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死神の鎌(デスサイズ)


「魔獣が襲ってくる?」


アレスは報告書をいったん置き、ジョルジュの方を見た。

その場にいる全員がジョルジュに視線を向ける。


「はい。東部、西部の魔獣、そして魔人達もこの一ヶ月でほぼ支配下に入りました……が、今回の魔獣は中央部のようでして」


「おかしいな。リリスの力で魔境の大地の中央部の魔物たちは襲ってこないはずなんだけど…」


そう首を捻って、近くにいるリリスを見る。


「そんなはずは……あ、もしや?」


リリスは少しだけ眉間にしわを寄せ考えた後、突然大きな声をあげた。


「もしかして、大きな黒い馬の魔獣で、体に大きな傷痕があるのではなくて?」


「報告書には確かにそのように記載されております。何か心当たりがありそうですな?」


ジョルジュの言葉にリリスは頷く。


「その魔獣の名はデスサイズ。白い傷痕が『死神の鎌』に見えるために、魔族達からそう呼ばれております」


そう言うとリリスはアレスの方を向き、言葉を続ける。


「デスサイズは馬の魔獣。しかしその魔力は妖魔貴族にも匹敵するかもしれません……元々、この魔境の大地の魔獣ではなく、他から移住してきたようです。群れることを好まず、1匹でいると聞きますが……」


「その様子は何か訳ありかな?」


「えぇ。デスサイズは気性が荒いと聞きます。時折、魔獣を襲い、その肉を喰らうと。また、その力は絶大で龍種も恐れることはないとも。彼の名前の由来になったあの傷は……どうやら龍種と争って傷つけられた痕のようですし」


「龍種と争う?普通ではありえないけど…それでどうなったの?」


アレスは興味をそそられたように質問する。


「デスサイズの圧勝だったとか…その後、その龍種を喰らい、魔力を得たとも言われております」


そう言うとリリスはその場にいる全員を見ながら言った。


「デスサイズは、この魔境の大地の中央部において唯一私の支配下にならなかった魔獣です。また、私の配下の魔族も何人かが討伐に向かいましたが、いずれも返り討ちにあっています。早めの対処をお勧めしますが……」


ジョルジュも後に続く。


「私もリリス殿に賛成です。すでに魔境の大地に試験的に放した家畜が襲われていると聞きます。早々に討伐をすべきです」


その言葉を聞き、アレスはおもむろに立ち上がった。


「よし、すぐさま討伐に向けて兵を出そう。今回は中々の強敵なので、当然僕が……」


「却下です」


アレスの言葉をジョルジュは冷たく切り捨てる。


「まだ、話途中なのに!?」


「アレス様。まだ、決済が終わってない書類があれだけあるのにですか?」


皆が向ける視線の先には山と積まれた書類が……


「そうやって逃げようとしても無駄です。まずはあれを終えましょう」


「………鬼……」


がっくりと崩れ落ちるアレス。


「という事で、シグルド殿とダリウス殿のどちらかにやってもらいましょう」


「俺に行かせろ」


今まで黙って聞いていたダリウスは突然声を上げた。


「最近、体が鈍ってしょうがなかったんだ。ちょうど良い運動になるだろう。何名か供のものがいればそれで良い」


それに対しシグルドが顔を顰めて言い返す。


「まて、ダリウス。まだ俺が行かないとは言ってない……」


「シグルドは無理だろ?」


ダリウスは少し含みのある笑いをしながらシグルドを見た。


「竜騎士団や第二軍の訓練、はては魔族達の訓練とやる事がたくさんあるだろ??その点俺は何もない」


「お前も三軍の訓練があるだろ!!」


「三軍の訓練はすでに終わっている。今は各自に任せているさ。まぁ、俺の訓練なぞは厳しすぎて、皆、根を上げるからな……ほどほどがいいのさ」


そう言って笑うとダリウスは騎士の礼をもってアレスに言った。


「主よ、このダリウス・グランツが魔獣を討伐しよう」


こうしてやや強引にダリウスが討伐に行くことで決定したのであった。




「旦那、旦那ぁ!!速すぎですよ!!」


ダリウスの後を必死の形相でディルクが追いかける。


「ダリウス、ハヤスギ。巨人ノオレモ、オイツクノヤット……」


ディルクの少し前を走っているのは巨人族のギュミルだ。野営の道具など大きな荷物を抱えながら、木を薙ぎ倒して必死に後を追っている。しかし彼もまた息があがっており、ついていくのがやっとのようだ。


「ったく、なんで俺がこんな事を……」


ディルクは思わず一人、嘆息する。


昨日の出来事。

突然営舎にダリウスが飛び込んでくるなり


「おい、魔境の大地に行くから用意しろ!!」


と言われ、そして今自分は走っている。


「せめて、理由を教えて貰いたいものだ……」

ディルクがそう呟いた時、


「あれが、その理由だ」


ダリウスは突如止まり前方を指差した。


突然止まったことにギュミルは盛大に転び、ディルクもまたそれに巻き込まれてしまった。


「いてぇぇぇ……って旦那聞こえてたんすね…」


ディルクはそう言って押さえながら前方を見ると……そこには背中に大きな傷痕をつけた大きな馬が立っていたのだった。




「ほぅ、此奴は驚いた。奴から中々のプレッシャーを感じる」


そう言うとダリウスはニヤリと笑う。


対するデスサイズはダリウスから視線を離さない。そして鼻息を荒くしながら身体中から魔力を溢れさせる。


「アノウマガデスサイズ。キケン、オレ、ハナレル」


ギュミルはそう言うと大慌てで踵を返して後ろにさがった。


「なら、俺も」


ディルクも後に続こうとするが


「ディルク!!ギュミルの荷物から例の箱を持ってこい!」


そう言われ、げんなりした顔をする。

対するダリウスは笑みを絶やさずデスサイズの方に近づいていった。


「いや、旦那。危ねぇって。いくらなんでも……って、何をするつもり……」


心配するディルクをよそに、ダリウスはどんどん進み……そしてデスサイズの目の前に立った。

デスサイズもまた、微動だにせず、その様子を眺めている。しかし、体中から流れる魔力は一層強まり、ディルクでもその赤く輝く魔力は視界で捉える事ができた。


ダリウスはゆっくり手を上げ、頬のあたりまで到達する時に……


「殴ったぁぁぁぁぁあああ!??」


拳をデスサイズの馬面に叩き込んだ。


よろけるデスサイズ。しかし、態勢を立て直すと盛大に嘶き、前足でダリウスを蹴り殺そうとする。ダリウスはそれを受け止め、


「おおおおおぉぉぉぉぉお!」


気合いとともに投げ飛ばした。


「怪物同士のケンカだな……」


その争いを見て、あきれながら一人呟くディルク。


荷物を地面に降ろし、まだまだ終わりそうもない争いを眺めながら、ディルクは溜息をつくのだった。




どれくらい争ったのだろう。


あたりの地面は抉られ、木々は倒れている。その中央に一人に馬一匹。


先ほどより続く人馬の争い。だが、一人と一匹の争いはとうとう終わりを迎えようとしていた。


「よう、お前の力はだいたい分かった。たいしたものだよ、馬のくせに」


ダリウスの言葉が分かったのか、デスサイズもそれに合わせて嘶く。


「お前も俺の力が分かっただろう?どうだ?一緒に来ないか?今より刺激的だと思うが?」


そう言うとダリウスはゆっくりとした足取りでデスサイズに近づく。そして何事もなかったようにその背中に跨った。デスサイズもまた、嫌がる様子もなく、ダリウスを乗せたまま、ゆっくりと走り出す。


「ははっ!凄いな、お前は!!お前のような馬は初めてだ!」


そう言うとダリウスはディルクの方に顔を向け、大きな声を上げた。


「おい、ディルク!その荷物から鞍を持ってこい!」


「このデカい荷物、鞍だったんですか!?」


そしてダリウスはその鞍をデスサイズに乗せると再び跨り、走り始めた。


「速い速い!まるで風のようだ!」


こうしてダリウスは生涯の愛馬と出会う事になったのであった。




後に動力車が開発されても、英雄を語る上でその愛馬は欠かす事は出来ない。


アレスの愛馬、『麒麟』セインしかり。

シグルドの愛龍 『古代龍』ゼファー、愛馬である『炎馬』ブラドしかり。


そしてダリウスの愛馬、『黒き馬王』デスサイズしかりである。


ダリウスの凶悪なまでの戦闘力に加え、デスサイズのスピードとパワーはたった一騎で戦況を覆すほどであったと言われる。


しかしそんな魔獣ではあったが……ダリウスの愛馬になった後は、普段はおとなしくしており、よく近所の子どもたちをかまっている姿が見られたとか。





間違えて二話投稿してしまった……

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