第92話 お礼参り
また大変遅くなりました。
理由を言いますと、この度私のもう一つの作品『僕の装備は最強だけど自由過ぎる』が
書籍化する事になり、そちらの改稿作業に時間を取られておりました。
まだ作業は半ばですので更新が遅くなると思いますが、エタってはいないのでこれからもよろしくお願いします。
また、書籍化が決まった『僕の装備は最強だけど自由過ぎる』も読んでいただけると嬉しいです。
ちなみに書籍化の際はかなりボリュームアップする予定です。
「「「おかえりなさいませ」」」
『黒衣の鬼』の支部を潰した後、構成員を全員捕縛連行し屋敷の庭まで転移すると、転移してくるのが分かっていたかのようにニーナ、エヴァ、アドルフの三人が並んで俺たちの事を出迎えてくれた。
いや、実際魔法技術に長けたこの三人なら、転移を事前に感知出来ていたのだろう。
周りを見ると20人を超す女性が、庭に置かれた大きなテーブルでアドルフがいれたであろう紅茶らしきものを飲んでいる。間違いなく囚われていた女性たちだろう。実際、縛られた状態とはいえ『黒衣の鬼』の構成員たちが転移で現れた瞬間、ちょっと見ただけで分かるほど動揺していたからな。それでも拘束してあると分かるとすぐに動揺は収まったようだが。それにしても多少動揺は見せたとは言え、全体的にはみんな思いの外落ち着いているように見える。
「レオンハルト様、ご報告させていただきます」
そう言って来たのは、囚われた女性の救出を頼んでおいたニーナだった。俺が頷くとニーナは言葉を続ける。
「囚われていた女性は全部で22名。多少怪我をしていた者もおりましたが既に治療済みです。現在は、鎮静効果のある【神聖魔法】を使って落ち着いてもらっています」
随分落ち着いていると思ったらニーナの魔法だったんだな。しかし【神聖魔法】ってそんな効果の魔法もあるんだな。【光魔法】でも同じような事が出来そうな気もするな今度試してみるか。
「次はわたくしの報告ですわ」
そう言ったのはエヴァだが、彼女には女性救出と共にもう一つ頼み事をしていた。
「人身売買の証拠となる帳簿はしっかり確保出来ましたわ。帳簿を見る限り、既に一五〇人近い女性が売られて行ったみたいですけど」
エヴァは腹立たしげな表情を浮かべながら報告を進める。
「ただ、帳簿にはご丁寧にも取引情報の詳細が書かれているから、売られた者の、その後を追う事は全てではないにしろ可能だと思いますわ」
「その点はプロである憲兵に任せるしか無いだろう。一人でも多く家に帰らせてあげらればいいんだけど……」
「そうですわね」
正直全員というのは難しいだろう。ザシャの話では既に二年前からこの人身売買を行なっていたらしい。その頃に売られた者が今何処にいるか探すのは正直難しい。違法奴隷である以上、場合によっては殺されている可能性すらあるからな。
「後、事務所にあった金庫も持ち出してありますわ。レオンハルト様に開けていただきたいのですが」
「分かった。後で開ける。リビングにでも置いといてくれ」
「了解致しましたわ」
実際俺にとって金庫の鍵など何の障害にもならない。開けようと思えば、どんな金庫も鍵の無い箱を開けるのと全く同じくように開ける事が出来る。理由は俺のスキル【解放者】だ。【解放者】はウイの呪いを解呪する為に取得したものだが、呪いの解呪以外にも罠の解除や鍵の開錠などといった能力まで合わせ持っている。その為どんな金庫でも開ける事が出来るのだ。転移と合わせて使ったら俺は世界最高の怪盗になれるんじゃないだろうか? やらないけど、というかお金に困ってないし。
二人の報告を受け終わった俺は、アドルフを引き連れ裏庭の方へと移動する。
「なんかまた大きくなってるな……」
「主がお出かけになられてから約三割ほど巨大化しております」
「……すごいな」
今、俺の目の前には、直径2メートルを超える黒い魔力で出来た巨大な球体があった。これが何かと言うと、ルルが創り出した進化の為の魔力の繭、という事らしい。そう、進化の繭なのだ。最初【ロラ】の話にでは変移といっていたが、あれから突如ルルが魔力の繭を創り出した事で、変移では無く進化する事が確定したらしい。【ロラ】の話では幼体から違う種に進化する事は異例中の異例らしい。おそらく【創造神の加護】と異常成長と相まってあり得ない現象を起こしたのでは、というのが【ロラ】の見解だ。
進化がいつ終わるかは【ロラ】でも予想は難しく、早ければ1時間、遅ければ2、3日掛かる事もあるという事だ。
しかし、この繭の成長を見ていると、進化が終わるのは意外に早いのではと思ってしまう。まあそれはも兎に角、いったいどんな風に進化するか今から楽しみだ。
「引き続きルルの事を頼む。それと救出した女性たちの事も頼むよ」
「確と承りました」
恭しく頭を下げるアドルフを背に俺は新たな作戦に移るため行動を開始した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「またこれは豪勢な家だな」
「それだけ悪どい事をして稼いでいるのでしょう」
「ご主人様も、建てようと思ったらアレくらいの家、建てられるくらいの稼ぎはあるんじゃないかなぁ」
「ティア、レオン様は、真っ当な仕事の正当な報酬を得てお金を稼いでいるのよ。あのような連中と一緒にしないで下さい」
俺たちがこんな雑談をしているのは『黒衣の鬼』のアジト上空。
先ほどの襲撃時と同じように【天駆飛翔】を使い、上空からアジトの状況を窺っていた。
目の前にあるのは白亜の豪邸。ゴテゴテした無数の彫刻と相まって、まるで成金貴族様の邸宅のようじゃないかな。はっきり言って悪趣味だと思う。
さすがに中にいるの構成員の数は、先ほど襲撃した支部とは段違いだ。ざっと【マップ】で確認しただけでも70人はいる。今のところまだ、支部を潰された事には気が付いていないようで、のんびりと夜のひと時を過ごしているようだ。まあその為に一人も逃さず捕縛したのだから当然だな。
さてと、肝心の髭面オヤジはどこにいるかな?
屋敷の中を【マップ】と【千里眼】を駆使して髭面オヤジを探していく。
そして……。いた。あの見たくもない暑苦しい髭面が。
居場所は屋敷の2階、客間らしい部屋で5人の護衛に囲まれ貧乏ゆすりをしながら、爪を噛み苛立ちを露わにしてソファーに座っている。
俺に送ったはずの刺客が全然帰ってこないからだろう。まあうちに捕まってるのだからいつまで待っても帰って来るわけないがな。
さて、これで第一目標の場所は確認出来たわけだが、……あれって隠し部屋だよな。中は執務室と隠し金庫か。これは中々いいものを見つけた。表の執務室と金庫と合わせて、ついでに中の物を回収しておこう。
『ニーナ、エヴァ、聞こえるか?』
『はい、聞こえます』
『わたくしも、聞こえていますわ』
支部襲撃時と同じように、別働隊として待機しているニーナとエヴァに念話を繋げる。
ぶっちゃっけ別働隊と言っても、ニーナたちは転移で屋敷内に飛ぶ予定なので、襲撃開始まで一緒にいても別にいいのだが、こういうのは形から入るのが大事という事で、殆ど意味は無いが別の場所で襲撃の合図を待っている。
『今回の目標である執務室、金庫、髭面オヤジの場所を念話で送る。後、新たに隠し部屋を発見した。そこにも執務室と金庫があるので目標として追加する。確認しておいてくれ』
『はい、確認致しました。問題ございません』
『わたくしも確認致しましたわ。こちらも問題ありませんわ』
『髭面オヤジは危険を察すると逃げる可能性が高い。逃さぬよう注意してくれ。執務室の資料や帳簿も処分される可能性があるので迅速に回収を頼む。5分後に作戦を開始する』
『畏まりました』
『了解致しましたわ』
よし、だいたいこんなもんでいいだろう。建物の裏側には、裏口から逃さないようにウーツゴーレム騎士を3体配置してあるし、表は俺たちが攻め込むわけだし、そうそう取り逃がす事もないだろう。素人レベルの作戦だけどそこは能力でカバーって事で問題ないはずだ。……かなり強引だけど。
「念話の内容は聞こえていたな」
「はい、問題ありません」
「ボクもちゃんと聞いてたよ」
「よし、じゃあ俺たちも配置に着くとするか。何か質問は無いか? 無ければ今回も正々堂々と正面か攻撃を仕掛けるよ」
「大丈夫です」
「ボクもいいよ〜」
二人の返事に俺は一つ小さく頷くと、早速行動を開始した。
白い大理石で造られた悪趣味な門の前に門番が2人。その奥、屋敷の前には見張りと思しき男たちが7人。油断をしているのか、一様に緊張感が無いようだ。もしかしたら今まで襲撃された事など無いのかもしれないな。
「自分たちから襲撃しておいて、反撃があるとは思わないのかね。しかも襲撃した連中がまだ帰って来ていないと言うのに」
「全くです。オリハルコンランク冒険者が相手だというのに油断し過ぎですね」
「多分バカなんだよ。ご主人様を舐めすぎだと思うの、ボク的には」
バカかどうかは兎も角、油断し過ぎというのは確かだろうな。
「まあおかげで、借りを返すのは楽になりそうだけどな。じゃあ行くか」
「はいです」
「は〜い」
暗い夜のスラム街の中、俺の手元から白亜の豪邸に向け紅い閃光が走る。そして僅かに遅れスラム街に響き渡る大きな爆発音。その瞬間闇夜の白亜の豪邸は爆炎の炎で赤々と染まる。
「ご主人様。あそこにいた連中、死んじゃったんじゃないかな?」
「見た目は派手だが威力は抑えてある。大丈夫だ……たぶん」
威力調整を【ロラ】に任せておいたのだが、思いの外すごい爆発で冷や汗がどっと出たのは秘密だ。
「問題無いと思います。それよりもそろそろ参りましょう」
「うん、そ〜だね」
この状況でもウイは、意外と冷静なのね。
「後、自分たちの命は最優先だが、一応出来る限り殺さないようにな」
「はい、大丈夫です」
「もちろんだよ〜」
……まあいいか。
こうして俺たちの反撃作戦第二弾が始まった。
「なんだ、貴様ら!!」
「今の攻撃はお前たちがやったのか!?」
誰何の声を上げたのは門の外にいた為、難を逃れた2人の門番だ。
そんな2人の門番の問に応える事なくウイとティアナは動き、一瞬で門番2人を制圧。ロープで縛り上げてしまって。
このロープ、俺謹製でトロールの筋繊維とウーツ鋼で創った繊維を編んで創った異常に丈夫なロープである。ちなみに俺でも引き千切るのは難しく、オリハルコンランク冒険者でも充分捕縛可能な代物だ。
捕縛が完了すると、俺を先頭に門番の2人をウイとティアナがそのまま引き摺り門の中に入って行く。
門の中は俺が放った『ファイアー・ボール』でちょっとした火事になっていた。屋敷の前には『ファイアー・ボール』の衝撃波で意識を失った見張り要員たちが気持ち良さそうに意識を失っている。
うん、よかった。一応誰も死んでいないようだ。さすが【ロラ】先生、威力調整が絶妙だ。疑って申し訳ないっす。
「カチコミか!?」
「魔法をいきなりぶち込むとはどこのどいつだ!?」
ようやくというか屋敷の前にいた連中を縛り上げていると、屋敷の中から怖そうな人相の男たちがワラワラと次々飛び出してきた。
「貴様ら何者だ!? いや、これは貴様らがやったのか!?」
周りから上がる罵声を制し、高価そうな剣を手にした中年の男がそう大声を上げ一歩前に出てきた。
その偉そうな態度と取り巻きたちから「ジルドさん」と呼ばれているところをみると、おそらくこの男は幹部の一人なんだろう。もしかしたらミスリルランク級の実力者の一人かもしれないな。
「ティアナ」
「何ですか、ご主人様?」
「あの男を一人でやれるか?」
「んー、あの人なら特に問題無いと思うよ」
「よし、じゃああの男はティアナに任せた」
「お〜、了解だよ〜。任されたよ〜」
「ウイ、残りの連中は俺とお前で片付けるぞ」
「はいです。直ちに始末致します」
ジルドという男の相手、俺やウイだと力の差があり過ぎて訓練にもならない。だがティアナであればミスリルランク級の実力者ならそれなりのいい勝負になるのではないか、それなら少しはティアナに実戦経験を積んでもらおう。というのが今回の判断だ。
「おい、貴様ら! 何をコソコソ話している!? 俺は貴様らに何者だと聞いているんだ! すぐに答えろ!!」
おお、さすがは裏社会で生きてるだけあって中々に迫力のある顔だ。
「俺の事が分からないか? 折角お礼に来てやったのに」
「お礼だと?」
「ああ、昼間、あんたのところのザシャって人に世話になったからな」
「ザシャだと……。ま、まさか貴様はオリハルコンランク冒険者の――。誰か! 誰かすぐにガイさんにカーターの奴と揉めている【爆炎】が殴り込んで来たと伝えて来い」
ジルドの言葉に部下の1人が弾かれたように屋敷の中へ走って言った。
しかしここにいる連中、全員冷や汗タラタラだな。まあ一応俺の方がオリハルコンランク冒険者って事で格上になるから、焦るのも無理ないんだろが。
「そう言うわけだからお礼参りに来させてもらった。それじゃ『黒衣の鬼』のみなさん、長話もなんだから早速始めますか」
こうして俺の言葉を合図に戦端は一気に開かれた。
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