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北伐 その2 〜異国の戦士〜

「命が欲しくば道をあけよ!!」


怒涛の勢いでグランツ軍に突入する1人の戦士がいる。


この大陸ではあまり見ない鎧を身に纏い、これまたあまり見ない十文字槍という武器を振り回し次々と兵士達をなぎ倒していく。


その槍捌きは惚れ惚れとするほど美しく見事であり、最早芸術と呼んでもおかしくないほどだ。


「見事なまでに完成されている槍捌きだね」


「シグルドやダリウスとは違った……強さを感じますね」


シグルドの動きは速く、疾風のように戦場を蹂躙する。ダリウスは暴力的に力で殲滅していく。

対して目の前の男は。


「何十、何百、何千、何万、何億……修練を積んできて完成された動き。まるで達人の舞を見ているようだ」


速さでもない。強さでもない。そこにあるのは


美しさ。


「とは言え、感心してばかりもいられないな。油断しているとあっという間に数も減ってしまうしね……急がないと」


そう言ってアレスは異国の戦士の方へ向かっていく。


「総大将自らが前に出るというのは聞いたことがありませんが……まぁあの化け物は人海戦術で多くの兵を失うか、もしくは主でないと相手にできませんからなぁ」


そう言ってシオンはため息をつく。


「ということで……主、頼みましたよ」


シオンはそう呟き……さりとて己が主人が勝つことを確信しながら見送るのであった。




シュウは敵兵を蹴散らしながら前に進んでいく。彼の狙うは大将の首一つ。


「大将さえ討てば残りなど烏合の衆。相手にならぬ」


そう言って中央を見据えた時だった。


ゾクリ


彼の背中に冷たいものが走ったのは。


「やぁ。お見事お見事」


前を見ると1人の若き戦士が笑顔で近付いてくる。年の頃は盟友バトゥと大して変わらない。だがその気配はまるで


(歴戦の猛将の気配ではないか……!)


「さぁ、君の狙っている獲物は僕かな?」


「……其方がこの軍の総大将か?」


「んー、軍というよりこのグランツ全体の総大将かな?」


アレスの言葉にシュウは一瞬言葉を失う。それもそのはず。目の前の男は自分が現在対している相手の総大将であると宣言しているのだ。


「汝は……愚か者か?」


「唐突に……なぜだい?」


「総大将が討たれれば軍は崩壊する。それなのに前に来て、そして宣言をするからだ」


「……討たれるつもりがないとしたら?」


そう言うとアレスは己が魔力を高めていく。


「さて、異国の戦士。あなたの実力を見せてもらおう」


「ほう……面白い。我は八洲の豪族、叢雲家に使える不知火が嫡男、紫悠(シュウ)!!いざ、参る!!」


こうして、アレスとシュウの人知を超えた戦いが始まったのだった。




アレスは馬上からシュウの様子を伺う。


(恐ろしいまでに冷静だ……向こうの言葉で言うなら『明鏡止水の境地』というところか?)


レイナートを握る掌が汗ばんでくるのが分かる。目の前の男は間違いなく『強者』だ。


対してシュウも


(驚いた。この男……俺が今まで見てきた男の中で、一番強い男かもしれぬ)


と心の中で舌を巻く。己より小柄な相手が対峙すると巨人に見えるのだ。


(だが、それこそ望むところ。(われ)が大陸を旅してきた理由の一つは彼のような強者と出会う事なのだから)


お互いゆっくりと馬を進めて行く。少しずつ少しずつ距離が縮まる。そして槍が届く間合いに入った瞬間。


「はっ!!」


二つの影が動く。


先に動いたのはシュウであった。目にも留まらぬ速さで十文字槍を繰り出す。アレスはそれを冷静にいなし、その力を利用して体勢を崩そうとする。しかしシュウもさるもの、それをグッと耐え忍び、次の突きを繰り出してきた。アレスは今度はそれを冷静に受け止めながら薙ぎ払う。


槍を合わせる事20合ほど。少しずつ、二人の息が上がっていく。


アレスは再び間合いをずらし、後方に移動した。


「どこを攻めても隙がない……対した槍使いだ」


「それはこちらの台詞よ。大陸中歩いてきたがこれほどの男は見た事がない。久々に血が滾るわ」


そう言うと再びシュウは突っ込んできた。それを見ていたアレスは、


「はああああぁぁぁぁぁあああ」


魔力を高めると、恐ろしいまでの速さの攻撃を繰り出していく。


「むぅ!!」


それを冷静に受け流していくシュウ。しかし、強烈な攻めを受けた時だった。


「ぐっ!?」


シュウの体勢が崩れる。

馬の方がもたなくなったのである。よろけるシュウの騎馬。


その瞬間シュウは再び間合いを空け、静かに馬から降りた。馬を落ち着かせてから、ゆっくりとアレスの方に向き直る。

それを眺めてアレスもまた下乗した。


その様子を見てシュウはニコリと笑った。


「馬に合わせると本気が出せないもの。某に付き合ってくれて感謝する」


そう言うとシュウは静かに目を閉じて、気を整えた。そして目を見開いた次の瞬間


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」


シュウの全身が白銀に輝きはじめた。


「魔闘術……か」


アレスは冷静にそれを眺めて呟く。


「いや……彼の地の言い方……『武神の境地』と呼んだ方がいいかな?」


アレスはそう言うと静かに手に持っていた槍を構えた。


「敵方の大将よ。実に見事だった。我にここまで本気を出させたものは数少ない。そして……」


シュウはゆっくりと腰の佩刀を抜き放つ。明らかに業物と思える刀が魔闘術から伝わる魔力と闘気を帯び、白銀に強く輝きはじめる。


「この刀が抜き放たれて、生きて帰ったものは皆無。いざっ!!」


そう言うと、先ほどとは比べものにならない速さでシュウは襲いかかってきた。


アレスもまたそれに応じ、レイナートを地面に突き刺して首にかけてあるペンダントに手をかけ叫んだ。


「聖剣エクスカリバー!!」


すると青白い剣の刀身が現れ、シュウの刃を受け止めた。


しかしシュウもさるもの、二手三手と次々と技を繰り出していく。アレスは防戦一方になっていった。


「くそっ!!ラチがあかない」


アレスは間合いを外そうと後退するが、それに合わせてシュウは前に出て詰めてくる。


刃を合わせる事50合以上。お互い息が荒くなっていく。そして、多少シュウが乱れた瞬間、アレスは一気に後方に飛び去り間合いを取った。


アレスを見れば、受けきれなかった斬撃から受けた切り傷があちらこちらに見られる。


「見事……なら今度はこちらからだっ!!」


そういうと、アレスもまたシュウと同じく、白銀に輝き始めた。


「まさか……貴殿も『武神の境地』を使えるのか!?」


「僕は『魔闘術』と呼んでるけどね。さぁ、始めようか」


再び二人が激突する。剣と刀がぶつかり合い、その衝撃で地面がえぐれていく。

先ほどまでは圧倒的にシュウの方が押していたが……今はほぼ互角。どちらも一進一退の攻防が続いていく。


気付けば、敵味方両軍共、争うことをやめてこの二人の戦いを見守っていた。

徐々に荒くなる息遣いと、剣戟の音のみが戦場にこだましている。


剣を合わせること7、80合。二人は後方に飛び、再び距離をとった。


二人とも肩で息をしており、疲労は限界を迎えているようだ。


「ここまでの男がいるとは正直思わなかった。この大陸に出てきて正解だった」


シュウはそういうと満足そうに笑った。


「こっちもびっくりだよ。シグルドやダリウスに匹敵する武力……そんな人間がいるなんてね」


アレスもそれにつられて笑う。


「だが、ここで全てを終わりにしようと思う。まだ、未完の技ではあるが……それでもお前を倒すには十分すぎる技だ」


そういうとシュウは剣を鞘に収めて、構えをとった。静寂があたりを包む。


アレスはその様子を訝しげに、そして少し面白そうに眺めていた。


圧倒的な魔力と闘気がシュウの刀に集まっているのがわかる。


「叢雲流奥義 『龍の咆哮』」


その声とともにシュウは目に見えないほどの速さで刀を抜き放つ。斬撃が姿を変え、龍となしアレスに襲いかかった。


「なっ!!」


アレスはそれを受け止めるが……はるか後方に飛ばされる。


「主っ!!」


その戦いを見守っていたシオンも思わず叫んだ。


アレスはそのまま地面に崩れ落ちる。


その場に立っているのはシュウだけだが……彼もまた今にも倒れそうな様相だ。


「叢雲流奥義……これほどとは……己が力を全て削り取られたわ……」


アレスが倒れたのを見て、グランツ軍は静まり返る。そして蛮族の軍は大いに盛り上がった。


バトゥは手を叩き、シュウを賞賛する。


「見事だっ!!シュウ。全軍に告ぐ!!敵大将は倒れた。今より全軍で突撃を……」


「誰が倒れたって?」


シュウの前方より声が響く。バトゥがシオンが、その場にいる兵たちが。そして何よりシュウが驚いてそちらの方を見た。


そこには笑みをたたえながら、ゆっくりと立ち上がるアレスの姿があった。


グランツ軍から凄まじいまでの歓声が上がった。


「馬鹿な……なぜあれを受けて立つ事ができるのだ……」


シュウは驚愕の表情を見せ、そう言葉を紡ぎ出すのが精一杯だった。


「完全に扱いきれてないからさ。己が龍をね」


アレスはそう笑うと小さく笑った。


「まさかあれをここで見るとは思わなかったな。『龍の咆哮』は己が生命に宿っている力を龍に変え、それを相手にぶつける技だ。でもね……龍になった途端、それは意志を持つのさ。それを御し得ない限り……技としては成立できないよ」


そしてアレスはエクスカリバーの刀身をしまい、左手の掌に武天七剣を合わせた。


「さて……じゃあ本当の『龍の咆哮』を見せてあげるよ」


「……其方、何を言っている??」


訝しがるシュウを他所にアレスは静かに己が精神を武天七剣に集中させた。


「其は古の名刀。数多の戦場を駆け巡り、多くの命を屠り血を啜った妖の刃」


そういうとアレスは一気に右手を引き抜いた。


「妖刀ムラサメ!!」


アレスの右手には紫色の刀身を持ち、禍々しいまでの気配を放つ刀が手に握られているのであった。






猛暑の中、皆さまお疲れ様です。


なんとか夏休みというものにたどり着き、のんびりと更新させていただいております……が……


夏の暑さからなのか、ちょっと内容がマンネリしてきたからなのか……モチベーションが下がっており……読んでくださる方も多数おり、また楽しみにしてくださってる方も数多くいるので、なんとか奮い立たなければ……


頑張ります。


※少しずつ感想を返そうと思っております。また、誤字脱字もちょっとずつ訂正する予定です。

教えてくださった方々、本当にありがとうございます。

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