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第93話 お礼参り(2)

大変遅くなり申し訳ありません。

宣伝ですが、私のもうひとつの作品

『僕の装備は最強だけど自由過ぎる』が

3月22日に発売予定です。

新エピソードも多く追加してありますので、是非手に取っていただけると嬉しく思います。

「ハァーー!!」


 裂帛の気合いと共に、ジルドに向けティアナが走っていく。

 ジルドはそれを迎え撃つべく剣を振り上げた。

 俺はそんな光景を視界の端に捉えながら刃引きされた剣を構える。

 その隣では、ウイが右手に細剣、左手に短剣を持ちながらも『黒衣の鬼』のザコなど関係ないとばかりに、ティアナの戦いの様子を窺っている。多分だが、俺と同じで、ティアナのことが気になっているのだろう。とはいっても今のティアナなら、"簡単に"とはいかないだろうがまず負けることは無いだろう。それでも気になって視線がいってしまうのは、俺もウイも少々過保護なのかもしれない。

 そんなことを考えていると、耳を覆いたくなるような金属同士がぶつかりあう嫌な大きな音と、それに続く激しい激突音と壁が崩れる音が周囲にに響き渡った。

 発生源はもちろんティアナたちだ。

 斬り上げられたティアナの大剣と、振り下ろされジルドの剣。二つの剣が重なり合った瞬間、ティアナの1.5倍はありそうな体格のジルドが吹き飛び、屋敷の壁に突っ込んでいったのだ。


「――へ?」


 あまりのことに思わず変な声を出してしまった。でもどうやら『黒衣の鬼』の連中は、俺以上に状況が飲み込めず呆けた状態になっている。

 それにしても、まさかこんな結果になろうとは。ちょっと予想外だったな。これはティアナの評価を見直した方がいいかもしれないぞ。

 ジルドとかいうあの男がミスリル級の実力者だとすると、今の結果を見る限り、ティアナの実力はオリハルコンランク冒険者の中でも上位にきていてもおかしくない。いや、そうなるとティアナだけじゃなくニーナやエヴァも、もしかしたらオリハルコン級の実力になっている可能性もあるのか……

 確かによくよく考えてみると、まかりなりにも、オリハルコンランク冒険者でも難しいと言われる、特級ランクの『龍神迷宮』で戦闘を経験して生きて帰ってきているのだから、それくらいの実力があると考えるべきだったのかも。……まあ今更か。

 というか、あのジルドとかいう男、実はミスリル級の実力者じゃなかった、てことは無いだろうな……


『間違いなくミスリルランク冒険者級の実力者です』


 やっぱりミスリル級の実力者か……。しかしそうなると、ティアナもずいぶん強くなったものだ……



 そんな殆どの者が動揺する中、全く動揺を見せなかったのがウイだ。

 ウイは『黒衣の鬼』の連中が棒立ちになったのを見るやいなや、一気に密集地帯に飛び込み、刃引きの剣とはいえ、容赦なく『黒衣の鬼』の連中をぶっ叩いていく。

 一瞬俺でも唖然とする手際の良さだ。おかげで、ただでさえ混乱していた『黒衣の鬼』の連中は完全に恐慌状態だ。しかもそれに呼応するようにティアナも混ざってまさに蹂躙状態だ。

 これって、俺、必要ないんじゃないだろうか……。正直二人ともすごいと思う……。あ、ウイは元々こんな感じだったような……

 しかし最近、強敵ばっか相手にしていたから、ティアナの実力をちょっと見誤っていたみたいだ。そうなると、これはやっぱりニーナとエヴァも評価を見直した方が良さそうだな。

 そんなことを考えていると、屋敷の奥から、混乱する部下を怒鳴りつけながら四人の男が現れた。

 先頭を肩で風を切って歩くのは、浅黒い肌にをした赤髪の男。そのひたいには、特徴的な二本の黒い角が生えている。そして後ろに続く三人の男たちにも、同じようにそのひたいから二本の角を生やしていた。

 ……初めて見る人種だな。


『鬼人族です。魔力が低くく、魔法の扱いは不得手ですが、代わりに、筋力や耐久力が高く、近接戦闘を得意とする種族です』


 鬼人族か……。噂にはよく聞いていたが初めて見た。確か、大陸でも北東部を中心に生活圏を広げている種族だったはずだ。実は、俺が子供の頃住んでいたラングスター王国のすぐ北に隣接していたのが鬼人族の国だったりする。とはいっても、鬼人族の国との間には、エルデス山脈という標高一万メートルを越える山脈が聳えており、国交どころか人の交流すら皆無だったんだが。


「おい!! おまえがレオンハルトだな!?」


 一番前にいた男がさらに一歩前に出ると、俺に向けて怒鳴るように問うてきた。

 しかしなんつうデカイ声をしてるんだ。耳が痛くなったじゃないか。あー、まだ耳鳴りがする。

 だがこの男、ただ声がデカイでけでなく、感じる気配も他の奴らよりも格段に大きい。おそらくこの赤髪の鬼人が、『黒衣の鬼』の首領"ガイ"だな。他の連中とは明らかに纏う気配が違うから、ステータスを確認するまでもなく分かる。


「そうだ。あんたがガイだな?」

「ああ、よく分かったな、小僧。しかし、これはいったいどういうつもりだ!?」


 ガイはそう言うと、周囲を一旦見回し再び俺を睨みつける。


「何も不思議なことはないだろう? そちらが先に仕掛けておいて、やり返されないなんて、まさか思って無いよな?」


 あんまりガラじゃないが、ここは冷静さをなくさせるためにも、目一杯挑発するような言い方を心がける。


「ほお、生意気なクソガキだな。どうやってその歳でオリハルコンにまでなったか知らんが、勘違いするなよ小僧。本物のオリハルコンだった俺が、強さというものを教えてやる」

「俺もその本物のオリハルコンランク冒険者なんだが……」

「へ、大方王都のオカマ野郎に、ケツでも差し出して得たランクだろう。オリハルコンも安くなったもんだよな」


 王都のオカマ野郎? って、もしかしてギルドマスターのハリーさんのことか? まあ確かに、元冒険者とは思えない柔らかい話し方をする人だけど、オカマ野郎なんて言って大丈夫なんだろうか? 元アダマンタイトランク冒険者なだけあって実力は桁違いだ。いくら元オリハルコンランク冒険者だからといって、怒らせたらタダじゃ済まないと思うのだが……

 まあいいや、この事は奴を捕まえた後に、義務としてきっちりギルドに報告をするとしよう。これは決して、俺にあらぬ下衆な疑いを掛けた復讐ではない……


「ゼン、バン、ダイ! 一人ずつ相手してやれ。手加減は要らねぇ、ぶっ殺してあの世で後悔させてやれ!」

「「「おうさ!!」」」


 ガイの指示で、後ろにいた三人の鬼人がすぐさま返事をすると、弾けたように動き出す。

 それにしても、さっきミスリル級の実力者であるジルドが、ティアナに一撃でやられたのを知らないのだろうか? ジルドとさして実力差のない連中を一対一で当ててきても、結果は見えていると思うんだが……

 あれ、そういえばこいつら、ジルドを瞬殺した(殺してはいない)後に屋敷から出てきたよな。もしかして、ジルドがティアナに一撃でやられたことを知らないのか。……まあいいか、むしろこっちにとって都合のいいことだしな。


「なんの冗談か知らんが、貴様みたいなガキがオリハルコンランク冒険者だと? ガイ様の言うように、あの男女野郎のお気に入りでもなったんだろうが……。本当の戦いというものを知らぬガキが、権力者を利用して実力の伴わぬ、分不相応なランクにつくとは度し難い。まあいい、このゼンが貴様に本物の強者の力というものを見せてやろう」


 そう長々と悦に入ったセリフを言いながら、俺の前に飛び出してきたのはゼンと呼ばれた青髪の鬼人。確かに見た目は、筋骨たくましく強そうにも見えるが、感じる気配は『龍神迷宮』で戦ったダーク・オークの足元にも及ばない。正直ステータスを見る必要もない程度だ。というか、最近はそもそも敵の実力を見極められる力を身につけるために、ステータスを見ないようにしているんだが。

 それはさておき、ウイとティアナに向かった奴らも確認する。

 ウイに向かったのはバンと呼ばれた黒髪細身の鬼人、そしてティアナと対峙するのは銀髪のダンと呼ばれた美男子風の鬼人。実力は俺と対峙しているゼンと同等程度、ジルドとかいう男よりは少し強いか……。まあ今のウイたちなら問題はないだろう。

 そんなウイたちが対峙する鬼人どもが下卑た笑いを受けべ、剣を構えながらウイたちに何か言っている。どうやら俺の悪口を言って挑発しているようだが、ウイたちの目を見ると本気で怒っているようで、かえって殺してしまわないか心配になってくる。まあそうなったらそうなったで仕方ない。犯罪者には本来人権なんてないんだしな。

 しかし奴らが持つ剣、見たことのない形だな。首領のガイも同じものを持っているようだが、鬼人族独自の剣なんだろうか?

 奴らが持っている剣は、剣身は細くわずか反った片刃の剣。刃には変わった模様が浮かび上がっており、なんとも独特な美しさを持っている。


『刀と呼ばれる、鬼人族を中心に大陸北東部で広く使われている武器です。ウインザー王国を中心に広く使われている直剣は、叩き潰して斬るという使い方をする武器なのに対し、刀は斬ることに重きを置いて造られた武器となります』


 なるほど、刀か……実に興味深い武器だな。

 ちなみに、【ロラ】から追加情報で、剣身――この場合は刀身と呼ぶらしいが、それに浮かび上がっている独特の模様は、刃紋と呼ばれているらしい。


「キィエェェー!!」


 そんなことを考えていると、裂帛の気合いと共に、ゼンが俺の脳天目掛け刀を振り下ろしてきた。

 俺はその一撃を剣で受け流す。

 受け流され、それたゼンの剣撃は勢いそのままに、俺のすぐ右に置かれてあった裸婦の石像を見事に斬って落としてした。

 さすが斬ることに重きを置いて造られた武器だけのことはあるな。石像の切り口がおそろしく美しい。

 今メインで使っている真銀疾風の大剣とは扱い方が随分違うようだが、一度使ってみたい。そうだ、どうせミスリルやウーツ綱など材料はそれなりにあるわけだし、一度創ってみるか。どうせ失敗してもまた素材に戻せばいいだけだしな。そういった点でも【匠創魔法】は使い勝手がいいよな。


「ハッ!!」


 攻撃を簡単に受け流されたことに驚きの表情を浮かべたゼンだったが、さすがに戦い慣れしているようで、すぐに体勢を立て直し攻撃を仕掛けてくる。

 だが俺からしたら、それだけでも充分過ぎる隙だ。

 ゼンが繰り出した一撃を深く踏み込みながら躱すと、剣を持たない左手でゼンの頭を鷲掴みにし、そのまま踏み固められた地面に叩きつけた。

 今の一撃でゼンは完全に沈黙し、大の字で意識を失っている。

 一応死なないように手加減をしたつもりだったが、我ながら相当痛そうな攻撃だ。

 しかし、たいそうな物言いをしていた割には、かなり呆気なかったな。

 ゼンを無力化した俺は、すぐさまウイとティアナの様子を確認する。

 ウイを見ると俺よりも早く倒していたようで、バンと呼ばれていた鬼人は怯えた表情のまま白目をむいて倒れている。何故あんな表情になったのか少々気になるが、まあ今はいいだろう。

 続いてティアナの方に視線を送ると、ちょうどティアナが、大剣の腹でダンと呼ばれていた鬼人の顔面を殴るとこだった。前歯が折れ、血と共に飛び散り、鼻血を噴き出し吹き飛ばされていく銀髪の美男子鬼人。そして美男子だった面影が無いほどの酷い顔で完全に沈黙した。……あれは酷い。……正直体験したくない。


 さてと、とにかくこれでミスリル級の実力者は全員倒したわけだ。

 残る強敵は、一番奥でふんぞり返っている赤髪の鬼人――ガイ、ただ一人。

 そう思いガイに視線を向けると、そこには腕を組み薄笑いを浮かべ、俺たちの戦いを観戦していたガイに向け、鋭い視線と共に剣を突きつけるウイ姿があった。

 ……あれっ、いつの間に!?

 


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