスは盛大に笑った。


「ははっ!!凄いね。これなら問題は一気に解決だ!!」


「そうすれば理窟上、皆を納得させる事はできるだろう。だが良いのか?大陸では我らの事を蛮族と蔑んでいる。それと義兄弟になるという事は……」


「言いたい奴には言わせておけばいい」


アレスははっきりとそう言い切った。


「種族だの蛮族だの……そんな事で差別をする奴らなんか気にしてないよ。それよりも……君の提案なら確実に何百年と続いたこのアルカディア大陸の人間と『騎遊民』との争いに終止符を打てるはずだ。そっちの方がよほど価値がある」


アレスの返答にバトゥはしばらく沈黙し……そして今度はバトゥが盛大に笑った。


「はははっ!俺の言ったとおりだろう?ムカッサ」


「はい……若の想像通りの御仁でした。これなら我らも反対をする理由はありません」


渋い顔をするムカッサの返事を聞き、満足そうに頷くバトゥ。そしてひとしきり笑った後、バトゥはアレスの方を向き直った。


「失礼した。いや、多くの者達がそんな提案にのる大陸人などいないと言っていたんだ。そんな事乗ってくる奴は変人か……それとも歴史上の英雄ぐらいだと」


「まぁ、そうだろうね。で、君も僕を変人だと思うかい?」


「いや……あんたは『英雄』だよ。しかも過去に類を見ない……ね」


そう言うとバトゥはアレスの手を取る。


「確認したところ、あんたの年は俺の一つ上だ。となると、あんたが義兄(あに)だな」


そう言って満足そうに笑った。


「あんたは間違いなく『王の王』になる器だと思ってるよ。だから義弟(おとうと)の俺は草原の王になる」


その言葉に周りにいたバートルやムカッサをはじめ、多くのバトゥの家臣たちが色めき立った。そう、この瞬間始めて彼が「草原の王」になる決意をしたのを聞いたからだ。


「アムガを倒して俺は『ラーン』の位に着く。そして俺は草原を制覇したい」


「分かった。なら義兄(あに)として僕は義弟(おとうと)を助けよう。共にアムガを倒そう」


「良いのか?」


「元々それも狙いに入っているだろう?」


アレスの言葉にバトゥは笑う。


「バレたか?」


「バレバレだ。だが……悪くない提案さ。君は草原を手に入れ、僕は北の安全を手に入れる」


「安全だけでないさ。兄貴は騎遊民の心を手に入れた」


そう言うとバトゥは言葉を続けた。


「兄貴の頼みがあれば俺たちはあんたの為に騎兵を動かすつもりだ。風の部族は恩は忘れない」


「ありがたい……ならとっととアムガを倒さないといけないな」


アレスの言葉にバトゥはニヤリと笑った。


「当然だ。俺たちが手を組んで勝てない敵はいないさ」


そう言うとバトゥは立ち上がり、それを見つめる家臣達の方に向かって大声をあげた。


「さぁ、見ての通りだ。今日は新たな義兄弟が生まれる日。皆で盛大に飲んで祝おうではないか!!」


「あー……僕はお酒飲めないから山羊のミルクでいいよ……」







その数時間後。次々と天幕に運ばれる食料や酒。そして笑顔の騎遊民達。アレスの指示で、砦に篭っている兵士たちも続々と合流し、風の部族の陣に合流する。


またトロイアの砦にいる商人や兵士の家族と言った、兵士でない者たち、さらには風の部族の女子供も加わり、宴は非常に盛大なものになった。


アルカディア大陸の人間と騎遊民、多くの人の視線は陣の中央部、アレスとバトゥの姿に注がれている。


アレスの衣服は風の部族の伝達的な衣装。バトゥは逆に大陸の貴族が着る衣装を纏っている。

これはアレスの提案だった。


「どうせならお互いの衣装を交換しよう。そうすればお互いの家臣たちに視覚的に訴えかける事ができるし」


そしてお互いの衣装を姿を見て……アレスとバトゥは大笑いをした。



山羊の乳に己が血を一滴垂らし、それを飲み干す風の部族古来の方法。その騎遊民式の義兄弟の契りが結ばれ、正式に2人は義兄弟となった。


式が終われば宴会である。長年戦ってきたアルカディア大陸の人間と騎遊民が肩を組んで歌を歌い、酒を酌み交わす。


そこに人種も育ちも何もない。2人の王の下、多くの笑顔があるだけだ。


この宴は夜が明けるまで続いたと言われる。そしてこの日のこの宴は……長年続いていた争いに終止符を打つものとなったのである。






『英雄皇』アレスと草原の王にして『風の王』と謳われし英雄バトゥ・ラーン。


この後もお互い助け合い、ともに繁栄の礎を築く事になる。


バトゥはその後勢力を東に伸ばし、ジャムカ・ラーンを超える広大な版図を持つ帝国を作り上げるのだが……


2人の絆は強固にして終生切れることはなかったと言われる。


後にアレスの娘の1人がバトゥの後継者に嫁ぎ、名実ともに親族になるのだが……それはまた別のお話。



ここ最近、メッセージにて何名かの方からアレスのハーレムメンバー多すぎない?とのご指摘をいただきました。


確かに多い、そう思ってます。


正直、それぞれに個性を与えるのも難しいし、困ることもあります。



今後も増え続ける予定です爆

設定変更はありません。


申し訳ない。


その辺の事については明日にでも、活動報告の方にまとめたいと思いますのでよろしくお願いします。



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