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第96話 新たな旅

 ブックマーク&ポイントありがとうございます。

 鈴の音のような済んだ音が迷宮内に響き渡ると、俺の手に握られていた刀は半ばほどで折れてしまい宙を舞う。


「チッ!」


 武器を失った俺を見て、チャンスと踏んだのか、ドラグ・オークは巨大な鉈のような剣を振り上げ突撃をしかけてきた。


「させないよ!」


 そんな俺とドラグ・オークの間に、ティアナが真銀のカイトシールドを前面に押し出し割って入ると、凄まじい激突音を響かせ、ドラグ・オークの一撃を完璧に防ぎ切る。


「ガァアアァァ」


 そして一瞬動きを止めたドラグ・オークに、虎ほどの大きさになったルルが肩口目掛け食らいつき、一瞬の交錯ののち、ドラグ・オークの右腕を食いちぎていった。


 ――ブギャアァァァァ


 耳を覆いたくなれような悲鳴をあげ、ドラグ・オークは、腕を失い血が噴き出す肩口の傷を押さえ、脱力するようにたたらを踏み込む。そしてそこを狙いすましたかのように、一本の矢が飛来しドラグ・オークの眉間を撃ち抜いた。

 それはエヴァが放った真銀の矢の一撃。魔力を込めて放たれた真銀の矢は、硬いドラグ・オークの皮と頭蓋骨を簡単に貫き脳を破壊する。

 ゆっくりと倒れていくドラグ・オークを一瞥し、俺はウイたちが戦うもう一体のドラグ・オークに視線を移した。




「『ディバイン・フレイム』」


 力強いニーナの言葉とともに、蒼い炎がドラグ・オークの上半身を一瞬で包み込む。


 ――ブギャアァァ


 悲鳴を上げ、苦痛に歪んだ顔を掻き毟るようにもがき苦しむドラグ・オーク。そこに追撃を加えるべく容赦なく飛び込むウイ。


「これで終わりです!」


 そう言って振り抜かれたウイの一撃は、ドラグ・オークの首に一条の筋を刻む。

 そしてわずかに間を置いてゴトリと鈍い音を鳴らし、ドラグ・オークの首から上は落下すると、永遠に頭を失ったそれは、噴水のように血飛沫を噴き上げ、崩れ落ちるように倒れた。


 いやぁ、それにしてもみんな強くなったよな。

 あの苦戦していたドラグ・オークにも、今では圧勝って感じだ。というか今回は俺、ほぼ何もしてなかったしな。


 『黒衣の鬼』の件からすでに一ヶ月が過ぎていた。

 俺たちは魔人に対抗できるよう強くなるため、この一ヶ月毎日のように『龍神迷宮』に潜っている。おかげ十層まで攻略に成功し、以前あれだけ苦戦したドラグ・オークも、今では俺がいなくても問題ないほどに、みんなの実力もついてきていた。一応順調に成長していると、いっていいんじゃないだろうか。

 俺はそんなことを考えながら、みんなの様子を眺めつつ満足気に頷いた。

 おっと、もうすぐ夕食の時間か。……そろそろ帰るかな。


「さあ、今日はもう終わろう」


 俺はみんな声をかけて、今日の成果に満足しつつ、全員を引き連れ自宅に転移した。



◇◇◇◇◇◇◇



「はあ、またダメだったな……」


 夕食をとったあと、リビングのソファに座った俺は、半ばから折れた刀を見てため息をついた。

 この刀は『黒衣の鬼』のガイたちから回収した刀ではなく、それを見よう見まねで俺が【匠創魔法】で創ったものだ。

 材質はウーツ鋼とミスリルの合金。最初はミスリルだけで創ったて見たが、思いの外軽すぎて、いまいちしっくりこない。次にウーツ鋼のみで試して見たが、こちらは強度が足りなく簡単にポキポキ折れて使いもにならなかった。

 そこで次は、今回のようにウーツ鋼とミスリルを混ぜた合金にしてみたが、少し強度が上がった程度やっぱりすぐ折れる。その後も合金の割合を変えてみたりしたが、結局今回のような結果となり満足いくものが創れなかった。

 最初その原因は、今まで使っていた剣と比べ、太さが三分の一にも満たないから、強度がどうしても落ちるのだろう思っていたのだが、ガイから回収した刀を使い戦ってみると、これがまったく折れない。それどころか今まで感じたことがない凄まじい切れ味を見せてくれた。

 なんでだろうと思い、材質を調べなおして見たのだがやっぱり普通に鉄だった。いや、正確には鋼というやつなんだが、それにしてもウーツ鋼より硬い材質とは正直どうしても思えない。

 鬼人族が作り出した武器か……どうやって作ってるんだろう? 一度見てみたいな……


「そうだ! 皇都、行こう!」

「わっ!? ご主人様? 急に大きな声出して、どうしたんですか?」

「本当です、急にどうしたんです?」


 おっと、急に思い立ったから思わず、口に出てしまったみたいだ。

 そんな俺に、ティアナとウイが心配そうに"どうしたの?"と聞いてきたのだ。そんな二人の後ろでは、ニーナとエヴァも驚いた表情でウイたちに同意するように頷いている。


「いや、ちょっとな……」


 ちなみに皇都とは、鬼人族の国、アマクニツ皇国の首都を指す。

 やはり刀を作るなら、一度刀作りの本場であるアマクニツ皇国の皇都、ヤマトに行くが一番だろうと思い立ったのだ。


「刀作りを見に行くために、そのアマクニツ皇国に行くのですか?」


 俺が説明するとウイが確認するように聞いてきた。


「そういうことだな」

「わたくしは賛成ですわ。世界で最も美しいとされる武器、刀の作られていく姿を見ることができるなんて、とても素敵だと思いますわ」


 ウイの質問に答えると、エヴァが間髪入れずに賛成の声をあげた。しかしなんだ、言ってることからしてやっぱりエヴァって武器マニアなんだな。


「しかし、あまりノヴァリスから離れると、ギルドから渡された通信用魔道具では、連絡があっても受信できなくなってしまうのではないでしょうか?」

 

 そんな中ニーナがおずおずと質問してきた。

 なかなかいい質問だ。

 通信用魔道具とはギルドマスターのマルディーニさんから、魔人が攻めてきた時の連絡用にと渡された魔道具だ。ただ通信用とは言っても受信のみで、ギルドが俺に連絡したいときに音がなるだけの代物だが……


「それなら一応考えてある。もし何かあった時用に、通信用魔道具はアドルフに預けておく。これでギルドから連絡があれば、アドルフから俺に念話を通して連絡してもらえればいい。それにどうせ皇都に行くにしても、夜は屋敷に帰ってきて寝る予定だし、やってることは、迷宮に潜ってる時と何も変わらない、まったく同じというわけだ」


 少々屁理屈っぽいが実際、ギルドからしたら結果は同じだろう。


「それなら問題なさそうですね」

「他に何か質問は無いか?」

「はい、は~い」

「なんだ、ティアナ?」

「ボクたちも、みんな連れてってもらえるんですか?」

「もちろんだ。パーティーメンバーは全員連れて行く。当然ルルとアルスもだ」


 アルスに関しては馬車を引いてもらわないといけないしな。

 ちなみに馬車は、この一ヶ月俺の手によりかなり改造されている。

 見た目こそ前とあまり変わっていないが、使ってある金具類はすべて、ウーツ鋼かミスリルに変え強化してある。その上【付与魔法】で耐久力強化と重量軽減がしてある為、丈夫なうえ、かなり軽い。具体的に言えば、同タイプの馬車と比べると五分の一程度の重さしかないのに、トロールに殴られても全く平気だ。

 さらにこの馬車には、色んな機能が付与してある。その代表的なものが【天駆飛翔】と【結界魔法】だ。

 まず【天駆飛翔】だが、俺がスキルで使う時と同様、不可視の足場を車輪の下に創り、少しだけ浮かせ揺れを無くす機能だ。やりようによっては空を飛ぶ事もできるが、地面から離れれば離れるほど魔力(MP)の消費が激しくなるので、現実的には地面から三センチほど浮かすのが限界だろう。

 続いて【結界魔法】だが、これは見たまんま馬車の周りに結界を張る機能だ。その結界は対物理、対魔法のものがそれぞれ三枚ずつ、計六枚張られることになる。乗る者の魔力次第で耐久度は変わるが、俺が乗ってさえいれば、氾濫の時に俺が使った『スーパーノヴァ』でも多少のダメージで済みそうな気がする。って、さすがにそれは無理か……とは言え、大概の魔法や物理攻撃は防げる自信がある。

 まあどちらの機能も、乗る者の魔力(MP)を常に吸い上げて動作するので、俺以外のものなら

すぐに魔力(MP)が枯渇して、ただの馬車になってしまうだろう。まあそれでも、軽くて丈夫な良い馬車には変わりないのだが。

 ちなみに、この一ヶ月鍛えた俺の魔力(MP)なら、消費するよりも回復する量の方が多いので特に問題はない。さすがに空を走らせるのは今の俺でも無理だが……と言うか、根本的にアルスも飛べない以上結局ダメだな。


「やったー、お出かけだよ。よかったね、ルル」


 俺の答えを聞いて、ティアナは嬉しそう

に、膝の上で丸くなっていたルルを抱っこして話しかけている。……が、ルルはすでにおネムのようで、見るからに迷惑そうにしている。っていうか、俺の召喚獣だけあって、"鬱陶しい"って感情が直に伝わってくるんだが……

 まあ本気で嫌がっているわけでもないようだし、そのままでいいだろう。

 最後に「他に無いか?」とみんなに問うたが、他に質問はないようだ。


「それじゃあ、明日の日の出とともに出発する。そのつもりで、みんな準備をしておいてくれ。特にティアナ、寝坊するなよ」

「う~、なんでボクだけ……」

「ティア、返事は?」

「は~い、ちゃんと起きます」


 そんなウイとティアナのやりとりと笑顔で眺めつつ、気分はすでに刀の本場、アマクニツ皇国皇都ヤマトへ旅立っていた。

 まだ見ぬ最高の刀を創るため……

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私のもうひとつの作品『僕の装備は最強だけど自由過ぎる』が

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挿絵(By みてみん)

是非手に取っていただけると嬉しく思います。

よろしくお願い致します。

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