第91話 救出戦
ブックマーク&ポイントありがとう御座います。
闇が色濃くなる深夜、俺たちはスラム街の一角を上空から見下ろしていた。
目的はスラムに逃げ込んだ髭面オヤジの確保。そして新たにもう一つ……
髭面オヤジが逃げ込んだ先と言うのが、『黒衣の鬼』と呼ばれるノヴァリスの裏の組織だった。
こういった裏組織は、ある程度の大きさの街ならどこにでもあり、大概冒険者崩れの巣窟となっている。
ちなみに冒険者崩れってのは、素行が悪く冒険者ギルドを除名された者も含まれる。というか殆どだ。
そんな裏組織の『黒衣の鬼』だが、高い能力の冒険者が集まるノヴァリスにあるだけあって、他の街の裏の組織よりも個々の戦闘能力が非常に高いらしい。
特にボスであるガイという男は、かつてオリハルコンランクの冒険者にまでなったほどの男らしく、かなりの戦闘能力を有しているという事だ。
他にもミスリルランク冒険者クラスの構成員が、さっき捕らえた奴ら以外にも4人はいるらしい。さすがノヴァリスの裏組織だとは思うが、しかし高ランクの冒険者崩れ、多くないか?
それで今からその『黒衣の鬼』に襲撃をかけるになったのだが、捕らえた奴らのリーダー、ザシャの情報で、やりたい事がもう一つ増えてしまい、順番的に先にそちらをこなす事にしたのだった。
しかし、【天駆】って便利だな。こうやって空中に立つ事も出来るわけだし。とは言っても、俺たちが人よりMPが多いから言える事なんだろうけどな。並みの冒険者なら、1分も浮いてられないだろうし……
そんな益体も無い事を考えながら見下ろしているのは、スラム街ではあまり見かけることができない、煉瓦造りの大きな建物だった。
「場所といい建物の形といい、ここで間違いないなさそうだな」
「この辺りで煉瓦造りの建物はここしかありませんので、間違いないでしょう」
「これはさすがに間違いようが無いよねー」
俺の呟きに、両隣りに立っていたウイとティアナが同じように建物を見下ろして言う。
俺がここに来た目的。それはこの建物に囚われた人たちの救出だ。
ザシャ――襲撃メンバーのリーダー――の話しだと、ここに囚われている人は、旅人、隊商、さらには近隣の村を襲い攫って来た、うら若き女性ばかりという事だ。目的は悪徳奴隷商に奴隷として売る為らしい。三ヶ月に一度、悪徳奴隷商が行商人としてノヴァリスにやって来るので、その時にまとめて引き渡すらしい。前回引き渡したのがあったのが、今から二ヶ月半ほど前という事で、今、20近い女性が捕まっているという事だった。
「やっぱり正面から行くのですか?」
「勿論だ。作戦通り派手に行かないとな」
俺たちがどれだけ連中の気を引けるかが、今回の救出作戦を安全に成功させる為の肝になって来る。
その為にも別働隊のニーナとエヴァには頑張ってもらわないとな。
『ニーナ、エヴァの両名が指定位置に着きました』
よし、準備が整ったみたいだな。これで、心置き無く暴れれそうだ。
「じゃあ2人共、そろそろ行こうか」
「了解です」
「はいは〜い」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんだ、お前ら?」
突然屋敷に近づいて来た俺たち3人に、1人の見張りの男が怪しげな者を見るように聞いて来た。
まあ、怪しいのは間違いけどな。
「へへへ、もしかしてスラムで迷子になっちまったのか? よかったら後ろの嬢ちゃんたちだけここで泊めてやってもいいぞ。男は要らんから、金目モンだけ置いてさっさとどっか行きな」
もう1人いる見張りが、下卑た笑みを浮かべてウイに近づいて行く。
あれは下手したら死ぬな。出来れば全員生きたまま拘束したいんだが。
「ぶべっ!」
そんな事を考えている間に、ウイに蹴られた見張りはドアに向け飛んで行く。そして、当然というか、見張りはドアをぶち破り建物の中を転がって行った。
あれって死んでないよな? うん、【マップ】で見た限り死んでないな。さすがは落ちぶれても元冒険者ってところか。と言いつつ今のが元冒険者かどうかは知らんが。
しかしこれで派手な殴り込みに成功したかな。狙った訳じゃ無いので少々複雑な気分だけど……
「今の音は何だ⁉︎」
「入口のドアが破壊されているぞ‼︎ 殴り込みか⁉︎」
ドアをぶち破った音を聞いたらしく、奥から次々と人相の悪い男たちが湧いて来た。おそらく『黒衣の鬼』の構成員だろう。
さてと、入り口の外で突っ立っている訳にも行かないし、そろそろ中に入るとするか。
「何だお前たちは⁉︎ これはお前らがやったのか⁉︎」
一番近くにいた男が俺たちに向け高圧的に誰何してくる。
だが、俺たちはそれには答えず無言のまま建物の中にズンズンと入っていく。
「チッ! 貴様ら何のつもり知らんが、後悔させてやる。お前らやれ‼︎」」
後方にいたリーダーらしき男の声がエントランスに響き、俺たちを囲むようにしていた男たちが下卑た笑いを浮かべて動き出す。
「どういうつもり知らんが、女連れで来るとはな」
「後でたっぷり可愛がってやるぜ。ギャハハハ」
「女は多少の怪我はいいが殺すなよ。男はミンチにしてやれ」
こういった連中のセリフって、どいつもこいつも一緒だな。こういうの没個性っていうのかな……
そんな事を考えていると、下っ端どもがいよいよ襲い掛かって来た。
真っ先に襲い掛かって来た男を蹴り飛ばすと、刃引きの剣を片手に敵の密集地に踊り込む。そしてそれに合わせるようにウイとティアナが左右に展開する。一人も逃さない為だ。
「何なだこいつら⁉︎ 強すぎるだろ!」
俺たちに次々と仲間が倒されていく中で悲痛な叫びが聞こえてくる。見れば開戦当初30人近くいた構成員が、追加戦力もあったはずなのに既に10人程まで減っている。ハッキリ言って蹂躙以外の何物でも無いだろ。
「誰か、下行って人質連れてこい!」
下というのはおそらく地下牢の事だろう。ザシャから囚われた女性は全員そこに閉じ込めていると聞いていたし【千里眼】でもそれは確認済みだ。
この建物を襲撃する者があれば、目的はその女性たちの救出とだと思うが普通だ。そうなれば今のリーダーらしき男のように、その捕らえた女性たちを人質にするってことに思い至るのが当たり前だろう。
まあ、当然そんな事はさせない、というかもう出来ないだろうが……
「ガルボさん! 女が、下にいた女どもが誰一人いません!」
「ハァ? 何を言ってやがる!」
「いないんです。本当に誰もいないんですよ!」
「見張りはどうした? 下には最低二人は見張りに付くように言っておいたはずだ!」
「いません。見張り役も含めいなくなってます!」
「そんな……馬鹿な。いったい何が……」
奴らに何が起こっているのか。まあ、当然俺たちの仕業なんだが、俺たちが突撃後、その騒ぎに乗じて【転移魔法】を共有で設定したニーナとエヴァが、地下に飛び見張りを拘束し、囚われた女性たち救出。後は見張り役諸共、再び【転移魔法】で屋敷まで飛んでいるはずだ。人数は多いがニーナたちのMP量なら屋敷まで程度なら問題無いだろう。
これは奴らにとってはまさに寝耳に水の事態のはずだ。。
「クソッ! ガイさんになんて言えば……」
ガルボと呼ばれた男は苦虫を噛み潰したような顔でそう漏らすが、すぐに表情を改め「そっち女に攻撃を集中しろ‼︎ そこを突破口に脱出する!」と、ウイを指差し部下に命令する。
思った以上に立ち直りが早いな。さすがにこの場を任されているだけの事はあるのかな。ただし、今回は相手が悪かったな。
次々に飛び込んで来る男たちを、鈍器となした刃引きの剣でことごとく吹き飛ばして行くウイ。人ってあんなに簡単に飛んでくんだな……というか、アレでも死なないってこいつらやっぱり意外と頑丈なんだな。
そして1分もしないうちに、『黒衣の鬼』の構成員はガルボ1人になっていた。
「貴様らいったい何なんだ⁉︎ こんな事をしてタダで済むと思っているのか⁉︎」
悲壮感を漂わせながらも、ガルボは威勢を張る。
そんなガルボの心を折るように俺は「安心しろ。黒衣の鬼の本拠地も今から襲撃かけるから」と何気ない会話のように伝える。
「なっ!」
「だから大人しく捕まってくれ」
俺がそう言うと同時に、ガルボの腹にウイの蹴りが突き刺さった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価ポイントを頂けると、とても励みになります。




